七月(一部プロットのまま)
【まえがき】
申し訳ありません。
リーゼロッテの手記、あまりにつら過ぎて、私には続きが書けません。
書けている限りの部分とプロットを公開するので、そういう設定だったんだー。ふーん。くらいに読んでくれると嬉しいです。
――――――――――――
7/7(日)
本日、マルシュナー公爵夫人の茶会に招かれ、偶然、を、装ってだろう。短時間だが、マルシュナー公爵子息と二人で会話をする機会があった。
元々、あの家の人々は皆貴族らしい婉曲的な物言いをなさる。それに、あまりに突拍子もない話だ。
だから、これが公爵子息の真意かどうかは、曖昧な部分もあるのだが……。
どうやらマルシュナー公爵子息は、実務を行う王と神の声を聞く巫覡を別に立てるべきなのではないかと考えているようだった。
実際にそのようにしている他国の話題、まあこれは国名が今日出た菓子の関係で触れられただけだったが。しかしそれとユリアーナ殿下の健康状態への憂い、そして私は王妃になるべき存在だという称賛、そんな話題を並べれば、そういうことと思って良い気がする。
ジークヴァルト殿下とユリアーナ殿下に、それぞれ王と巫にそれぞれなっていただく。
その体制が取れれば、確かに混乱は少ないだろう。私もきっと、王妃となれる。
そこを目指せばいいと、誘導を受けたのだろう。
王家からの婚約解消の打診とわが家がそれに異を唱えていることまで把握され、食いついてくると思われたか。
しかし、巫覡は神の声を聞くことのできる者が自然に当然になるものだろうが、では、王はなにを根拠に誰にどうやって認められるのか。
現在の王の子という血統をその正当性の根拠とするならば、当時の王の直系の子らが神の声を聞くことが叶わず、傍系に王位が移ってきたことのあるこれまでのわが国の歴史を、なんとするのか。
ユリアーナ殿下とジークヴァルト殿下はそれなりに良好な関係のいとこ同士であるが、それぞれの後継は誰になる? 血縁が遠くなればどうなる? 今代が円満でも、そこから先は争いの火種が燻りはしないか?
だいたい、マルシュナー公爵家こそが、二代前に王太子であったが神の声が聞けず王となれなかった人物が興した公爵家だというのに。
王と巫覡を分けると決まれば、マルシュナー公爵家こそが正当な王家だとでも訴えて、革命でも起こす気なのではなかろうか。
マルシュナー公爵子息は、己が王となるため、ジークヴァルト殿下からなにもかもを奪おうとしている存在なのかもしれない。
けれど、もし、そうなったならば?
そこまで考えが至った瞬間。
【他になにもなくなれば、あの人は、きっと私のもとに帰ってくる。私だけのあの人に、戻ってくれる。】
そんな、ひどく悪魔的で甘美な響きの【声】が、天啓のように私に降り注いだ。
巫覡にはなれず、王としても認められなければ、ジークヴァルト殿下は公爵家を興す可能性が高い。
一度決定的に負けた後であれば、たとえ私が公爵夫人となっても王位簒奪などできはしないと思ってもらえるだろう。私がマルシュナー公爵家に協力した過去があれば、見逃してもらえる可能性は高い。
あるいは争いを避けるためにジークヴァルト殿下が婿入りしてどこかの爵位を得る道を望まれるならば、リーフェンシュタール侯爵位なんて良いのではなかろうか。
なんて。
こんな自分勝手な賤しい考え、考えるだけでも罪だ。わかっている。
わかっているのに。
今日のことは、父にも、王家にも、報告はしなかった。
王家に対する反意など、明確ではない疑惑の段階だって、報告をあげて警戒を促すべきだろう。
それが王家に忠実な家臣として、当然取るべき行動だ。
けれど、けれど、どうしても。
【あの人に、私の所まで、堕ちてきて欲しい】と、そんな【願い】が、否定しきれなくて。
そもそも、明確な言葉は使われていない。
公爵子息も私も、まだ成人もしていない学園生で、ほんの冗談や空想を語るくらい、まだ許される子どもの立場の 違う。こんなのは欺瞞だ。己がひどく醜悪で、吐き気がする。
けれど、【それでいい】と囁く【声】に、私は、【飲み込まれそうで、支配されそうで、抵抗を諦めてしまいたくなる。声に飲み込まれることは、きっと、母の胸に抱かれるようなひどく落ち着く心地だと予感している。この苦しみから逃れ、久方ぶりに安らかに眠れるような気が】ダメだ。
あの方は、ジークヴァルト殿下は、私の光。
届かなくてもかまわない。
手に入れたいなどと望まない。
あの方の輝きを、損ねることなど許されない。許さない。
しっかりしろ、リーゼロッテ・リーフェンシュタール。
気を強く、強く持つべきだ。持たなくてはいけない。
7/12(金)(注:ここがプロットのままです)
・6周年記念に出したSS「私の婚約者は、実はツンデレかわいい」の裏側
「リーゼロッテの手記見た感じ、リゼたんみんなでわいわいするのに憧れてたみたいだし! リゼたんも今いる攻略対象者も、みーんなで行かせればいいんだよ!」
「せっかくの課外授業、お友達と仲良く行動している周囲がうらやましくて仕方なかった」の辺り
来週から、王立魔道学園は夏休みに入る。
そのため、私たち学園生は、本日学園裏山の【大掃除】を行う予定だ。
この【大掃除】とは、掃除とは付くがいわゆる普通の清掃活動ではない。
私たちの通う学園その裏手に位置する山、そこに潜む無数のモンスターを、私たち学園生全員で力を合わせ、狩りつくすことを指す。
“せっかくの課外授業、お友達と仲良く行動している周囲がうらやましくて仕方なかった”
その悔しさもあってフィーネに勝負をしかけるも、フィーネはバジリスクを倒し、リーゼロッテは負けを認める。
人望で勝った彼女。
王妃にふさわしいのは一人として能力が高い自分ではなく、みなに愛され周囲の人間の協力を得られる彼女の方なのだろうな。
7/19(金)
今日は私の誕生日。学期末ということもあり、早めに帰宅をした。
父と母が珍しく揃って別邸に戻ってきていて、バルも駆けつけてくれ、自宅でささやかな祝いの席が設けられた。
妹たちからも手紙とかわいらしい祝いの品が届き、とても嬉しくて、あたたかい気持ちになった。
リーフェンシュタール領が恋しい。
今日は家族と穏やかな時間を過ごしたからこそ、やはりここ最近の私はおかしかったと感じる。
夏季休暇中は、できるだけ王都から離れていた方がいいかもしれない。
付き合いのある家からも祝いの品が届き、ジークヴァルト殿下からは、ティアラを賜った。
これほどの品、一朝一夕で用意できる物ではないから、きっと前々から準備されていた物だろうとは思う。
けれど、よりにもよって婚約解消の話が出ているこのタイミングでこれというのはなんとも皮肉なものだ。と、思ってしまった。
学園卒業後は成年王族としての公務が増えるだろう、ジークヴァルト王太子殿下。私も殿下のパートナーとして格式の高い場に随伴する際には、ティアラが必要になるだろう。
しかし、ティアラなど、ただの侯爵家の娘には過分な代物だ。
私がこれを身に着ける機会が、これから先あるのだろうか。あったとして、その時私の隣に立っているのは、ジークヴァルト殿下なのだろうか。
そんな後ろ向きなことばかり考えてしまう自分が、嫌になる。
どうか、どうか、私がこれを身に着け、ジークヴァルト殿下の隣に立つ未来が、やってきますように。そしてそれが、永劫続きますように。
神に祈った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。