第35話 男の子ってミニスカサンタコスの女の子好きでしょ
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暗くならないうちから向かったのは前にも行ったショッピングモール。
すっかりクリスマスカラーに染まった街並み。
入ってすぐの場所には色とりどりの装飾が施された大きなクリスマスツリーも立っていて、サンタの着ぐるみを着た人が子どもたちに風船を配っている。
ショッピングモールに来ている人も家族連れか恋人らしき異性の二人組が多く、傍から見れば俺と間宮も含まれていると考えたら複雑な気分だった。
「予定を言われたときから思ってたんだけど、今日はお買い物デート?」
「クリスマスプレゼントとか買えたらって思ったんだよ」
「……買ってくれるの?」
「そんなに高くないやつなら」
手加減してくれよ、と冗談めかして言えば、「一番いいのを選ばないとね」と嬉しそうに微笑みながらの返事があった。
残念ながら俺には間宮の欲しそうなものはわからなかったため、もういっそ本人に選んでもらった方がいいだろうと考えてのこと。
「でも、クリスマスプレゼントかあ……小学生以来とかかも」
「そんなに?」
「私の場合、中学校に入る前くらいに親が離婚してたからさ。あ、そんな深刻な風に聞かないでね? 私は気にしてないし、もう慣れたから」
話しながら左右に広がる店へ視線を巡らせる間宮。
横顔に悲壮感などはなく、ただ純粋に今を楽しんでいるように見える。
「アキトくん、あのお店見ていい?」
隣で間宮が指差したのは雑貨屋。
そこに二人で入り、ゆったりとした足取りで見て回る。
雑貨屋というだけあって、置いてあるものの幅は広い。
店先に飾られている他ではあまり見ないような柄のTシャツ、外国のお菓子、激辛系の食品などなど、なんとも言えないラインナップは普段からあるものだったはず。
ほんのりと甘い匂いを漂わせるのはアロマだろうか。
流れているのはクリスマスらしい曲。
商機を見逃さないようにと置いてあるクリスマス関係の品々が、目を引くポップと一緒に並べられている。
クリスマスカラーの雑貨、小さなサンタクロースが閉じ込められたスノードーム、机に置けるようなサイズのクリスマスツリー。
中にはスカート丈の際どいサンタクロースのコスプレ衣装も売られていた。
「ねえねえこれ可愛いんじゃない?」
そして、どうしてか間宮は真っ先にそのコスプレ衣装を指さして言い、手に取って軽く体に当てて見せる。
もしもそのコスプレ衣装を普通に着ていたらと考えて、絶対に碌でもないことにしかならないだろうと瞬時に結論が下された。
「欲しいのか?」
「これを着て写真撮影っていうのもクリスマスっぽくていいかなとは思ったけど。男の子ってミニスカサンタコスの女の子好きでしょ」
「一般論的にはそうかもな」
「アキトくん的には?」
「……心臓に悪いからやめてくれ」
そっかそっか、と間宮は満足そうに笑いながらコスプレ衣装をあった場所に戻す。
俺は胸を撫でおろしつつ目で追って――別に惜しいとか思ってないぞ。
非常に不本意ながら普段の撮影で間宮の下着は何度も目撃している訳で、あのコスプレ衣装くらいの露出度合であれば耐えられるレベルだ。
……まあ、問題はそれを着たまま色々見せようとしてくる間宮の行動にあるのだが、それはそれ。
「いざこうやって色々並んでる中から選ぶとなると目移りしちゃうよね。全部良いものに見えちゃうし、アキトくんが私のために買ってくれるものなら何でも嬉しいもん」
「……深い意味はないからな」
「わかってるよ。アキトくんはまだ返事をしてないわけだし。でもさ……そうだったらいいなって期待はしちゃうの」
眉を下げて笑いながら呟く間宮のそれに、胸の奥がちくりと痛む。
期待させているだけ、という今の状況が、どれだけ間宮に負担を強いているかを考えると心苦しいものがある。
俺の気持ちとしては、間宮のことを嫌いだと断ずることはあり得ないほどに好感を持っていて、けれど好きと呼ぶには淡すぎる何歩も手前の状態。
だというのに、間宮はあの日から変わることなく好きであり続けてくれて――どうにかして応えたい思いは間違いなくある。
「……アキトくん、私あれがいいかも」
変わらずに店内を見て回っていた間宮が突然、控えめな主張と共に指を指したのはサンタ帽をかぶったテディベア。
間宮のイメージからは離れていると言わざるを得ないテディベアのつぶらな瞳が、じーっと俺たちを見つめている気がした。
「アキトくん、今私のことを子どもっぽいとか思ったでしょ」
「……子どもっぽいかはともかく意外ではあったな。間宮のことだからもっと実用的なものを選ぶものと」
「…………まあ、自分でもわかってるからいいけどさ。私ね、テディベア好きなの。テディベアに限らずぬいぐるみとかも結構好き。枕元に置いてると寂しい気持ちが紛らわせる気がしてね」
「笑う気はないよ。いいんじゃないか? 誰に迷惑をかけるわけでもないし」
「そう言って貰えると気持ち的には助かるかな。そういうわけで、いい?」
再度聞いてくる間宮に頷いて見せれば、やったとあどけない笑みが溢れた。
間宮は両手を伸ばしてテディベアを手に取り、感触を確かめるように胸の前で抱き留める。
穏やかな表情。
今にも頬ずりをしそうな様子の間宮だったが、ここが家ではなく店内なのを思い出したのか周囲をきょろきょろと確認して安堵の息を吐く。
「そんなに嬉しかったんだな」
「……だって、初めてアキトくんから貰ったプレゼントだし」
「喜んでもらえたなら何よりだよ。それ、枕元に置いておくのか?」
「寂しくなったらこのテディベアをアキトくんだと思いながら抱いて寝るかもね」
「…………どう使うかは人それぞれだから構わないけどさ」
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