第8話

「あっ、いえ、今度の自由研究のテーマにしようかと思っていたんです。……ダメですか?」


「ダメではありませんが、自由研究のテーマにするには相応しくないかもしれませんね。せっかく研究するのであれば、別のテーマにした方が良いと思いますよ。」

 

 先生から情報を引き出すことは不可能だと悟った私は、心の中で舌打ちをする。

 屋敷の蔵書量は学校の図書館を上回っているが、それでも30年前の情報は暗黒の時代のように微々たるものしかなかった。

 歴史書での扱いも僅かしかなかったし、世界を救った勇者にしては扱いが雑過ぎると感じていた。もしかすると、この世界ではタブー扱いになっているのかもしれない。


「30年ちょっとしか経ってないんだから、もっと沢山の情報があってもいいはずなのに……。」


 それも、『勇者たかひろ』は生きていて、この世界のどこかに存在している。それを隠す理由が分からない。


――記憶しているゲームの情報を整理して、まとめておいた方がいいのかな?


 ゲームの中で『勇者たかひろ』が住んでいた家は、町の南西にある小さな民家だった。ただ、ゲームの中でモブの住民は数えるほどしかいなかったのが、実際には数万人が住む大都市になっている。

 それでも、町の形状や城の配置など類似点は多くあった。記憶しているゲームの町の地図を書いてみて『勇者たかひろ』の生家を探ってみることにした。

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「昔のゲームは容量が限られてるから仕方ないけど、同じ場所とは思えないわね。」


 足で情報を稼ぐしかなかったが、ポッチャリ体形には少し辛い。真新しい発見でもあれば気晴らしになるのだが、町の中を歩いていると、思わず愚痴も漏れてしまう。


「……それにしても活気がない。」


 人通りはあるが、整然と同じスピードで歩いている。お洒落をしている人もなく、地味な色合いの服ばかりで装飾品は少ない。

 お店もそれなりに数はあるが、潰れない程度の客足があるだけで盛況な店はない。


 無駄な筋肉だったとしても、ニコニコ職業紹介所の男たちの熱い語りが懐かしくなってしまう。


「これが本当にゲームの世界を反映しているって言えるのかな?……もう少し派手さのあるゲームだったはずなんだけど。」


 とにかく地味だった。


「あのぅ、この辺りに『勇者たかひろ』が生まれ育った家があると思うんですけど、分かりませんか?」


 30年以上前のことになるので、ちょっと年配の人を見つけては声をかけてみた。


「えっ?……そんなお家が?申し訳ありませんが、ちょっと分からないですね。」


「はぁ、長く住んでおりますけど、聞いたことはありませんね。お役に立てず申し訳ない。」


 と、皆がこんな感じになってしまう。

 それほど昔のことでもないのに、記憶から消されてしまっていることは変に感じてしまう。仮にも世界を救ってくれた勇者なのだ。


「……でも、絶対にこの辺りにあるはず!」


 付近を歩き回っていると、不自然な空き地を発見した。


「たぶん、ここに家が建っていたんだわ。」


 確証はなかったが、直感している。もう、この場所しかあり得ない状況だった。

 単純なRPGであったのでミステリー要素はなかったが、笑顔で『勇者たかひろ』の存在を隠すような住人たちに対して先生と同じ恐怖を感じていた。

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