第24話

「『七つの門』は人間の負の感情に影響しているんだ。『傲慢』『強欲』『嫉妬』『憤怒』『色欲』『暴食』『怠慢』の七つだな。」


「あっ……、七つの大罪だ。」


 七つの大罪は人間が罪を犯すことになる原因を現しており、30年以上前のゲームで盛り込んであることは知らなかった。

 ゲームの中でも扱いが中途半端で、『七つの門』に意味があることは私も言われるまで気付いていなかった。


「何だ?その『七つの大罪』ってのは。」


「こちらの話ですので、気にしないでください。」


「ふん、まぁ、いいか。……とにかく、人間の負の感情に影響する門が閉じられている状況になれば、今みたいな世界になるってことさ。」


「善人ばかりになるってことですか?」


「悪い事を考える人間がいなくなるんだ。善人と悪人の区別自体が必要なくなる。」


 その話を聞いて、この世界の人たちの生活態度が理解出来る。善人でいたいわけではなく、悪人になる理由が存在しなかったのだ。


「魔界の門が閉じる前には、この世界にも悪人がいたんですよね?その人たちは、どうなったんですか?」


「もちろんいた。だが、全員が改心した。文字通り心を入替えて、与えられる罰を受け入れたんだ。」


 異世界転生者である私は、魔界の門の影響下になかったのかもしれない。

 この世界の状況が少しだけ理解出来た気がする。やはり、ゲームをクリアするためにやってきたことが影響しており、魔王を倒して『平和にし過ぎた世界』だった。


「……でも、世界を救った勇者が、こんな扱いを受けてい理由が分かりません。」


 魔王を倒した後、国王のところに報告に行くと英雄と称えられていた。国中も紙吹雪の演出で勇者を歓迎してくれていた。


 ゲームはクリアした時点で終わっているものだと思っていたが、ゲームの中の時間は流れ続けていて、物語が生れている。


「冒険の間に犯していた罪を裁かれることになったんだよ。」


「あっ、破廉恥な罪ってやつですか?」


「嫌な表現だな……。でも、まぁ、正解か。」


 フレデリック様も言っていた、この世界の人たちが『勇者たかひろ』の存在を隠したくなる理由。少なくとも、私がプレイしている中で監禁されるようなイベントはなかったはずだ。


「ある村の宿屋で、風呂場を覗いた罪。」


 そんなイベントがあった記憶はある。でも、ドット絵のモブ女性が悲鳴を上げるだけで、何の得もしないイベントだったはず。


「城でドアを突然開けて、姫様の着替えを見てしまった罪。」


 それもあったが、覗きを同じで姫様が悲鳴を上げて、兵士たちに追いかけられるイベントだった。

 CGであればラッキースケベとして需要はあるかもしれないが、ドット絵では何の感情も湧かないイベントだろう。


「民家に不法侵入して、家にある物を壊したり奪ったりした罪。……王家の墓を荒らして辱めた罪。」


 それは、ゲームの中で日常的に行われることであり、アイテムを手に入れるための手段だった。

 王家の墓も魔王を倒すために必要な武器を入手するためのイベントで、他に選択肢はなかった。ただの因縁としか思えない。


「酒場裏でパフパフをしてもらった罪。」


 台詞が出てくるだけのもので、ゲームの進行には全く関係の無い要素。女である私は『バカバカしい』と思って、『いいえ』を選択し続けた。


 全てが言いがかりとしか思えない罪ばかりで、あまりにも悲惨に感じられてしまう。



――あれ?……『勇者たかひろ』が、それらの罪を犯していることになってるのなら、お父さんがゲームの中でやってたってこと?


 私がプレイした時には、くだらないことを飛ばしてしまっていたので見落としていた。

 こんなところで若かりし頃の父親がゲームでやっていたことを知ってしまう恥ずかしさがあった。父・貴弘は『レベル99』に到達させただけでなく、全てを楽しみつくしていた。

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