第20話
「昔はゲームの主人公だったのに、今は監禁されている。……ゲームでは魔王を倒して英雄になるエンディングを迎えたはずなのに、あの後に何があったんだろう?」
そのことを直接聞けるチャンスが目前に迫ってきていた。
澤村美憂の生きた時間の中で、『魔王と七つの門』に続編は発売されていなかった。あの人気の無さを考えれば当然のことだが、クリアした後に起こっていることを体験していた。
「それにしても、『破廉恥な罪』って……。」
どうしても気になってしまうワードだった。
屋敷の場所を記憶しながら、レティシアの家まで戻った。
レティシアからカギを受け取って屋敷に向かうことになるので道順を確認しておかなければならない。
朝にこれだけの仕事をしていたことで、学校には遅刻することになった。
「……先生、申し訳ありませんでした。朝、学校に向かう途中で体調が悪くなってしまいました。」
「えっ!?大丈夫だったのですか?」
「はい。大変親切な方が休ませてくれたので、もう平気です。」
これだけで、お咎めは無し。普通は、親切な人でも注意しなければならないが、この世界で人を疑うようなことはしない。
ただ、レティシアは遅刻の理由を知っていた。
「ミレーユ様、場所はお分かりになりましたか?」
「ええ、バッチリよ。今朝、そこまでの道順も確認してあるわ。……レティシアの方はどう?」
「はい。兄が持ち帰っているカギの保管方法は分かりました。持ち出すことも可能だと思います。」
「そうなの?やったじゃない!……場所も分かってるし、カギも持ち出せる。必要な条件はクリアできたわね。」
私は喜んでいたが、レティシアは浮かない表情をしている。きっと、まだ躊躇いがあるのだろう。
カギの在処を探ったりもしてくれたのだから反対しているとは思えないが、兄の仕事に支障が無いかを案じてしまうブラコンが発動してしまったらしい。
「大丈夫よ。レティシアにも、レティシアのお兄さんにも迷惑をかけるようなことにはならないわ。私が保証する!」
疑うことを知らない人たちばかりなので、罠があるとは考えていない。暗闇に紛れて行動すればバレることは絶対ないという自信があった。
「私が『勇者たかひろ』の近くにいても安全かを確認しないと、お兄さんは危険な仕事を続けることになるのよ。なにしろ、『勇者たかひろ』は『レベル99』なんだからね。」
「……そ、そんな。」
「このまま、お兄さんが無事に帰ってこられるか心配する毎日を過ごすことになってもいいの?」
「そんなのは嫌です!」
だんだん目的のために手段を選ばなくなってきていた。
良心を優先させるか、目的達成を優先させるか、どちらかしか選べないのだから今は仕方ない。
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さすがに連続の遅刻はマズいので、作戦の決行は学校が休みの前夜にした。闇に紛れての仕事が予定されているので、授業の時間を睡眠に当てることで準備する。
貴族であっても、ロシュフォール家の警備は甘い。
私一人が夜に家を抜け出したとしても、誰にも気付かれることはないだろう。
「……それではミレーユ様、今晩お待ちしております。」
レティシアとの段取りも終わって、後は夜になるのを待つだけになる。悪い事をしているような背徳感や『勇者たかひろ』との対面を控えて緊張感は高まっていった。
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