第12話 あまり俺を無礼《なめ》るなよ……?
スタートダッシュは俺も間宮もほぼ同時。
数体の機体と速度を競うように星色のコースを走り始める。
このコースで重要なのは何よりも落ちないこと。
特に妨害系のアイテムを食らったらスタンして走りが止まってしまい、その隙に後ろから押し出されてコース外へ落下……なんてことが良く起こる。
だから後ろの動向にも気を遣って走らなければならないのだが――とりあえずは前方集団を走ることにした。
順位としては12人中の3位。
間宮もすぐ後ろをつけていて、隙ができれば俺を落とすべく虎視眈々と狙っている。
「見え見えすぎるだろ」
「これが愛の力ってことかな」
「物理的なのはちょっと……」
「そうしなきゃ伝わらないこともあるし」
なんて言いつつ、間宮は俺に妨害アイテムの流れ星を投げてきた。
ピヨピヨピヨ――なんて可愛らしい音と共に機体へ迫ったそれを事前に察知していたため、横に移動することで難なく避ける。
「どうして避けるの?」
「避けるだろそりゃあ」
だって当たったらそこにぶつかって来て落とされるんだろ?
負けたら『小さなお願い』とやらを要求されるのだから手加減できるわけがない。
そうじゃなくても見え見えの攻撃を避けられないようではアカ姉とは勝負にすらならないのだ。
そんな調子でレースは進み、二周終えたところで俺は一位、間宮が二位につけていた。
間宮の妨害を華麗にかわし、時に他のキャラに押し付けることでなんとか無傷を保っている。
「こういうのって女の子に花を持たせようとしないの?」
「正々堂々の勝負だろ。自分からまけてやるほどの義理はないな」
「そっか。じゃあ……しょうがないか」
はあ、と小さなため息。
なんとなく、間宮の雰囲気が変わったことを察知して画面に集中していると、目の前にカーブが差し掛かった。
それをドリフトで曲がっていると、後ろを間宮も同じように曲がって――
「っ、おいっ」
「あ、ごめーん。ついつい身体が傾いちゃってさ」
カーブにつられて倒れてきた間宮が悪びれなく俺に凭れかかってくる。
押し付けられるようになっているニットに包まれた間宮の胸の柔らかさがこれでもかと伝わってきて――思考が急に揺らいでしまう。
しかも、どういうわけかカーブが終わっても間宮は俺に凭れかかったまま動かず、レースを続行していた。
「頼むから離れてくれっ……!」
「えー? だって、こうしてたらカーブのたびに身体が曲がらなくて済むし、アキトくんに精神攻撃できるし一石二鳥じゃん?」
「絶対最後がメインだろっ!?」
「まあね。勝つためには手段を選んでいられないし」
上目遣いに間宮が俺を見上げてくる。
男子諸君ならば勘違いしそうになる甘い視線も、今は悪魔の眼差しにしか感じられない。
集中力が削がれていくのが自分でもよく分かった。
意識しないようにしていても、間宮が身じろぐたびに押し付けられる胸の形が少しずつ変わって、非常に悩ましい感触を否応なしに示してくる。
それは、女性に対する免疫のない俺に取っては猛毒に近しいもので。
冷や汗をかきつつも、どうにか残り数十秒もすれば決着のつくレースに集中しようと長く息を吐きだした。
「……こんなので負けないからな」
「そう? じゃあもっとくっついてもいいよね」
「は?」
あ、選択肢ミスった。
素っ頓狂な声を出しつつも画面からは目を離せずにいると、さらに間宮が近付いてきて密着度が増す。
左腕が柔らかい二つの膨らみに挟まれて、耳にかかる温かな吐息に反応して背筋に震えが走り、一瞬思考が完全に飛んでしまう。
それと同時に、後ろをぴったりとつけてきていた間宮が加速アイテムを使って、
「えいっ」
可愛げのある掛け声と共に衝突され、俺が操る機体が大きく吹き飛ばされ――コースの外に落下してしまう。
まずい。
ここで追い越されると逆転が本当に厳しい。
残りは最終コーナーと直線だけ。
巻き返せるか? いや、やるしかない。
間宮がここまでするのだから、『小さなお願い』とわざわざ銘打った何かが俺にとって不都合な可能性もある。
「これはもう私の勝ちかな」
「……絶対追い抜く」
「いや、もう無理でしょ。アイテムもカーブ前の1個だけだし」
その通りだ。
だけど、アイテム1個あれば逆転の目は十分に存在する。
「あまり俺を
「ええ……」
心の炉心に火が灯る。
これは負けられない“戦い”だと魂の底から認識した俺は、ゲーム以外の全てが目に入らなくなった。
お助けキャラに釣り上げられてコースに復帰した頃には、もう順位も6位にまで下がってる。
だけど、この程度は問題ない。
むしろ、このくらいの順位の方が都合がいい。
的確にコース取りをしつつ迎えた最終コーナーはアウトインアウトでのドリフトを駆使しつつ、アイテムを取って加速。
引いたアイテムは――彗星。
現在1位のキャラへ問答無用に飛んでいって爆発するアイテムだ。
「ちょっとそれはダメじゃないっ!?」
隣から悲鳴が聞こえたものの無視。
問答無用で彗星を打ち上げ――前方で間宮が扱うスタープリンセス目がけて落下し、盛大に爆発する。
くるくるとスタンしている間宮だったが、寸前でブレーキをかけて後方にいた数人を巻き込んでいたため、順位の変動はなし。
スタンから復帰した間宮は急いでアクセルをかけ、その隙に距離を詰めた俺との直線一騎打ちとなった。
「あーもうっ! こうなったら意地でも勝つから……!」
間宮の声に熱が籠る。
踏み込まれたアクセル。
完璧に俺の前を塞ぐようなコース取り。
その後ろを俺の機体が追随する。
このままの速度では間宮を追い越すのは難しいが――ここならアレが狙える。
もうゴールは目前。
あと『3』、『2』、『1』――
「きたっ!」
ぐん、と俺が走らせる機体が加速した。
「スリップストリーム……!」
「悪いな間宮、これで抜かせてもらうぞ……ッ!!」
今気づいても遅い。
加速を続ける俺の機体が間宮の機体を追い抜こうと前へ前へと出ていく。
ゴールまでの距離はもう少ない。
このまま走ったとして、ギリギリ追い抜けるかどうかだろう。
後はもう走るだけ。
もう少し、あと少しで勝てる――というところで、間宮がくっと俺の方へ機体を傾けて衝突し、速度が僅かに奪われる。
あ、と声が漏れたのと同時に、画面に現れる『二位』という文字。
「……私の勝ち、みたいだね」
はあ、はあ、と息を荒くしつつ、間宮が寄りかかったまま勝利宣言をして。
「……らしいな。間宮、あんまりゲームやらない割に強くないか?」
「アキトくんが弱い……はないか。私が強いってことにした方が平和的に解決できるよね」
「気遣いが痛い」
「ごめんごめん。ま、とにかく――これで『小さなお願い』を聞いてもらえるね」
そう。
このゲームの勝敗には『小さなお願い』の権利がかかっていた。
「本当に『小さなお願い』だけだからな」
「わかってるよ。てことでさ……いつもみたいに写真撮ろうよ。ただ――私は優等生として振る舞うから、よろしくね?」
………………はい?
それ、どんな羞恥プレイですか?
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