第9話 興味ないでしょ?
「アキト~、昼一緒に食おうぜ~」
四時間目が終わってから、弁当を持ったナツがやってきた。
「彼女は良いのか?」
「ああ。今日は友達と食べるって言ってたからな」
「ならいいか」
俺が机の前半分を空けると、ナツは前の席から椅子を借りて体面に座る。
そして弁当を広げ、美味しそうに食べ始めた。
「そう言えば、授業中に間宮となんかしてたか?」
「……んえ?」
「なんだよその返事。やっぱりなにかあったのか」
にやり、と笑みを浮かべるナツ。
肝心の間宮は遠くの席で友達と思しき女子と昼食を楽しそうにとっている。
この場所なら大きな声で離さない限りは聞かれることはないだろう。
俺も驚いて変な返事をしたのが悪いけど……まあ、秘密にしないと俺が社会的に死ぬので真実は言えない。
しかも今日の授業中と言えば……思い出すべきじゃないな。
俺が悪くないとはいえ、そう言ってどれだけの人が信じてくれるだろうか。
学校じゃあ圧倒的に間宮の信用度が上。
それはナツでも同じだと思う。
「あるわけないだろ。間宮と話してたように見えたなら、それは多分わからない問題を教えてもらっていたときだろうな」
「へえ……あの清楚可憐な美少女と授業中にマンツーマンの共同作業か」
「わざといかがわしい言葉選びをしてるよな?」
「バレたか。ま、大多数の男子からしたら羨ましい席だからなあ」
ナツがいったように清楚可憐な美少女と呼ぶべき間宮は、当然ながらモテる。
それはクラス、同学年だけでなく、先輩からも告白されたことがあるとかないとか風の噂で聞いている。
だけど、間宮に彼氏がいるなんて話は聞いたことがない。
だから俺にもチャンスがあるんじゃないか――そう思った男子は間宮に告白し、一人残らず見事に撃沈されている。
俺? 可愛いとは思っているけど、今は出来るだけ関わりたくない。
そもそも誰が人を平気な顔して脅す奴と一緒にいたいと思うのか。
「俺はなんとも思わないけどな」
「はいはいリア充アピール御苦労さま」
「なんだよ冷たいじゃん。てかさ、アキトは間宮のこと好きじゃないのか?」
「……嫌いじゃないって方が正しい。第一、俺は間宮を彼女に――とか全く考えてないし」
「高校生で早くも枯れてるのかよ。もっと青春ってやつを満喫しようとは思わないのか? 部活だってやってないんだから、残すは彼女だけだろ?」
「あたかも高校生活が部活と彼女で構成されてるみたいに言うな」
高校は勉強する場所だと思っていたのだが、俺がおかしいのだろうか。
いや、たぶんおかしいのはナツの方だ。
そうに決まっている。
僻みじゃないぞ。
というか、俺が間宮を好きだったら、もっと複雑な心境になっていたと思う。
好きな人がツイッターにちょっとエッチな自撮りを上げている裏垢女子なんて知ったら……うん、俺なら同情するね。
そのくらいじゃあ俺の恋心は変わらねえ! みたいなこと言う人もいるかもしれないけど、間宮からあんな扱いをされたら目が覚めると思う。
正直俺は幻滅してる。
心まで清らかな優等生なんて存在しないんだよ。
「つってもよお……俺はアキトにいい人を作って欲しいわけだよ」
「彼女がいるナツには関係ないのに?」
「いいや? ダブルデートをしてみたい」
冗談じゃない。
そんな予定はないけどお断りだ。
デートとか二人だけで行けばいいだろ……わざわざ二組で行く理由があるのか?
あれか、「俺たちはこんなにイチャイチャするくらい仲いいですよー」って見せびらかしたいのか?
ダメだ、リア充の思考は俺にはわからない。
「彼女作りたくなったら相談してくれてもいいぜ? 俺がアキトをモッテモテの男に育ててやる」
「そんな機会は一生ないだろうけどな」
「なあ……一応聞くけど、アキトって男が好きってわけじゃないんだよな?」
「俺はノーマルだ」
「よかった……」
ナツは安堵を表すように胸を撫でおろした。
……もしかして俺、男が好きだと思われてたの?
俺は過去を引きずっているから恋愛というところに結びつかないだけだ。
それでも間宮がパンツを見せて着たりしたときに動揺したり、意思とは関係なくドキドキするのはどうしようもない。
単純に間宮の外見が俺の目からしても可愛いから、という理由は多少あるけれど。
中身を考えると途端に微妙な心境になるから不思議だよな。
そんな話をしているうちに俺もナツも弁当を食べ終わっていた。
残りの休み時間は20分ほど……このままゆっくりしようかと思っていたとき、同じく昼食を食べ終わった間宮が隣に戻ってくる。
「さて、と。そんじゃ俺も戻りますかねーっと。頑張れよー」
ナツは人のいい笑みを浮かべて、明らかに間宮が原因であることを視線で悟りつつも見送った。
はあ、と胸に溜まったものをため息で吐き出すと、
「
覗き込むように聞いてくる間宮の丸い瞳と視線が交わった。
さらりと艶のある黒髪が流れて、机と間宮の胸の間に落ちていく。
思わずそこに意識を引き寄せられつつも、軋むような動きで視線を逸らして、
「……どうしてそう思うんだ?」
「宍倉さんの視線が私の方に向いていたので」
「……別に大したことは話してないよ。間宮はどうして彼女を作らないのかなーとか、そんな話」
「ああ、それですか。単に好きな人がいないからですよ」
「俺に言っても良かったのか?」
「話しても困りませんから」
そう言って間宮は微笑み、俺のスマホが通知を伝えた。
『告白されるの鬱陶しいし、ほんとに困ってるんだけどね』
あー……モテるのも大変なんだな。
美少女扱いも楽じゃない、ということか。
さらに続けて通知が来る。
『だから藍坂くんは楽なんだよね。私に興味ないでしょ?』
……まあ、それはそう。
関わることがない高嶺の花に対して熱い感情を抱くことはないだろう。
それが今となっては頭痛の種になっているのだから人生何があるかわからない。
「――
「っ」
いきなり耳元で囁かれ、ふぅと吐息が耳を撫ぜる感覚に思わず肩が跳ねる。
するとクスクスと控えめな笑い声が聞こえて、眉根が寄ってしまう。
あくまで今は昼休み。
優等生としての姿を崩す気はないらしい。
「どうしましたか?」
「……なんでもない」
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