第14話

「あのぅ、ミレーユ様?……『勇者たかひろ』様とお会いしたかったんですか?」


「うっ……。」


「フレデリック様とも、お話をされているんですよね?」


「ちょっとだけだよ。」


「……もしかして、フレデリック様から私の兄のことを聞かれたんじゃありませんか?」


「な、何のこと……、かしら?」


 冷汗が止まらず、レティシアの顔を正面から見ることができない。可愛らしい悪魔は、『?』顔で二人の会話を聞いていた。

 こんな状況を想定した計画は練っていない。


「そうですよね。ミレーユ様が、授業で分からないことがあるなんて、おかしいとは思ったんです。」


「……ゴメン。……怒ってる?」


 ここまでのネタばらしをされてしまっては、誤魔化しようがない。短時間で、ほとんど全てを語られてしまっている。

 レティシアに協力をしてもらう計画は脆くも崩れ去った。


「……いいえ、怒ってなどおりませんわ。」


 レティシアからの返事は優し気な感じで、本当に怒ってはいなさそうだった。


「こんなことをしなくても、最初から言ってくだされば良かったのに。」


「……えっ?」


「実は、私も気になってはいたんです。」


 予想外の展開になってきた。驚いてレティシアを見ると、微笑みを浮かべて私を見ている。


「気になってるって、『勇者たかひろ』のこと?」


「ちょっと違うんです。……兄が、仕事で監視している人が、どんな人なのか気になっていたんです。家では、あまり仕事の話はしないんですが、少しだけ聞いたことはありました。」


「お兄さん、魔法が使えるんだよね?」


「はい。この国では、かなり優秀な方だと思います。……ですが、『勇者たかひろ』様を監視することは大変みたいなんです。詳しくは分からないのですが、『レベル99』がどうとか話しているのは聞いたことがあります。」


「はぁ?……『レベル99』?……どんだけ暇だったのよ。」


 生まれ変わる前の父親のことながら、呆れてしまう。結構なクソゲーに、そこまでの時間を費やしてカンストさせたことが判明した。

 私が呆れていると、レティシアは驚いた顔をしている。


「ミレーユ様は、『レベル99』が分かるんですか?」


「一応……ね。」


「それでは、『勇者たかひろ』様の近くにいることが危険ではないか分かりますか?……兄は、危険な仕事をしているのではないか心配なんです。」


「……どうなのかな?……たぶん、それほどの危険はないと思うけど、人知れず閉じ込められているのなら危険があるのかな?」


 私が知っている『勇者たかひろ』が貴弘に近い性格であれば、危険はない。だが、クリアして『勇者たかひろ』に自我が目覚めてしまっていれば、未知の存在だ。


「どちらなのですか!?」


 少し語気が荒くなっているように感じた。兄が心配なのは間違いないが、おそらくはブラコンなのだ。

 ここで私は『レティシア=ブラコン』という武器を手に入れた。きっと、不敵な微笑みを浮かべていたと思う。


「いい、レティシア?……『レベル99』っていうのは、強さを測るための基準なの。たぶん99は最高値よ。」


「え?……ということは、『勇者たかひろ』様が最高にお強いことを表しているのでしょうか?」


「そうよ。強さとは使う人間によって、善くも悪くもなるわ。……『勇者たかひろ』が悪い事に力を使ってしまえば、お兄様は無事ではいられないと思うの。」


「……そんな……。どうすればいいの?」


「あなたの協力があれば、『勇者たかひろ』が善い人か悪い人かを調べることもできるのだけど……。」


「何をすればいいんですか?……教えてください!?」


 奇跡的な形勢逆転劇。

 どうやらジュリアは、レティシアにとっての悪魔で、私には天使だったらしい。当のジュリアは何を話しているのか分かっていない表情だったが、ニコニコして見ていた。

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