第22話 ごくごく普通の美少女って一文で矛盾するのやめろ
「――じゃあ、話合わせてね」
「ああ」
ナツと多々良さんが昼食に選んだハンバーガーを取りに行っている間に、俺と間宮は口裏合わせの相談を行っていた。
本当の事情を知られるわけにはいかないため、嘘と偽りしかないカバーストーリーを二人に信じ込ませる必要がある。
とはいえ、ファーストコンタクトの時点で間宮が「以前から付き合いがあった」と言ってしまっているため、それを前提とした話にはなってしまったが。
「私と藍坂くんは前から知り合いで、家が近くて、時々話してた。今日は私が藍坂くんに相談があって、買い物ついでに一緒に来ることになった……でいいんだよね」
「その辺が妥当だろうな。納得してくれるかはわからないけど」
「都合のいい誤解をさせればいいんだもんね。余裕だよ余裕」
「どこからその自信が来るんだよ。俺はナツが不用意に突っ込んでこないかだけが怖い。なんだかんだで鋭いんだよ、あいつ」
ナツは軽薄そうな態度とは裏腹に、よく人のことを見ている。
俺と間宮がそういう関係ではなく、何かしらの事情があって一緒にいるところまで読まれていそうな気もするけど。
「バレて困るのはお互い様だから共闘だね。がんばろっか」
「そうだな……っと」
一通りのすり合わせを終えたところで、ハンバーガーを乗せたトレイを二人が運んで戻ってきた。
「席とってもらってて悪いな」
「ありがとね間宮ちゃん、藍坂くん」
「別にいいって。俺たちも選んで来るか」
「そうですね」
「こんなときまで二人行動とは随分お熱ですなあ」
「その方が効率的だろ」
いちいち揶揄うのをやめろと視線で訴えるも、ナツは涼しげだ。
時間の無駄だと諦めて、俺も間宮と注文のため列に並ぶ。
「それにしても、間宮もハンバーガー食べるんだな」
「私、どんな人だと思われてたのか凄く気になるんだけど」
「なんかでかい家に住んでるお嬢様」
「ステレオタイプなイメージだね。でも残念。本当の私は庶民的で親しみやすく、家庭的なごくごく普通の美少女でした」
「ごくごく普通の美少女って一文で矛盾するのやめろ」
やっぱり間宮の頭はどこかがおかしいらしい。
列が進んで注文を済ませ、数分待ってそれぞれのトレイを受け取る。
俺は玉子とチキンがソースと絡んでいるエッグチキンバーガー。
間宮はエビカツと野菜にオーロラソースを合わせたエビフィレオを注文していた。
一人一つのMサイズのポテトとドリンク。
それを乗せたトレイを席に運べば、食べずにイチャイチャして待っていた二人が甘い空気を漂わせながら出迎えた。
「先食べててよかったのに」
「いやいや、こういうのは待つって。折角の楽しいランチタイムだぞ?」
「すみません、お待たせしてしまって」
「いいのいいの! ヒカリも二人のこと聞きたかったし!」
「てことだ。洗いざらい吐いてもらうぞ、アキト……?」
「
大嘘だ。
俺と間宮の間にある関係は誰にも話せないような秘密だけ。
動揺を表に出さないようにと精神を張り詰めながら、普段通りの自分を思い浮かべて投影する。
バレるのは俺としても避けたいし、間宮にも迷惑がかかるし、そうなったときに俺がどうなるのかを考えると隠し通すしかない。
ちらりと間宮の方を見て、一瞬だけ視線を交わす。
それから四人で「いただきます」と口にして、気の抜けないランチタイムが始まった。
「……んで、結局お二人さんはどういう関係なわけよ」
「……友達? みたいなものだ。そうだよな」
「そうですね。それが一番近い表現かと」
「その割には二人の距離感が近い気がするなあ。通じ合ってるっていうか、お互いに考えてることがわかってるみたいな」
「わかる」
ハンバーガーを味わう合間に進む会話。
ナツと多々良さんは俺と間宮のことを友達よりも深い関係にあると思っている。
ある意味間違いじゃないけど、認められるはずがない。
俺たちが放課後の教室であんな写真を撮っているのは、世間的に見ればアブノーマル感のあるシチュエーションと関係性だ。
その理由も、俺が間宮に逆らえない原因の写真も。
誰かにバレた瞬間、即座に俺の学校生活は幕を下ろす。
学校生活だけでなく、場合によっては人生そのものが終わる可能性だってある。
美味しそうにハンバーガーを頬張るナツと多々良さんを観察しながらコーラを飲んで、弾ける炭酸の感覚で思考の歯車を早めていく。
「二人でいるのが自然なんだよな……特にアキト。普段は誰かと接するのに距離を作ってるお前が、間宮相手だと
「あ、それヒカリも思ってた! ヒカリはなっくんみたいに藍坂くんのことをよく知らないけど、間宮ちゃんを気にしてはいるけど気を遣ってはいないよね」
「……まあ、多少話したりはしてたからな。気を遣ってないように見えるのは、俺が間宮のことを意識してないからだと思うけど」
「藍坂くんはいつもこうなんですよ。酷いですよね?」
「全くだ」
「間宮ちゃんみたいな可愛い女の子と一緒にお出かけしておいてそれはどうかと思うけどなあ」
少し長めのポテトを食べながら多々良さんが言う。
それに間宮とナツがうんうんと頷いて……おい間宮裏切るなお前はこっち側だろ。
どうして間宮まで俺が悪いみたいな方向性に持っていこうとしているんだ。
二対二だったはずが、いつの間にか三対一になってるんだけど。
思わず
熱を持ったままのポテトはサクサクと小気味いい食感を伝えてくれて、程よい塩気が荒んだ心を癒してくれた。
やっぱこれだよな……この癖になる味だよ。
「ですが……そういう部分も含めて藍坂くんといるのはとても楽ですし、楽しいと思いますよ」
「そうかよ」
「お、アキトが照れてる」
「照れてない」
ニヤニヤと問い詰めてくるナツと、形成の悪くなった空気から逃げるように視線を外側へと逸らす。
照れては……いないはずだ。
さりげなく頬を触ってみるも、じんわりとした熱を感じるだけ。
どうせ適当言っていただけだと決めつけ、残りのコーラを飲み干してしまう。
「ねえねえ、これって惚気? ヒカリ的には100%
「ったく、このバカップルを相手にするには俺たちも惚気ないとな……!」
「公共の場でイチャイチャするな視界がうるさい」
「もしかして藍坂くん、羨ましいんですか?」
「羨ましくない。てか間宮はどっちの味方なんだよ」
「私は私ですから」
……やっぱりこいつ、俺をおもちゃにして遊んでるだろ。
孤立無援な現状に心中で天を仰ぎながらも、続く会話をどうにか機転を利かせて乗り切った……と思いたい。
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