第21話 友達です
「そろそろ三時だし休憩するか?」
時間を見つつ俺が声をかけると、他の三人もテキストから目を離した。
「はああ……もうそんな時間か?」
「集中してたからか気づかなかったよ~」
「皆さんお疲れ様です。よく頑張りましたね」
疲労感を滲ませるナツと多々良とは対照的に間宮は至って平然としていて、薄っすらと微笑みすら浮かべていた。
普段からちゃんと勉強をしている人は違うなあ、なんて考えながら席を立つ。
「アキト?」
「三時だからな。息抜きも必要だろ?」
言って向かう先はキッチン。
冷蔵庫から麦茶のボトルとアカ姉に勉強会をするからと話したら買ってきたイチゴ大福をもってリビングに帰る。
「まあ、こういうことだ。食べるか?」
「さっすがアキトだな。飴と鞭の使い方をわかってらっしゃる」
「イチゴ大福! それ駅前の美味しいとこのやつじゃない?」
「多々良は知ってるのか。礼は姉に言ってくれ」
「そういうことでしたら私もいただきます」
全員の前にイチゴ大福を配ってコップに麦茶を注ぎ直し、三時のおやつ休憩を挟むこととなった。
「んで、二人はどんな感じだ?」
「間宮とアキトのお陰でなんとかって感じだな。今回の期末は点数上がりそうだ」
「というか、上がらないと二人に悪いからね」
「そうだぞ。俺はともかく、協力してくれてる間宮のためにもいい点とってくれ」
「お二人なら大丈夫ですよ。見ていた限り覚えも良かったですし、要点さえ押さえればじゅうぶんに点数を取れるかと」
二人を励ましてから、慎ましくイチゴ大福を一口。
緩んだ頬が間宮の口にも合ったことを教えてくれたが「美味しいですね」と言葉でも表してくれる。
ナツと多々良は間宮の言葉に気を良くしたのか笑みを見せつつ、それぞれイチゴ大福に口をつけた。
俺も食べてみれば、甘さ控えめのこしあんとイチゴの甘味と僅かな酸味が混ざり合った絶妙な美味しさで、勉強の疲れを癒してくれるようだった。
甘い余韻をじゅうぶんに楽しんでから麦茶で喉を潤し、また一口。
この調子だとすぐになくなってしまいそうだな。
「いや~美味かったな、このイチゴ大福。駅前だっけか。今後俺も買いに行ってみようかな」
「ヒカリも行きたいかも」
「甘さが控えめでとても食べやすいですね」
「これはアカ姉に感謝だな」
ものの数口で食べ終えてしまったナツを初めとして、間宮と多々良にも好評のようで、和やかな雰囲気に変わりつつあった。
「それにしても、ほんとアキトと間宮に教えてもらえることになって助かった。ありがとう。正直、今回の期末は覚悟してたからな……」
「そうだね。あんまり酷いと冬休みに補修だし」
「……そんなにヤバかったのか?」
「甘く見積もって五分五分ってとこだな」
それは絶対に良い方向に甘く見積もっているやつだろ。
こういうときのナツを信用してはいけない。
最終的には「いい点とれるかどうかなんて確率的には半分だろ!?」とか頭の悪いことを言い出すんだ、俺は知ってる。
とはいえ、今日の様子を見ている限り本気でどうにかしようとしているのは伝わってきているので、可能な範囲で力になりたいとは思う。
「……間宮も悪いな、こんなことに付き合わせて」
「いえ、気にしないでください。私はとても楽しいですよ。前も言ったように誰かに教えることで自分の課題も見えてきますし、定着する部分もありますから」
「それならいいんだけど……って、教わってる立場の俺が言うことじゃないか」
なんだかんだで俺も間宮に教えてもらっている。
ここに集まっている四人の中ではトップとなるのが間宮だから自然な流れではあるけれど、負担を強いていないか心配だった。
「そいえば、アキトと間宮って結局どんな関係なんだ? 前に聞いたときは色々あって知り合いだ――みたいなこと言ってた気がするけど」
ふと、思い出したかのようにナツが聞いてくる。
「結局も何もただの友達だな。席が隣でちょっと話すことがあったってだけ」
「そうですよ。藍坂くんは友達です」
ちらりとこちらを見てくる間宮。
表情こそ普通だが、瞳の奥には友達に向けない感情が宿っている。
顔色を変えないように意識して、
「これで満足か?」
「うーん……なーんか違う気がするんだよな。ひぃちゃんはどう思う?」
「
「ヒカリさん……からかうのはやめてください。私と藍坂くんはそういう関係ではありませんし、何より藍坂くんの迷惑ですから」
本当にそう思っているなら不満そうな目をやめてくれませんか。
俺の迷惑ってとこで自滅するのもやめてくれ。
でも……そうやって凹んでくれることが俺を好きな裏返しで。
「……俺なんかと付き合ってるなんて思われたら間宮の方が大変だから、二人とも教室でこの話題を出さないでくれよ」
「わかってるよ。好き好んで友達を売るような真似はしないって」
「うん! ユウちゃんは人気だからね。もしアキくんと付き合ってるなんて噂が流れたら暴動が起きかねないよ。あ、これは決してアキくんを悪く言ってるわけじゃなくて――」
「あーうん、わかってる」
おろおろと俺を褒め称えるような言葉を並べ始める多々良。
だが、俺が気にしていたのは暴動が起きかねないという部分。
女子の目線からしてもそう見えるんだな……本当に秘密がバレないように気を付けないと。
後ろから刺されかねない学校生活とか本当に嫌だ。
「……もうじゅうぶん休んだだろ。第二部始めるか」
全員のイチゴ大福がなくなったのを見計らってそう言えば、ナツと多々良は少しだけげんなりとした雰囲気を漂わせつつも頷いた。
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