第25話 なんで??
『……今回の噂、どう思う?』
「誰かの勘違いだろ……って言えたらよかったんだけど、二人で手を繋いで歩いてたときの写真が撮られてSNSで回されていたらしい」
『みたいだね。付き合ってるまで繋がるのは飛躍しすぎだと思うけど……そう誤解させたかった誰かがいるんじゃないかな』
「悪意を持ってこんなデマを流してる人がいる、と?」
『うん』
ナツから『俺と間宮が付き合っている』なんて根も葉もないデマが学校に広がっているという話を聞いた夜、二人で通話しながら噂について議論を交わしていた。
しかもいつのものかわからないが、俺と間宮が手を繋いで歩く姿を後ろから撮った写真があり、そのせいでデマの信憑性が増している。
俺も間宮も迂闊だったと言えばその通りだけど、手を繋いでいたから付き合っている……なんて関係性に繋げるのは正直どうかと思う。
事情があるのかもしれないし、そもそも友達同士で手を繋ぐこともある……はず。
相手が異性となると珍しいかもしれないけどさ。
その相手も問題だった。
浮いた話を頑なに聞かなかった優等生、間宮と目立つところのない普通の男子生徒である俺。
このミスマッチ感は誰もが感じるだろうし、それゆえに人の目もひきつけやすい。
そんな二人が仲良さげに手を繋いで歩いていれば――付き合っているんじゃないかなんて憶測を巡らせることは簡単だろう。
「俺も間宮だけじゃなくナツと多々良も知り合いには噂を否定してくれているみたいだけど……」
『多分、あんまり効果ないよね。みんな信じたいものを信じるから。付き合ってるのと付き合ってないの、どっちが面白いかって聞かれたら……まあ、そうなるよね』
諦めたように画面の向こうで間宮が息を吐く。
俺も間宮もわかりきっていたことだ。
たとえ付き合っているなんて事実がなくても、そう見えたこと自体が問題。
学年を問わずに好意を向けられる間宮に彼氏がいた――なんてなれば、これまで振られた人はどうやっても気になるだろう。
そうでなくともあの間宮に浮いた話があるとなれば、そこを突いて崩したい……なんて考える良くない人もいるはず。
内海の件でわかっていたつもりだったが、今回改めて再認識させられた。
「で、どうするんだ?」
『どうするもなにも、噂は噂。私たちが付き合っているなんて事実はないし……ないし』
「……なんかごめん」
『気にしないで。いずれこうなっていただろうし。それよりも――私たちが対処するべきなのは、この噂の出どころについてだよ』
それはその通りだ。
ナツが言うには、噂が広まっていたのはSNSらしい。
身内での話題が徐々に外側にまで広がって、今日のようなことになった。
『こんな噂を流して得をする人って誰? 私にはアキトくんと偶然手を繋いでいるところを押さえたから、それででっち上げたようにしか見えない』
「男の方は誰でもよかったってことか」
『そう。それもそれで腹が立つね。もしも本当に彼氏だったら、そんな相手のことを誰でもいいなんて思ってるはずがないのに』
電話越しに聞こえてくる声には怒りと呼ぶべき感情が滲んでいた。
『とにかく、こんな噂を真に受ける必要はないよ。アキトくんは普段通りにしていればいいから』
「登下校はどうするんだ」
『そこなんだけど……変える必要はないと思う。このタイミングで一緒に帰らなくなったら、それこそ噂を肯定している材料として取られかねないから。どっちにしろ都合のいい解釈をされるだろうし』
それはそうかもしれない。
噂を流している相手が俺と間宮に対する悪意を持っていたとするなら、視点が固定されている以上、どんな抵抗をしたところで届かない。
一緒に帰っていたのなら「やっぱり付き合っているんだ」となり、一緒に帰らなくなれば「噂が本当だったから誤魔化しているんだ」となる。
……本当にしょうもない。
もう高校生だぞ? 頼むから大人になってくれ。
嫌がらせ以上の意味はないし、それが目的なのだろうから手に負えない。
『だって、そもそも私とアキトくんは大変不本意ながらまだ友達なわけだし、噂は事実として嘘になるから私たちが逃げ腰になる必要もないよね』
「前半部分に棘があるように感じるのは気のせい?」
『気のせいだよ。アキトくんも過度に気にする必要はないから。この手の噂はそのうち落ち着くだろうし、私も聞かれたらちゃんと『違う』って答えるから安心して。こんなことで既成事実を作ろうとか全くこれっぽっちも考えてないから』
「最後のがなければ安心できたんだけどなあ」
『しょうがないじゃん本当に好きなんだもん』
だもん、ってなあ……いやまあ仕方ないのはそうかもしれないけどさ。
「ユウこそ一人で抱え込まないでくれよ。何かあったらすぐ相談すること」
『うん。前までならともかく、今は独りじゃないから……大丈夫。アキトくんこそ、変なこと言われてもカッとなったりしないでよ? 私の告白への答えを後回しにしてるくせに、アキトくんって私のこと好きすぎだし』
「……わかってるよ」
内海のときの記憶を思い出しながら苦々しく返す。
わかってるとは言ったものの、噂を流している人が間宮のことを貶していたりしたら……耐えられるかはわからない。
過去の傷を掘り返す行為を見て見ぬことは出来ないだろう。
「ユウもだからな。俺がバカにされてても変なこと言うなよ?」
『無理。私の今の一番はアキトくんだから。なるべく抑えようとは思うけど、それでアキトくんに危害が加えられるくらいなら優等生なんて今すぐやめるし』
間宮の言葉に秘められた意志は固く、俺が何を言っても曲げることはないと理解してしまった。
同時に、入学から今までで築いてきた優等生という立場を捨ててもいいと思っているくらい俺のことを好きだと想ってくれていることに嬉しさを感じてしまって――しばらく言葉を返すことが出来ない。
『そういうことだから、私たちは今まで通り過ごすの。誰に聞かれても違うってちゃんと否定する。それだけ徹底ね』
「賛成。ただ、登下校はいいとして……流石に放課後はなしにした方が良くないか? バレたらとうとう言い訳できないし」
『そうだね。私よりもアキトくんに迷惑がかかっちゃうから、噂話が収束するまでは我慢かなあ。残念だね、私のパンツ見れなくて』
「正直ホッとしてる」
『……今度お風呂上がりの写真とか送るからそのつもりでね』
「なんで??」
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