第9話

「……結局、収穫は得られなかったか。」


 一日かけて歩き回り、何もない空き地を発見しただけで終わってしまった。ドット絵のゲームの中で見た勇者の家は、ベッドと台所があるだけの小さな家だったが、消えてしまったことに寂しさを感じてしまう。

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 今の家族に質問することも考えたが、『貴族とは皆の模範になるべき』と常々言われているので、躊躇ってしまう。

 家にある本や学校の図書館の情報に限界も感じているので、この国最大の王立図書館を頼ってみた。


「ミレーユ様、最近ずっと王立図書館に通ってらっしゃいますけど、何かお調べ物でもあるんですか?」


「ええ、30年前に世界を救った『勇者たかひろ』についての情報を集めてるんです。……王立図書館なら何かあると思ったんですけど、全然見つからなくて困ってるんです。」


「どうして、そんなことをお調べになっているんです?」


「……ちょっと興味があってね。」


 悪役令嬢を演じようとしていた時、標的にしようとしていたジュリアに妙な懐かれ方をしていた。イジメようとしていた私に関心を持ったらしく、いろいろと詮索されてしまう。


「それでしたら、先代の国王様が『勇者たかひろ』様のお仲間だったと聞いたことがあります。」


「……えっ!?……レイモン・ベルトリオ様が?」


 それにしても、今まで苦労が何だったのかと思ってしまうほど簡単に情報が出てきてしまった。ただ、ゲームをした時の曖昧だった記憶で、登場人物の中に姫と王子がいたことが思い出せた。


「あれ?……先代の国王様の奥さんってノエル様だったわよね?」


「ええ、王妃ノエル様。……ノエル様も『勇者たかひろ』様と一緒に冒険をしたお方ですわ。」


 勇者と気の弱いレイモン王子。そして、ノエル姫。

 確かに魔王を倒すために冒険をした時のパーティーに並んでいた名前だった。


「そうだった……。でも、どうして『勇者たかひろ』とノエル様が結婚しなかったんだろ?」


「『勇者たかひろ』様は結婚していないはずですよ。」


「結婚してないの?……冒険の途中で、ノエル様とあんなにイイ感じだったのに、どうして?」


「え?冒険の途中でイイ感じって、どういうことなんです?ミレーユ様は知ってるんですか?」


「……あっ。……ゴメン、別の物語と間違えてた。」


 これはゲームをプレイした人間にしか分からない情報だった。

 国王から魔王を倒す旅に出るように言われた時、頼りない王子を鍛えてほしいから一緒に連れて行けと頼まれた。

 そして、隣国の姫が魔物に攫われてしまって、勇者たちが助け出した後に『自分も行きます!』となって、三人でパーティーを組むことになった。


「でも、どうしてジュリアは、そんなことを知ってるの?……色々な本を読んだけど、詳しいことは載ってなかったわ。」


「私の家に来てくれている庭師のお爺さんが、御者として働いていた時にフレア様が魔物に攫われてしまったらしいんです。……それで、その時のお話を少しだけ教えてくれたんですわ。」


「……あぁ、あの人か。」


 私の頭の中で、ドット絵のモブが『ひめがさらわれた』を連呼しながら馬車の近くで慌てている光景が甦った。

 レイモン王子、フレア姫、慌てるモブ。ゲームの中で知っている人物が、実在する人間となって登場してくることは何だか少しだけ興奮してしまう。


「え?……ミレーユ様もモルガンさんをご存じなんですか?」


「モルガンって言うんだ。……ちょっと感慨深いものがあるわね。」


 訳の分からない不思議顔になっているジュリアに詳しく説明してあげることはできない。私は一人で、名前のなかったモブに名前があったことを知って感傷に浸ってしまった。

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