第12話
「……あの、ミレーユ様。……また、私がお役に立てることがあれば言ってください。」
「えっ?いいんですか?」
「私も、ミレーユ様から話を聞くまでは『勇者たかひろ』様について考えることはありませんでした。……ですが、私にも気になることはあるのです。」
「気になることがあるんですか?」
もしかしたら、フレデリック様も巻き込めるかもしれないと打算的に考えてしまう。
ただ、フレデリック様の表情は真剣で、何か悩んでいることがあるのかもしれない。私の目的である『楽しい生活を送りたい』だけとは違って、深い思案があるのだろう。
それからはレティシアの観察を始めることになった。
こっそり美少女の観察をすることは案外悪くない。悪役令嬢を目指していた時、ヒロイン候補になっただけのことはあり、何気ない所作まで優雅だった。
これほど、一人の少女を追っかけたことは澤村美憂の15年でも経験がない。
――変な性癖が目覚める前には勝負をかけないと……。
あまり時間をかけてしまうのは危険な気がしていた。何か別の扉が開いてしまうような前兆を感じてしまった。
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「あのぅ、レティシア。今日の授業で分からなかったことがあるのだけれど、教えてもらえないかしら?」
数日考えた結果、こんな方法でしか接触できなかった。レティシアが放課後の図書室で過ごしていることも確認しており、出来るだけ自然に振舞う。
いきなり、『勇者たかひろ』の名前を出して、警戒されてしまうことは避けたかった。
――『勇者たかひろ』のことを隠しておきたい人が多いのは確実。今までは無防備に『勇者たかひろ』の名前を出し過ぎたかもしれないから気を付けないと……。
とりあえずは学習して、反省を活かす。
「私で、よろしければ。」
優しい笑顔で答えてくれる。
いつも凛とした雰囲気だが、柔らかい顔になると同性でもドキドキさせられた。
今回、練りに練った計画は、
①レティシアと仲良くなる。
②仲良くなったレティシアとお泊り会を開き、屋敷に潜入。
③兄が持っているカギを借りる。
④お腹が痛くなったと言って、先にベッドに入る。
⑤『勇者たかひろ』の屋敷に向かう。
⑥朝までに帰ってきて、カギを返却する。
所々で粗いところはあるが、これ以上の計画は思いつかない。
お泊り会で先に寝てしまう暴挙をレティシアが納得できるのか、どうやってレティシアがの屋敷を抜け出すのか。細かな点さえ勢いで乗り切れば、完璧な計画だ。
「ありがとう。……ここなんですが。」
「あっ、ここですね。……ここは……。」
丁寧に説明を書き加えながら教えてくれた。パッと見は知的で、冷たい印象を与えがちだが包み込むような優しさがある。
教えてもらうことが私の目的ではないので、ちょっと心苦しくなった。
「へぇー、こうやって解けばいいんだ。」
澤村美憂の時は勉強していなかったが、暇過ぎる今はクイズ感覚で勉強しているので、成績は良かった。だが、成績優秀者として名を連ねるよりも大切なことがあると信じている。
「さすがは、レティシア!……分かり易い解説で助かったわ。」
「そんなことはありません。ミレーユ様の理解が早いだけです。」
事実、先生よりも分かり易いと思う。
「レティシアは、先生とか向いてるのかもね。」
「……えっ?……そうなんでしょうか?」
あまり良い反応は見せなかった。少し俯きながら表情を暗くするのを見て、私は言葉の選択を間違えたのかと思った。
「レティシアは、何かやりたいことがあるの?」
「……まだ将来のことは何も考えておりません。……あの、ミレーユ様は、やってみたいこととかあるんでしょうか?」
「えっ!?私?」
こんなことを聞かれたのは初めてだった。
この世界で生きていると、時間だけが過ぎていく感覚になってしまい、過去も未来も関係なくなってしまう。今日の繰り返しが明日なのだ。
未来への希望を語り合える喜びを実感してしまう。
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