第21話 もしかして邪魔したか?
「もうお昼だね。このままフードコートで食べてく?」
「そうするか」
間宮が服を見ている間に気づけば昼を回っていたため、そのまま流れで昼食も食べることとなった。
当初の通り間宮が購入したコートは紙袋に入れられ、俺の左手が塞がっている。
どことなく上機嫌な間宮の隣を歩くのは微妙な居心地の悪さを感じるものの、もう仕方ないと割り切ってフードコートに辿り着く。
「混んでるな……」
「お昼時だからね。どうしよっか。このまま席を探すか、別なところで食べるか、時間をずらしてまた来るか」
「因みに時間をずらすとしてどこに行く気だ?」
「そりゃあもちろんランジェリーショップ――」
「却下」
ピンク色の思考をやめてくれ。
なにやら不満げに頬を膨らませているも無視。
意味不明なことを言っている間宮が100パーセント悪い。
てことはこのままか別なところって話になるけど――ん?
あれ、もしかして……ナツじゃないか?
人目も
学校で何度か見たことのある彼女と背格好が似ている。
胸焼けしそうな光景と、普段は調子のいいナツがデレデレしているのは少しばかり面白いものがあるが、そうこう言っている暇がない。
「間宮、場所を移そう。多分俺の友達がいる」
「えっ」
隣で間宮が驚いたのか息を呑んで、
「……藍坂くんにも友達いたんだね」
「男女平等パンチいいか?」
「暴力反対!」
「なら言動を顧みてくれ……じゃなくて。一緒にいるの見られると拙いよな」
俺と間宮は学校での評価軸からすると目立たない一生徒と才色兼備な優等生。
差は歴然で、接点なんてないと思われているであろう存在だ。
それが休日、二人だけでこんな場所にいたとナツに知られたら――どう転ぶかわかったものじゃない。
ナツが信用できないわけではないけど、もしものリスクは減らすに限る。
あと、俺と間宮が二人でいるのにナツは何か理由があるのだとわかっていても揶揄ってくるだろうし。
それはちょっと……いや、大変
間宮も面倒ごとは嫌だろ? と目線で訴えれば、
「たまたま遭遇したって言い訳も無理があるからね。一旦ここから離れて――」
くるり、と間宮が身を
これ、もしかしなくても気づかれたよな。
……終わった、俺の平穏。
「間宮、多分気づかれた」
「言い訳どうするの?」
「……昔から付き合いがあったってことにして、今日は荷物持ちでここにいるってのはどうだ?」
「それでいいならいいけど。
「それは大丈夫だと思う。訳ありなのは察してくれるだろうし」
ナツに知られたくないと素直に話せば理解してくれるはずだ。
誰もいないところでは俺が
最低限、間宮に迷惑をかけないようにだけは言い聞かせておかないと。
近寄ってくるナツと彼女。
ニヤニヤした笑みを浮かべているナツに苛立ちのようなものを感じてしまうも、それはつけ入る隙を与えることになると思ってポーカーフェイスで隠してしまう。
「よう、アキト。もしかして邪魔したか?」
批判する気も失せるような爽やかな笑みだが、声の裏には楽しそうな出来事の気配を逃したくないという思いが透けている。
間宮は既に優等生の仮面を被っていて、ナツと出会ったことに驚いた、という表情を作りながらも控えめな笑顔を崩していない。
年季が入った
「俺と間宮は邪魔をされるような仲じゃない、とだけ言っておくぞ……ナツ」
「ええ。こんにちは、
「俺の彼女」
なぜかナツが自信満々に答えると、隣の女の子はパッと花開いたような快活さを
「多々良ヒカリです! 間宮ちゃんは初めまして、かな? 藍坂くんはなっくんから話を聞いてるよ。確かに優しそうだけど、損をしてそうな感じだね」
ぺこり、と丁寧に礼をされ、俺と間宮も
ただ、彼女――多々良さんにそんな気はないと思う。
邪気のない表情と声音から推測できるため、悪いのは余計なことを吹き込んだナツということになる。
ナツを軽く
こいつ後で〆よう。
ナツのことをなっくん、と呼んでいるあたり、二人の甘い関係を察してしまい、俺としては微妙な気分になってしまう。
なにはともあれ視界に入る場所でイチャイチャするのはやめていただきたい。
「んでんで、どういう理由があったらアキトと間宮が一緒に休日デートなんてすることになるんだ? 説明してくれるんだろ?」
「デートじゃない。単に荷物持ちしてるだけだ」
「実は少し前から交流がありまして……私が買い物に行くと伝えたら、一緒に来ていただけることになったんです。とても助かっていますよ、藍坂くん」
「そりゃどうも」
優等生を崩さない間宮の笑顔と言葉に胃を痛めながら、そういう方向性で行くのねと理解して思考を寄せていく。
この愛想のない反応から色々察してくれと思ったが、ナツも多々良さんも驚いたように俺と間宮を見ていた。
「まさかまさかの展開だな。ヒカリ、どう思う?」
「そのうちデキると思う! 具体的には一か月半くらい?」
「クリスマスか……時期的にも丁度いいよな」
「わかってて揶揄ってるだろお前ら」
「あ、バレてら」
不機嫌さを声で示すと、ナツはくつくつと笑って視線を逸らす。
多々良さんも下手くそな愛想笑いで誤魔化している……似たもの同士だな、よくわかった。
間宮は表情を変えないものの、どことなく困っているような気配を感じる。
意外と不測の事態に弱いのだろうか。
それか、俺と恋人扱いをされるのが余程嫌だったと見える。
俺自身も間宮の隣にいるには役不足だと自覚しているから反論の余地はないけれど。
「てか、ここだと邪魔になるし、昼でもどうだ?」
「お前は彼女がいるんだから二人で食べろよ」
「えー? だって面白そうじゃん。なあ、ヒカリ?」
「うんうん! こんなの見過ごせないよね!」
「……間宮、任せていいか」
「ではご一緒させていただきましょうか。二人の関係もお聞きしたいと思っていましたから」
「よし決まりっ! 席取らないとな。えーっと……お、空いてる場所発見。行こうぜ」
ぐるりとフードコートを見回したナツが四人分の空席を見つけ、そっちへ移動していく。
「……悪いな、間宮」
「いいですよ。こういうのも、たまには」
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