第23話

「それで俺と話したいことって何なんだ?この屋敷に閉じ込められてから、初めての客人だ。特別に何でも話してやるよ。」


 あれから、応接室に通されてしまった。

 ソファーに座った『勇者たかひろ』は、ワイングラスを手にしている。屋敷に監禁されてはいるが、不自由な生活を送っているわけではなさそうだ。


――やっぱり、雰囲気はお父さんに似てるのかも……。

 

 目の前の男が世界を救った勇者には見えない。

 魔物と戦っていた面影はなく、お腹もポッコリ出てしまいメタボの中年男性そのものである。

 勝手に主人公キャラはダンディなオジサンになっていると思い込んでいたが、今は心が痛い。


「……で、貴族様の娘が、俺に何の用かな?」


 フレデリック様は約束通り、私の話が終わるまで隣りの部屋で待っていてくれることになった。

 こんな時でも、『私のことは気にせず、ゆっくりお話ししてください。』と気遣いも忘れない。 


「あなたは本当に『勇者たかひろ』で、この世界を魔王から救ったんですか?……こう言っては何ですが、とても世界を救った勇者には見えませんけど。」


「まぁ、30年以上も前の話だから仕方ないさ。今となっては、魔界の門を閉じずに魔王を生かしておいた方が良かったかもしれないと思ってるよ。」


「魔王を倒したことを後悔してるんですか?」


「あぁ、してるね。……あの時は、どうして魔王を倒すことに必死だったのか分からないんだ。」


「……分からないんですか?」


 それは分かるはずないだろう。父・貴弘に操作されていたのだから自らの意思ではなかったかもしれない。

 だが、そのことを教えてあげることもできない。


「こんなことになるくらいなら、魔王がいた世界の方が幸せだった気がするよ。」


「そうですよね。こんな屋敷に閉じ込められているんですから。」


「いや、それだけじゃない。魔界の門は、人間にも必要なものだったかもしれないんだ。果たして魔界の門を閉じたことが正しかったのか、今でも考える時がある。」


「でも、魔界の門を閉じるのは、魔王を倒すために必要だったんですよね?魔界の門が開いたままだと、魔王は倒せないんじゃないですか?」


「おっ、よく知ってるじゃないか。門が開いていると、魔界からの瘴気が流れ込んでくるんだ。その瘴気は魔王の力の源になっていて、魔王を倒すためには門を閉めるしかなかった。」


 これはゲームをプレイした時の情報で知っていた。七つの門には門番がいて、門番とボス戦をした後で門を閉める。


「魔界からの瘴気が、この世界の人間にも必要な物ってことになるんですか?」


「人間に関係あるものだから、門が七つあったんだ。」


「え?門が七つあることに意味があるんですか?」


「何だ、それは知らなかったのか?」


 ゲームの中で細かく説明されることはなかったはず。門が開いていると魔王に力を与えてしまうので、先に門を閉めておかないと魔王を倒せなかった。


 特に大きな見せ場もなく、門番を倒してから門の前に立つと『もんをしめますか?』と聞かれ『はい』か『いいえ』を選択するだけ。当然、『はい』を選択しなければクリアできないので、七か所全部で同じことを繰り返す。

 全ての門を閉め終えてから魔王を倒すと、『せかいにへいわがもどってきた』となって祝福されて終了となる。


 だからこそのクソゲー。

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