第32話 クリスマスは誰かと過ごしたいですよね

早いところではもう発売されていますが、GA文庫より5月15日頃『優等生のウラのカオ~実は裏アカ女子だった隣の席の美少女と放課後二人きり~』第一巻発売です!!


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「終わっちゃったね、二学期」


 誰もいなくなった昼下がりの教室で、窓辺から外を眺めていた間宮が振り返りつつ声を投げた。

 今日は終業式が行われて昼過ぎの下校となっているため、部活動の声も聞こえない。


 そして、明日からは晴れて冬休みが始まる。


「そうだなあ……なんかあっという間だった気がする」

「アキトくんとこんな関係になってから二か月……長いようで短かったかも」

「最近は大変だったからな。まあ、噂の方は水瀬先輩の方が勘違いだったってことで鎮まってきたし」


 数日前、俺と間宮が付き合っているという噂は、言い出した張本人である水瀬先輩が勘違いだったと否定したことで徐々に鎮静化している。

 俺としてはやっと平穏な学校生活が戻ってきたことに安堵していた。


「明日からは毎日会えなくなっちゃうって考えたら、ちょっと寂しいかも」

「……休み中、暇な日は付き合ってやる」

「毎日誘うから」

「毎日はやめてくれ」

「だって冬休みだよ? 課題だけじゃ味気なくない? ましてやアキトくんの顔を見られないのは精神衛生上良くないよ?」


 俺からマイナスイオンでも出ているのだろうか。


 間宮と顔を合わせなくなるのは俺も少しだけ……ほんの少しだけ寂しさはあるけど、スマホ一つで連絡が取れる時代だし、家も近いから会おうと思えばすぐに顔が見られる。


 多分、冬休みの課題でわからないところを聞いたら「じゃあ今から家行って教えるから」みたいなノリでインターホンが押されそうだ。

 間宮に教えてもらえるなら効率という面ではいいのかもしれないけど、その場合は色々と覚悟しなければならないだろう。


 同じ部屋に意図的か無意識かわからずとも無防備な間宮がいては集中力が削がれてしまうし、何より俺に意識させようとしているのが余計に良くない。


「それはそうと、さ。冬休み、どこかのタイミングでいいからアキトくんと一緒にお出かけしたいな……なんて」

「……まあ、いいけど」


 頬を赤らめながら照れ隠しのつもりか視線を合わせないまま口にした間宮に対して、不覚にも可愛いと思ってしまったのは顔に出さないようにして返事をした。


 元々関わるはずのなかった異性である間宮が日常に溶け込んでいながら、それを当たり前のように受け入れてしまっている現状に違和感を抱いてしまう。

 それでも一緒にいられるのは俺自身が間宮を信用していて、逆も同じだからだろう。


「このままどっかでお昼も食べていかない?」

「いいけどどこ行く?」

「少し歩くことになるけどラーメンとかは? 寒いからあったかいのが食べたい」

「……他の人に見られるんじゃないか」

「そのときは噂が止んだからお詫びも兼ねてのお食事会ってことにしよっか」


 ……それはそれであらぬ誤解を生みそうだけど、していることは一緒に食事をしているだけだから大丈夫か。


 行先も決まったところで帰りの支度をする。

 冬休み中に学校に教科書などを取りに戻らなくてもいいように忘れ物のチェックを済ませたところでリュックを背負えば、もう見慣れた黒いコートを羽織った間宮が教室の扉のところで手招いていて、


「それじゃ、いこっか」

「ああ」


 今日も、いつものように二人きりで帰るのだった。



 二人で歩く帰り道。

 十二月も半分以上が過ぎて、コートの隙間からも冷たい空気が入り込んでくるようになり、吐く息も昼間なのに白く曇っている。

 並木からは綺麗に葉が落ちていて、景観的に殺風景となった枝が風に揺れていた。


 周囲にはちらほらと同じ制服を着た生徒の姿が見られ、噂のこともあってか俺と間宮の方へと意味ありげな視線を向けてくる。

 だが、あえてそれらを無視し、二人で並んだまま歩く。


「……やっぱり見られてないか」

「そうかもしれませんね」

「気のせいだと否定して欲しかったのわかってるよな」

「こうしておいた方がいざという時に外堀が埋めやすいですし」


 微妙な顔になってしまう俺とは正反対に、嬉しそうに目を細める間宮。

 それが意味する意図を察せないわけがない。


「……いつかはっきりさせる」

「いつか、ではなく今すぐに、の方が私は嬉しいですけど。時期も時期ですし」

「時期?」

「――クリスマスは誰かと過ごしたいですよね」


 隣で囁かれる一言に内心「あぁ……」と唸ってしまう。


 十二月の一番大きなイベントごとと言えばクリスマス。

 一部の人たちは恋人と過ごすらしい特別な日。


 要するに、そういう関係になりたいと思われているわけで。


「……イブか当日。どっちかくらいなら、合わせる」

「そうですか。楽しみにしていていいんですよね?」

「過度な期待はしないでくれ」

「構いませんよ。アキトくんと特別な日に一緒にいられるのなら、それだけで楽しいですから」

「…………」

「それに、一人で過ごすクリスマスはちょっとだけ寂しいので」


 儚げとも取れる笑み。

 一人に慣れていても、寂しさを感じない理由にはならない。


 間宮のメンタルがそこまで強くないことは知っている。

 学校で見せている姿ほど完璧ではなく、普通に泣いて笑って怒る年相応の少女らしさも持っている。


 それにしたってクリスマスか……あんまり考えないようにしていたけど、状況だけ見ればデートと取られても不思議じゃない状況だよな?


 ……安請負するんじゃなかった。

 今からもう胃が痛い。


「行先の相談には乗りますから。そうやって話すことも特別な時間を彩る材料の一つになります」

「……助かる」


 困らせているのは間宮の方では? という疑問があったものの、言ってどうにもならないなと感じた俺は言葉を呑み込んで歩き続けるのだった。

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