第3話 誰がそこまで優秀ではない、だ
本作とは関係ありませんが、このたび第6回カクヨムweb小説コンテストの現代ファンタジー部門で特別賞を受賞した作品が、富士見ファンタジア文庫様より『鴉と令嬢 ~異能世界最強の問題児バディ~』として書籍化します!!
発売日は4月20日予定となっています!富士見ファンタジア文庫様の公式ツイッターと、私の活動報告の方でカバーイラストの方も公開されていますので、是非見てみてください!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アキトー昼飯食おうぜ」
「いいけど……なんで多々良まで?」
四限の授業が終わって俺の席に来たのはナツと多々良。
ナツはともかく、多々良がこうして昼休みに訪ねてくるのは珍しい。
だから
「あー……えっとね、実は少々頼みがあって。というわけで、間宮ちゃんも一緒に食べない?」
どうしてか、多々良は隣の席に残っている間宮へ話を振った。
まさか自分が目的だったとは想定もしていなかったであろう間宮は、しかし表情を崩すことなく「いいですよ」と快諾する。
多々良がほっと胸を撫でおろして、二人は近くの誰も座っていない椅子を借りて間宮とくっつけた机の対面に座った。
そのまま弁当を広げたところで、
「……んで、頼みがあるって話だったよね」
「ああ。あのさ……」
やけに神妙な面持ちになったナツと多々良が一旦箸を止め、いつになく真剣な眼差しを向けてくる。
「――俺とひぃちゃんの期末テスト対策を手伝って欲しい!」
「ヒカリからもお願いしますっ!」
そして、二人揃って頭を下げた。
俺と間宮は互いに顔を合わせる。
どうするの? 間宮こそどうするんだよ――なんて会話を視線だけで済ませると、ポケットに入れていたスマホが震えた。
急いで確認すると、間宮から『いいんじゃない?』という簡潔なメッセージ。
……まあ、期末テストの勉強をしようって話なら俺も間宮もやぶさかではない。
だけど、この二人の言い方的に、俺と間宮に教えて欲しいってことだよな。
「ここの四人で勉強会とかさせて貰えたらなあ、なんて」
多々良が「どうかな?」と前のめりになって提案してくる。
ただ、目がマジだ。
必死と言い換えてもいい。
ただならぬ様子に思わず間宮も軽く目を見開いていた。
「勉強会、ですか」
「そうそう。かの成績優秀な間宮と、そこまでではないにしろ優秀なアキトさんに是非とも教えていただきたいなあ、と思ったんだけど……どうだ?」
「おいこら誰がそこまで優秀ではない、だ。間宮と比べられたらそうなるのは認めるが、お前ら二人よりは良いぞ」
「だからアキトさんって言ったんだろ?」
気を遣うべきは断じてそこじゃない、とだけ言っておこう。
ちなみにナツと多々良の成績は平均くらい。
けれど、多々良は教科によって差が酷い、というのを前に聞いた気がする。
ナツは……真面目にやればその限りじゃないとは思う。
これで要領のいい男だ。
やるべき部分を提示すればそれに見合った成果を出してくれるはず。
「俺はいいけど、間宮は? 無理はしなくていいからな。来たくなかったら断ってくれて全然いい」
「いえ、私も参加させていただきます。折角の機会ですし、こうして直接私を訪ねていただいたのですから」
「えっ、いいのっ!?」
「誰かに教えるのは自分の考えの整理にもなりますから。ですよね、藍坂くん?」
「まあ、そうだな。よかったな、間宮が引き受けてくれて。俺一人じゃあ二人見るのは無理だと思ってたし」
「どういう意味だよそれ」
ナツの不満げな視線を黙殺して、ちらりと間宮の様子を窺った。
正直、間宮が二人を教えるのを手伝ってくれるのは助かるが……それはつまり、間宮と一緒にいる必要があるというわけで。
俺にとっては気の抜けない勉強会になることが確定している。
「それなら、どこで勉強会をしますか?」
「アキトの家でいいんじゃないか?」
「なんで俺の家なんだよ」
「俺の家は兄貴がうるさくてさ。ひぃちゃんの方は……無理だろ?」
ナツが身長に俺に訊いてくる。
女性不信の件を気にしているのだろう。
そういう意味では、確かに進んで入りたい場所ではない。
前に間宮の家に上がったのは仕方なく、だ。
本当に、仕方なく。
「間宮の家は俺が入りにくいし、そうなると残るのはアキトの家だろうなあ、と」
「他だと喫茶店とかカラオケルームとかになりそうだけど、そういうところだと誰かさんが遊び始めないとも限らないし?」
「主にお前ら二人だろ、それ」
二人がささーっと目を逸らしていく。
この二人がカラオケボックスという誘惑が溢れている場所で勉強に集中できるはずがない。
どうせ途中で「歌って休憩しようかなあ」とか言い出す光景が目に浮かぶ。
「問題ないのなら藍坂くんの家でも大丈夫ですか……?」
「……姉がいるかもしれないけど、それでもいいなら」
「全然いいって!」
「ありがとねアキくん!」
二人の表情が明るくなって、勉強会の場所が決まる。
一つ問題があるとすれば……俺の家に間宮が来る、ということだけ。
何事も起こらないようにと祈るしかない。
「いつやるんだ? 週末?」
「それでいいだろ」
「ヒカリもいいよー」
「私も予定はなかったはずです」
「決まりだな。じゃあ、週末、アキトの家に集合ってことで。俺はひぃちゃんと行くつもりだけど、間宮はどうするんだ?」
「藍坂くん、後で家の場所を教えてもらってもいいですか?」
「……ああ。後で連絡する」
どうせわかっているけど二人もいる手前、俺と間宮の関係性を匂わせるようなことは口にしない。
それにしても……この四人で勉強会をするなら、ボロを出さないように間宮と口裏合わせをしておかないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます