第11話

「……分かりました。少し、お時間をいただけないでしょうか。」


「はい。よろしくお願いいたします。……今、助けを求められるのはフレデリック様しかいないんです!」


 これはダメ押し。より確実に追い込むための手段だった。


 案の定、フレデリック様は覚悟を決めたような表情になり、力強く『承知しました』と告げた。

 これで、あとはフレデリック様からの報告を待つだけになる。

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 一週間ほど待たされることになったが、何の進展もなかった時間を考えれば短いものである。


「……『勇者たかひろ』様は、町外れにあるお屋敷に住んでいるそうです。」


「町外れのお屋敷?……そんな物、ありましたか?」


「昼間は、魔法によって屋敷が視認できないようにされているらしいのです。魔法が使えなければ、夜にしか近付くことは難しいと思います。」


「魔法で隠してるんですか?……わざわざ?」


「ええ、昼間は魔法を使える者が交代で監視しています。」


 昼間は監視しているが、夜間は潜り込む余地があるのかもしれない。きっと夜中まで仕事をさせたくない配慮が考えられる。

 厳しいのか緩いのか、実に分かり難い世界なのだ。


「……夜に忍び込むしかありませんね。」


「やはり、そうなってしまいますか……。ですが、忍び込むことは不可能だと思います。屋敷は外側から厳重に施錠されてしまい、朝まで開けられないようになります。」


「『勇者たかひろ』が、屋敷の外に出られないようにするためですか?」


「そうなります。翌朝、監視者がカギを開けるまでは屋敷に出入り出来なくなります。」


 フレデリック様は、そこで言葉を止めてしまった。私も悩むふりをしてみせる。本当は、フレデリック様が解決方法を知っていて話していないことに気付いていたのだ。

 解決策もなく、私に話をするはずがない。そんな確信があった。


「……では、私が『勇者たかひろ』に会うことは不可能なんですね?少しお話するだけで私の願いは叶うのに……。」


 悲しそうな演技をしてみせる。

 ここで涙でも流せれば、最大限の効果を得られるが、そこまでの器用さは持ち合わせていなかった。


「私の立場としては止めなければならないのですが、人生を左右するほどの問題が絡んでいるのであれば、やむを得ません。」


 表情は変えずに、心の中で『ヨシッ!』と思った。

 この世界に転生してから、ズル賢く振舞う方法を身につけていたらしい。澤村美憂の時は、ここまでではなかった。


「……何か方法があるのですか?」


「はい。レティシアさんの協力を得られれば、何とかなると思います。」


「えっ?……レティシアさん?……レティシア・デルクールさん?」


「そうです。レティシアさんのお兄さんが、魔法を使える監視役として任に就いている日があるんです。その時に、カギを持ち出すことができれば……。」


 方法はあるが、これは予想外にハードルが高かった。

 住人全てが真面目な世界において、一際真面目なレティシアが今度のターゲットになる。


「申し訳ありません。……私がお力になれるのは、ここまでなんです。」


「そうですよね。貴重な情報、ありがとうございました。……私一人では知り得なかったことだと思います。あとは、とにかく頑張ってみます。」


 フレデリック様の立場を考えれば、これだけの情報を教えてくれたことも奇跡に近い。

 先代の国王たちが隠している『勇者たかひろ』について、孫が居場所を教えたり、ヒントを与えたりしてくれたことになる。

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