第13話
「笑わないで聞いてくれる?」
「もちろんです。」
「私は、この世界を面白くしたいの。新しいことを発見して、上手くいかないときは悩んだりもして、充実した毎日を過ごしたいの!」
「……充実した毎日……、ですか?」
「そうよ。真面目に生きていくのも悪くはないけど、変化がなさ過ぎる毎日って退屈でしょ?人生、山あり谷ありで、生きてるって実感したいのよ!」
「危なくはないんですか?」
「危ないこともあるかもしれないけど、それなりに覚悟はしてるわ。万が一に備えて、お小遣いはずっと貯金してるのよ。」
「……万が一とは、どんなことなんでしょうか?」
「国外追放とか、貴族の娘でいられなくなるとか、いろいろあるでしょ。私の貯金でも、ちょっとの間なら耐えられるはずなの。」
「えっ!?国外追放や称号のはく奪ですか?……そんなことは重大な事件ではありませんか?」
「もちろん、そんなことにならないようには気を付けるわ。覚悟の問題なの。」
調子に乗って熱く語っていると、目の前の唖然としたレティシアを見て、我に返った。
「……あっ、ゴメンなさい。」
この状況で『勇者たかひろ』の名前を出すわけにはいかなくなってしまった。フレデリック様の話によれば、『勇者たかひろ』は危険人物扱いになっている。
「いいえ、ミレーユ様が、そこまでお考えだったことに驚いてしまっただけです。」
「そうよね。……まぁ、ちょっと大袈裟に話したけど、考えているだけで実際に行動には移してないわ。」
「ですが、お小遣いを貯金して準備を整えてるとおっしゃっていましたが……。」
「な、何をするにしても、蓄えは大切でしょ?……それだけの話なの。」
「……はぁ。」
この世界での犯罪率は、数年間ほとんどゼロ。
私が転生してから、誰かが捕まったり裁かれたりした話は聞いたことがない。だが、悪役令嬢の演出を考案した時に国外追放くらいは考えてしまった。そのための備えなので、実際には必要なくなっていた。
――最悪……。どうやって会話を続ければ、『勇者たかひろ』の話題に持っていけるか分からなくなっちゃった。
レティシアが私に対して警戒心を持ってしまったかもしれない。
私も、自分がこの世界で異質な存在であることは薄々感づいてはいる。そして、今回の計画ではお泊り会を強行できるほどに仲良くなれなければ意味がなかった。
――今日は、一旦諦めよう……。
そう思った矢先、ジュリアが近くに寄ってきた。
「ミレーユ様は、今日も図書室で『勇者たかひろ』様のことをお調べなんですね。『勇者たかひろ』様の情報は集まりましたか?」
天使のような笑顔で質問するジュリアを憎らしく感じてしまう。一瞬、わざとではないかと疑いたくなるタイミングであり、可愛らしい笑顔に恐怖を抱いた。
「……な、なんの話かしら?……何か、か、勘違いをしているんじゃありません?……今日は、レティシアに勉強を教えてもらっているだけよ。」
「え?『勇者たかひろ』様とお会いしたいとおっしゃっていたじゃないですか?フレデリック様とお話をされて、お会いできるようになったんですか?……私も、あの後でモルガンに少し聞いてみたのですが分からないみたいで、お会いできるようになったのなら安心しました。」
誤魔化せないくらいに一気に話をされてしまった。
悪意がないことが、これほどに恐ろしいとは思っていなかった。油断している時に笑顔で近付いできて、ブスリと刺されるような感覚だった。
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