第21話

「お父様、お母様、おやすみなさい。」


 いつもと同じように挨拶を済ませて自室に戻った。

 これでスグに動き出してしまうには早すぎるので、屋敷全体が寝静まるまで気持ちを落ち着けて我慢する。


 音を立てないように、使用人たちが使っている裏口から屋敷を出ることにした。この裏口の合鍵は簡単に手に入れることが出来たし、目立たないので最適だった。


 屋敷を出た直後にランプを灯してしまうことは危険なので、しばらくは真っ暗な道を進むことになる。スローライフを検討していた時に使用人たちの後をつけたことがあったが、今回は一人なので少し怖い。


――こっちの世界で幽霊っているのかな?


 ゲームをプレイした時の記憶を辿ると、アンデッド族がいたような気もするが印象に残るものはいなかった。


――レティシアが起きていてくれればいいけど……。


 思いの外、出発が遅くなったので心配になる。

 レティシアの屋敷近くで、私はランプを振って合図を送った。レティシアの部屋は分からないが、合図に気付いてくれれば返事がくるはず。


「……あっ!」


 いくつもある窓の中で一つだけランプが振られている部屋を見つけた。ちゃんと寝ないで待っていてくれたらしい。


 合図が返ってきた部屋の下に移動すると、窓が開いて紐に吊るされたカギが下りてくる。

 一緒にメモがついており、『お気をつけて』とだけ書かれていた。


 レティシア兄が出発する前までに、カギをこの紐に戻しておけば無事に任務完了となる。


「……ありがとう。」


 絶対に届かないくらいの小声でお礼を言って、ランプを揺らした。すると、部屋の中でもランプを揺らして合図を返してくれる。


 ここまでは完璧に進めることが出来ていたが、予想外のことが発生してしまう。


「ミレーユ様、女性一人では危険です。……お供いたします。」


 真っ暗な中で突然話しかけられたので心臓が口から飛び出そうになってしまった。声をかけてきたのはフレデリック様だ。


「えっ!?フレデリック様?……どうしてここに?」


「レティシアさんと打合せをしているのを聞いてしまったんです。それで、今晩が決行日だと分かりました。」


「はぁ……、そうだったんですか。……すごくビックリしました。」


「あっ、申し訳ございませんでした。」


 確かに一人で行動するのは不安もあったので心強いとは考えたが、あまり話を聞かれたくはない。


「大丈夫ですよ。ミレーユ様がお話をされている間は、私は席を外します。」


 表情には出していないつもりだったが、フレデリック様は笑顔で言ってくれた。

 おそらく、ゲームをプレイした私と『勇者たかひろ』の会話にフレデリック様の理解は追いつかない。私が色々と知っていることを勘繰られたくはなかった。


 それから夜道を二人で歩くことになる。


「……でも、よくお一人でお城を抜け出せましたね?夜中も警護の兵士はいるんじゃないんですか?」


「ええ、兵士はおりますが、行動を把握しておけば簡単に抜け出せます。警護と言っても形式的なものですからね。」


「へぇ、そうなんですね。ですが、フレデリック様がお城を抜け出したりするなんて意外でした。」


「私もです。」


 フレデリック様自身も驚きの行動だった。変な影響を与えてしまっていないか心配になってしまう。



 先日発見した場所に二人は辿り着く。

 屋敷は隠されてはいなかったが、夜の闇に溶け込んでしまって真っ黒の物体にしか見えなかった。

 情報が間違いなければ、屋敷周辺には誰もいないはず。それでも、屋敷に近づく時には慎重になってしまう。ここで見つかるようなことになれば事件になってしまうのだ。

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