第9話 やっぱり欲求不満なんじゃ
近況ノートの方でも告知をしていますが、このたび【GA文庫】様より本作『優等生のウラのカオ』が5月16日に発売決定となりました~!!
イラストを担当していただくのはkr木先生になります!!
web版よりもパワーアップしているので、是非お楽しみに!!
まだ☆を入れていないよという方は是非よろしくお願いします!!
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勉強会当日の土曜、朝。
朝起きた頃にはもう家族の姿はどこにもなく、みんな仕事に出ていたようで静かなものだった。
母さんが作っていったと思われるサンドウィッチを腹に入れつつ、考えるのは午後から始まる勉強会――の前。
おうちデートなんて面目で、間宮が午前中から家に来ることになっている。
いや、その名称を使っているのは間宮だけなんだけどさ。
「……………………落ち着かない」
洗面所の鏡の前で呟く俺の顔は、とても複雑なものだった。
間宮が午前中に来るのは百歩譲っていいとしよう。
他に誰もいないのが不安要素だが、それもまあいい。
だけど……間宮がおうちデートのつもりで来るのは、正直なところ厳しいものがある。
俺と間宮は彼氏彼女の仲ではなく友達。
デートは男女の仲の二人がすること。
お互いに好きならまだよかったかもしれないが、俺は間宮からの告白を断っている。
要するに、とても気まずい。
あと、他に誰もいないからって間宮が何をするのか怖い。
……普通こういう心配をするのって間宮の方であるべきじゃないのか?
男と二人きりの場所にいて、危険があるのはどう考えても女性側。
「……まあ、俺にはどうしようもないんだけどさ」
間宮は来ると言ったら来る。
なんなら昨日の夜に連絡もあった。
午前中は間宮と過ごすことを覚悟しているため、緊張しつつも着替えなどの準備をしておく。
念のため部屋も片付けていると、ピンポーンとインターホンが鳴り響く。
来たか、と思いながら玄関の扉を開ければ、白いニットとカーキ色のロングスカートというゆったりとした私服姿の間宮がいた。
「おはよ、アキトくん」
「……おはよ。まあ、なんだ。寒いから入ってくれ」
気が進まないものの、間宮を外には放置できないので中に招くと、「お邪魔します」と律儀に言ってから綺麗に靴を揃えて中に上がった。
「ほんとに来たんだな」
「嘘だと思ってたの? 昨日の夜も「行くからね」って言ったじゃん」
「そうだけどさ……なんていうか、ほら。他に誰もいないし」
「エッチなことし放題だね」
「絶対しないからな??」
「うん、知ってる。アキトくんが私に手を出せるはずないし。童貞だもんね」
「最後の一言は余計だ」
あまりそういうことを言わないで欲しい。
一応俺も男で、間宮は女性不信を抱える俺からしても可愛い部類の女の子で、好意も寄せられているのを知っているのだから。
目線で訴えるも、間宮は楽しそうな笑顔を崩さない。
その笑顔の理由を考えると途端に呻きそうになる。
だが、間宮は俺の耳元に口を寄せて、
「……シてみたくないの?」
湿った甘い声で囁いた。
ぴたり、と足が止まる。
頬を引き攣らせつつ間宮を見て、
「……………………どうせする気なんてないだろ」
答えから逃げつつも反撃をするべく同じ問いを返す。
間宮はきょとんと目を丸くして、少しだけ考えこむ素振りを見せてから、頬をほんのりと赤く染めつつ恥じらいを伴った笑みを浮かべる。
そして、今度は手を俺の耳に当てながら、
「…………シたいなら、いいよ?」
嘘か本当か判別のつかない言葉を囁く。
は? と頭に疑問符がいくつも浮かび上がって、処理能力が耐えきれずにショートを起こす。
間宮の声が何度も脳内で反芻されて、徐々に自分が何を言われたのか理解する。
……いや、違う。
間宮は俺のことをからかっているだけ。
それが本心であるはずがない。
だって、それは、そういうことは恋人同士の二人がすることで。
俺みたいな高校生にはどうしようもなく早くて。
……でも、間宮の気持ちが嘘じゃないことも知っていて。
心臓の鼓動が早まっていたことに遅れて気づき、身体が酷く熱く感じる。
知らずのうちに足も止まっていて、間宮が俺の顔を横から覗き込んでいた。
ぼんやりとしか間宮の顔が見えなかったけれど、誤魔化しようのないくらい顔が赤くなっている気がする。
「…………なーんてね。冗談だよ、ほんの冗談。もしかして本気にしちゃった?」
くすりと間宮は笑って、調子よく口にする。
それを聞いた途端、胸のつっかえが引いていくのに、やっぱり誤魔化しているような気配が完全には拭えない。
「……頼むからそういう冗談ぽくない冗談はやめてくれ。心臓に悪い」
「そう、だね。うん。ごめん。でもさ――冗談じゃなかったらいいの?」
「…………本気だったとしたらもっとダメだろ」
緊張を覆い隠して、逆に呆れたような気配を意識的に漂わせて答える。
そうじゃないと、この妙な空気に呑み込まれてしまいそうだった。
出来れば鼻で笑うくらいのことができればよかったのだろうけど、俺にそこまでの免疫や気の強さはない。
それに、間宮が俺のことを好きなのだと考えたら、簡単に笑えるはずもなかった。
「ごめん。今のも良くないね。なんでこんなこと言っちゃったんだろう」
「やっぱり欲求不満なんじゃ――」
「違うからっ!」
間宮は心底恥ずかしそうに声を荒げて反論する。
そうやって感情を表に出している時点で怪しさ満点ではあるのだが、間宮はわかっているのだろうか。
藪をつついて蛇を出す気はないので追及はしないけど。
人間誰しも性欲はある。
俺にも、間宮にも。
だからそっとしておいてやるのが優しさだろう。
「ううっ、もう……ほんとに違うんだからね? これはちょっと状況があまりにもお誂え向きだったから、興味本位で聞いちゃっただけで」
「これ以上喋ってたら墓穴を掘ることになるんじゃないか?」
「うるさいっ!」
ぺしっ、と肩を叩かれるも全く痛くない。
間宮の子どもっぽい様子を珍しく思いながらも、俺の部屋へと案内するのだった。
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