第15話
だが、いくら天使に変わったとしても、ジュリアの前で計画を話してしまうことは躊躇われた。
――でも、秘密を共有している人間は強固な関係を築けるとも言うわね。ジュリアが告げ口をするとも思えないから、味方を増やしておくのもいいかな?
ここまでの話を聞いていたジュリアを野放しにしてしまう方が危険かもしれなかった。
そんなことを考えながらジュリアを凝視していると、視線に気付いたジュリアの頬は少し赤くなった。
「……あの、ミレーユ様?……どうされたんですか?」
「ジュリア、これからここで話すことは絶対に秘密よ。あなたを信用してるんだからね。」
「えっ?……はい。大丈夫です。……絶対、他人に話したりはしません。」
自分が巻き込まれただけとも知らず、真剣な顔で私に返事をした。多少、罪悪感に疼きはあったが、気にせずに話を再開した。
「レティシアのお兄さんは、『勇者たかひろ』の屋敷に入るためのカギを持っているらしいの。……夜、そのカギがあれば『勇者たかひろ』の屋敷に忍び込めるわ。」
「……カギ、ですか?」
「そうよ。カギがあるの。……夜は監視する人もいなくなるみたいだから、私が忍び込んで『勇者たかひろ』と会ってみる。」
「ミレーユ様がお話をして、善い人か悪い人かを見極めるのですね?」
「良い方法だとは思わない?」
「……ですが、兄が持っているカギを見たことがありません。お仕事で使う物なので、大切に管理しているのかも……。」
「諦めてしまって、いいの?」
レティシアは悩む素振りを見せていたが、諦めることはないと思う。穏やかな人ばかりの世界で、珍しく語気を荒げて感情を露わにしていたのだから、レティシアのブラコンは本物だ。
「……少し、お時間をいただけませんか?」
「ええ、もちろんよ。」
これで、確実に『勇者たかひろ』との面会に一歩近づけたことになる。計画通りとはいかなかったが、お腹が痛くなった演技を練習しなくて済んだことは、正直助かる。
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レティシアがカギの確認をしている間、私は『勇者たかひろ』の屋敷の場所を見つけておく必要がある。簡単な方法で見つかると思っていたので、油断していた。
朝早くに、レティシアの兄を尾行すれば容易く発見できるはずだったが、『かなり優秀』と妹が評するだけのことはあった。レティシア兄は家を出て、少し歩くと周囲を見回してから姿を消した。
――えっ?……えっ!?……どこに行ったの?
治癒魔法以外の魔法を目にする機会がなかったので、魔法の効果を理解するまでに時間がかかった。
フレデリック様が、『勇者たかひろ』の屋敷を魔法で隠していると言っていた。それだけの魔法を使えるレティシア兄が、自分の姿を隠すくらいは何の苦労もないのだろう。
「……フレデリック様、ちょっとお時間よろしいですか?」
「え?……はい、何かあったのですか?」
自分で調べるよりも聞いた方が早い。
あまり色々な人に聞いて回るのは危険だが、すでに巻き込んでしまっている人に聞くことには躊躇いがなくなっている。
「レティシアさんとはお話ができたんですね?」
「はい。レティシアと話はできて進展はあったのですが、また行き詰ってしまいました。……お力をお借りできませんか?」
「……はぁ……、私で出来ることがあるのでしたら……。」
こんな時、この世界の人たちの『模範的』行動は裏目にでてしまう。困っている人を助けることが断れないのだ。
フレデリック様は苦笑いをしているのを見ると、本当は迷惑に感じているのかもしれない。
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