第33話 滅べばいいのに
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「……アカ姉、ちょっといい?」
夜。
珍しく日本酒を飲みながらテレビを見ていたアカ姉に意を決して声をかけると、「どしたの?」と軽い調子の返事があった。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「アキが私を頼るなんて……いいわよ何でも言って50万くらいまでなら出す」
「妙に具体的な数字持ち出すのやめない? って、そうじゃなくて。……その、さ。クリスマスに行くおすすめの場所とか、わかる?」
途轍もない聞きにくさをを感じつつも口にすれば、初めはにこやかだったアカ姉の顔の笑みがさらに深くなる。
まるで新しいおもちゃを見つけたかのような視線に自然と身を引いてしまうも、相談した手前なんとかその場に留まった。
「――お相手はユウちゃん?」
「…………だったら?」
「いやあ、遂にアキにも春が来たんだなあと思うと私は嬉しいよ。ユウちゃんなら安心だからね。ところでいつ付き合ったの?」
「いや、付き合ってないけど」
真顔で言えばアカ姉が今度は苦い顔に変わる。
「……付き合ってないの? クリスマスデートに誘おうとしてるのに?」
「残念ながら初めに誘ってきたのは間宮なんだよ。後でこっちから改めて誘うつもりではあるんだけど。あと、デートじゃない。ただ出かけるだけ」
「クリスマスに男女二人で出かけておいてそれは無理があるでしょ……」
呆れたように息を吐き出すアカ姉。
俺もそう思うけどさ……実際間宮と付き合っている訳ではないし。
その一方で好意を寄せられていることも知っていて、だからクリスマスなんて特別な日に誘われているのだとも理解はしている。
しているけど……だからこそ認めるのはちょっとだけ抵抗があるのだ。
まだ間宮に対してちゃんとした返事を出来る自信はない。
それでも、心の片隅には、その想いに応えたいという肯定的な感情があることも認めよう。
ただし、それが恋愛感情によるものなのかは別問題。
想いに応えたいと考えることと、俺が間宮を好きであることは似て非なるもの。
根本的な原因である女性不信は治っていないのだから。
「でもまあ、アキにはそれくらいのスピードがいいのかもね。いきなりチュッチュしてても壊れちゃったのかなって思うだろうし」
「……しないからな? 間宮は友達だ」
「わかってるわよ。でもね、女の子って時に自分が欲しいものを手に入れるには手段を選ばないの」
「つまり?」
どういうことかと聞き返せば、アカ姉は嬉々とした表情で口を開いて、
「クリスマスにユウちゃんと二人きりでお出かけでしょ? 知らないかもしれないけど、クリスマスには性の六時間ってものがあって――」
「弟になんてこと言ってんの??」
「だって……ねえ? 思春期真っ盛りの男女が二人でいたらそうなっても世間的にはおかしくないのよ? というか、クリスマスにデートをするようなリア充たちは軒並みそうなっていると断言していい。滅べばいいのに」
吐き捨てるように言い残してアカ姉はグラスに残っていた日本酒を一気飲みする。
俺はというとアカ姉から言われたあり得ない未来の姿を少しだけ考えてしまい、そんなわけないと首を振った。
馬鹿か、俺は。
あの間宮がそんなことを考えているはずがない。
そんな思考を残したまま間宮と出かけるとか失礼にもほどがある。
どうにか当日までには綺麗さっぱり忘れておこうと心に固く決めていると、
「そうそう、アキ。もしもユウちゃんと
「…………まず間宮とそういうことをするつもりはないから。そもそも付き合ってもいないのにそれはダメでしょ」
間髪入れずに否定を返せば安心したようにアカ姉の目元が僅かに緩む。
それが大事なのはわかるけどさ……順番みたいなものがあるんじゃないかと思うわけで。
間違っても高校生なら付き合う前からそんな関係にはならないと思う。
「一応姉として言っておいただけだからね。ま、アキの状態的に無理なのはわかってるけど、相手がユウちゃんならわからないかなーって思っただけ。紳士なアキから言い出すことはないだろうけど、ユウちゃんはどうだろうね。ああいう子って結構積極的だったりするのよ?」
心当たりのありすぎる指摘を受けて静かに喉が詰まった。
前者の方に関してもそうだけど、後者を否定する材料は今のところ俺にはない。
なんたって間宮は承認欲求を満たすために裏アカを始め、それを目撃した俺の口を封じるために躊躇いなく胸を触らせ、過激な写真を撮らせるような強すぎるメンタリティの持ち主。
この間の勉強会が始まる前だってあんなことをしていたわけだし……間宮が押してくる様子は簡単に想像できる。
「それで、デートプランを考えて欲しいんだっけか?」
「違う……けど、まあ、そんな感じ」
「仕方ない。ここは姉としてユウちゃんのために一肌脱ぐとしましょうかね!」
「俺のためじゃないの??」
「細かいことはいいのよ。任せなさい。完璧なデートプランを考えてあげるから」
不敵に笑うアカ姉のそれに、俺は『相談する相手間違えたなあ』とそこはかとない不安と後悔を感じるのだった。
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