第18話
練習場所は学校近くにある林道に決めて移動した。本番に近い環境で練習しておきたかったからだ。
「……では、この辺りでいかがでしょう?」
「ええ、いいわ。こんな感じの場所で見分けられるようになれれば、完璧かも。」
私の返事を聞いたジェラールが何か小声で呟いた瞬間、ジェラールの周囲の景色がユラユラとし始めた。
レティシア兄の時は離れて見ていたが、今回は至近距離で見ている。至近距離で見ていても驚きは変わらず、無駄だと分かっていても目を擦ってしまった。
「えっ?……えっ!?……やっぱり分からないわ!」
「こんな感じでよろしいでしょか?」
姿は見えないが声は聞こえてくる。治癒魔法を見た時も驚かされたが、これには違う感動があった。
「すごい、すごいわ!あんなに近くにいたのに、本当に見えなくなってる。」
ただ、何となく目に映る景色に違和感を覚えていた。時々、ユラユラと揺れているように見えている。
「多少の違和感があっても、これだと分からないわ。……お風呂とかの覗きに使われても気付けないかも。」
これを聞いたジェラールは慌てて魔法を解き、真っ赤な顔をして姿を現した。
「そ、そんなことは、絶対にしません!ぜ、絶対にです。……この魔法をかけている時は、術者も外の景色はハッキリ見えなくなるんです。」
「あっ、ゴメンなさい。ちょっと言ってみただけだから、そんなに慌てなくても大丈夫よ。」
ちょっとした冗談も通用しないらしい。あまり必死に言い訳する方が怪しく感じてしまうのだが、ジェラールがそんなことをするはずないことは分かっている。
ただ、この魔法の弱点を把握することができた。術者も見えにくくなるのであれば尾行がバレることはなさそうだった。
「……では、気を取り直して練習を再開しましょう。」
フレデリック様がジェラールに声をかけた。まだ若干顔が赤い気もするが気持ちは落ち着けているらしい。
気になるのは声をかけたフレデリック様の顔も赤くなっているように見えてしまう。
――ちょっと『覗き』なんて言葉を聞いただけでこんなにも反応されるなんて……。なんて初心な世界なの?…………あれ?
余裕の考えをしていると、嫌な結論に到達してしまう。澤村美憂の15年の人生の後、異世界転生をしてから14年。
私は『アラサー』になってしまう。
「ミレーユ様?……再開してもよろしいでしょうか?」
一転して落ち込んでいる私にジェラールが優しく言葉をかけてくれた。
「ええ、お願いします。」
ジェラールとの練習の中で、私は特殊能力に目覚めてしまう。
それは魔法とは全く無関係の能力で、『イイ男感知機能』と呼ぶべきものかもしれなかった。かなりの高確率で行き先を突き止めることができるようになってしまう。
――なんだか、良い匂いがする?……気のせいかしら?
その感覚を辿った先にジェラールがいるのだ。
「すごいじゃないですか、ミレーユ様。ほとんど完璧にジェラールを追いかけることが出来ていますよ。」
「そうですね。私も、出来る限り精度を上げて魔法を使っていたのですが、隠れきることは出来ませんでした。」
「……ええ、ありがとうございます。」
この能力を誇っていいのか分からず、嬉しそうにしている二人とはテンションが違っている。ちなみに言えば、レティシア兄もイイ男である。同じ方法が通用する可能性は高かった。
それから、ジェラールは所謂MPが消耗し切るまで付き合ってくれたが、8割以上の成功率は確保できている。
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