第19話
「ゴメンなさいね。大丈夫?」
「……はい。……ま、全く問題ありません。」
ジェラールを見ていると、善い人でいることも大変だと思わされてしまった。何が目的かも知らされずに、私の要求に全力で応えなければならない。
そして最後は、薄っすらと汗を浮かべた爽やかな微笑みでジェラールは語るのだ。
「ミレーユ様のお役に立てるのであれば、これくらいは大したことではありませんよ。」
私にも良心はある。その良心が少しチクチクと痛み出した。
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翌朝、早速実践。追跡成功の確率を上げるために、レティシア兄を観察した。
――うん。やっぱりカッコイイ。……顔も良ければ、背も高い。フレデリック様の話から考えると、この国ではエリート。
貴族であるミレーユ基準だと、エリートであることは関係ない。だが、澤村美憂を基準にするとエリート族は高得点になった。
イイ男探知機能がレティシア兄に反応してくれれば、追跡の失敗は減ることになる。
家を出発して、しばらく歩いたレティシア兄は急に立ち止まった。そして、少しだけ周囲を見回した。
――あっ、ここから隠れるんだ。
ここからは集中力を高める必要があった。レティシア兄が予想以上に慎重であれば、来た道を戻ってくることもあり得える。
だが、能力に目覚めていた私の感覚は鋭かった。
レティシア兄が通ったであろう道を迷わず追うことが出来てしまう。追いつかないように、ゆっくりと歩いていたがレティシア兄の足取りは分かっていた。
――イイ男なら簡単に尾行できるって、他には何に役にも立たない能力よね。
今回の尾行作戦で、自分がアラサーである疑いと微妙な能力だった。
――でも、尾行はできてるけど、別にレティシア兄に興味が湧いてくることもないな……。
この世界の男たちは見た目が良くても、あまり個性がない。誰もが画一的な印象で、ドキドキさせられる場面が少なかった。
嫌味なヤツ、根暗なヤツ、乱暴なヤツ、我儘なヤツ、そんな人が比較対象としていてくれることの重要性を感じてしまう。
そんなことを考えて歩いていると、少し薄暗い森の中になっていた。危険の少ない国ではあるが、こんな場所は緊張してしまう。
「……あれ?」
木々の間から屋敷の一部が見えていた。周囲の景色に混ざってしまいそうなくらいに地味な建物だった。
「たぶん、あそこに『勇者たかひろ』が閉じ込められてるんだ。」
屋敷は塀で囲まれており、入口は一か所だけ。その入口が見える場所で、木の後ろに隠れていた。
場所を間違えていなければ、すでに塀の向こう側にレティシア兄は入っており、間もなく屋敷は見えなくなるはずだ。
「……あっ!」
景色が陽炎のようにユラユラと動いた後、屋敷は周りの木々に溶け込んでいった。元から薄暗い場所だったので、何の違和感を抱くこともなく隠させてしまう。
「一発で正解に辿り着いちゃった。……あの屋敷に『勇者たかひろ』がいることは間違いなさそうね。」
見えてはいないだけで屋敷は存在している。
迂闊に近付いて警戒されてしまっては意味がないので、距離を保って立っていた。それでも、核心に近付けていることで高揚感は高まっていく。
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