第11話 こういうときの女の子は強いんだから


 間宮の要望に沿って、まずはゲームでもしようかという流れになった。


「間宮はこういうの、やったことあるのか?」

「……もしかしてバカにされてる?」

「いや、そうじゃなくて。やったことなさそうだし。イメージ的に」


 良くも悪くも間宮がゲームをしている姿が想像できない。

 勉強とか、本を読んでいる方がよほど似合っている。


「あんまりやらないけど家にもあるよ?」

「話が早いな。どれにする?」

「うーん……アキトくんの好きなのでいいんじゃない?」

「好きなの、ねえ」


 しばし考え、選んだのは誰もが知る国民的レースゲーム。

 宇宙に作られたサーキットを飛行機で駆け抜けるという、シンプルながら奥の深いゲームだ。

 これなら初心者でも楽しめるだろうし、操作も簡単だからすぐに覚えられる。


「あ、それやったことある。でも、それかあ……」

「何か問題があるのか?」

「……私、身体も傾いちゃうんだよね」

「あー……わかる。よくいるよね、カーブのときに必要ないのに身体も傾く人」

「アキトくんはどうなの?」

「俺は……大丈夫になった。だから笑ったりしないぞ」


 先んじて伝えておけば、間宮は難しい表情のまま頷いて見せる。

 一人のときならまだしも、誰かに見られるのはちょっと恥ずかしいよな。

 俺も昔はよくアカ姉に笑われたものだ……しかも一切手加減なしで大人げない。


 そんな環境で育ったので、ゲームはそこそこ出来る方だったりする。


 手早く電源を入れて間宮にコントローラーを渡し、起動音から数秒経ってモニターにゲームの映像が表示される。

『ひゃっほう~っ!』なんて楽しげな髭男の声。

 表示されたメニュー画面から、コンピューターキャラも交えての対戦を選択。


「キャラはどうしようかな」

「私はスタープリンセスね」


 間宮が迷いなく選んだのは星系のお姫様……という設定の女の子。

 水色にカラーリングされた高級車のような機体がスタープリンセスの専用機だ。

 性能は速度重視の重量級。

 正直、扱いが難しいキャラではあると思う。


 キャラクターの性能が変わるものとしては専用機があるくらいだから、特に有利不利は生まれない。

 それでも強いキャラと機体の組み合わせはあるけどね。


 俺はコミカルな骸骨のキャラクター……キャロを選択。

 機体もイメージに合わせて骨で組まれたものだ。

 性能は加速寄りの中量級だから、間宮にぶつかられたら大きく体勢を崩してしまう。


「コースは選んでいいぞ」

「そう? じゃあ……ここ」

「スターリーロード? なんでまたそんな落下し放題の難しいコース?」

「私ここ好きなんだよね。大体当たったら落ちていくから、それが面白くて」

「思ったより理由が酷かった」


 まさかの当たり屋だった。


 というのも、スターリーロードは宇宙空間に作られたコースを走るのだが、落下防止の柵が外側にないため、押されると簡単に落下してしまう。

 間宮が扱う機体は重量級……完全に狙っている。


 しかもそれを楽しみにしてるって……やっぱり性格悪いと思う。

 ゲームは性格悪い方が強いってよく言われるけどさ。


 そんなこんなでゲームが始まり、ファンファーレと共にスターリーロードへと画面が切り替わる。


「ねえ、普通に勝負するのじゃあ面白くないし、何か賭けない?」

「随分な自信だな」

「まあ、自信はないわけじゃないかな。アキトくんもでしょ」

「結構やってるゲームだから負けるとは思ってないけど……何を賭ける気だよ」

「小さなお願いを一個だけ叶えてもらう。ミソなのは『小さな』ってところ」


 ……なるほど、小さなお願い・・・・・・ね。


 探るように間宮の顔色を窺えば、どうにも薄い笑みを浮かべているのみで情報が少ない。

 こういうときの間宮は大抵碌でもないことを考えていると経験則でわかっている。


 だからこその警戒だったが……本心を常に隠して生活してきた間宮に敵うはずもない。


 でもまあ、普通にゲームするよりも面白そうではある。

『小さなお願い』の基準は人によって曖昧だろうし、実際は口にしてから判断することになるだろうから、よっぽどのことは要求できないしされないはず。


「いいよ、それで。負けても文句言うなよ?」

「わかってるって。アキトくんこそ油断しないでね? ――こういうときの女の子は強いんだから」


 にい、と僅かに口角を上げつつ間宮が口にして。

 どうしてかわからない震えを感じつつも、気のせいだと切り捨てて画面へと意識を集中する。


 コントローラーを握る感覚はいつもと同じ。

 二分割された画面の上が俺のキャラで、少しだけ窮屈な感じはあるけれど問題はない。


 画面上部に現れる『3』というスタートまでのカウント。

 それが『2』、『1』と続いたところでアクセルを入れ――スタートの合図と同時に星を散りばめたようなコースへと飛び出した。

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