第6話
「……魔法を使う依頼って、こういう内容ばかりなんですか?」
「ああ、水撒きくらいなら魔法を使わなくても出来るからランクは低い。でもな、赤ちゃんが眠っている間、柔らかい風を送り続けるのは大変で微妙な調整が必要になるんだ。お母さんを休めることにもつながるから、ランクは高いんだぜ。」
得意気に語る男の言葉が私には虚しく響いていた。
すごく良いコトを言っているのは分かるのだが、見た目の荒っぽさとのギャップが大き過ぎて理解に困る。
「魔法を使って、何かと戦うとかはないんですか?」
思わず漏らした言葉で、部屋の中の空気が一気に変わる。奥に座っている男たちもザワつき始めていた。
言ってはいけないことでも言ってしまったのかと思って、焦ってしまったが、
「女の子が『戦う』なんて言葉を使うもんじゃない。……何か嫌なことでもあるのなら、俺たちが相談に乗るから気持ちを穏やかにするんだ。」
「……あ、ありがとうございます。」
そして、受付けのお姉さんが出してくれた牛乳を飲みながら、依頼を引き受ける意義を熱く語る男たちの話を聞かされることになった。
当初の予定であった魔法を使える人もいたが、宴会芸程度の効果しかなくて、完全に期待を裏切られてしまう。
「病気の人、お年寄りの人、困っている人たちの為に働けることは幸せなことなんだぜ。依頼する人も、依頼を受ける俺たちも笑顔になれるんだ。」
「……だから、ニコニコ職業紹介所?」
「そうだ。ピッタリの名前だと思わないか?」
「あっ、はい。そう思います。」
この男たちは、スローライフを満喫しているのかもしれない。そこに馴染めない私が悪のような気分になってしまった。
お土産にビスケットを渡された私は帰路に就く。
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それでもまだ、絶望するには早すぎる。
失敗を繰り返して14歳になっていた私は、対応策を練るために王立図書館に通い詰めていた。
そして、この世界の歴史を記した一冊の本を発見した。
この発見は、私に転機を与えてくれる大きな出会いであり、これまで不思議に感じていたことを一気に解決する糸口かもしれなかった。
まず判明したことは、転生してきた世界が私も知っているゲームの中だということ。だから、ルナティシア王国にも聞き覚えがあったのだ。
それは悪役令嬢が登場する世界やスローライフを題材にした世界ではなくて、30年以上前に作られて全く売れなかったRPGそのものだ。
『『勇者たかひろ』は、魔界に通じている七つの門を閉じて、門を支配していた魔王を倒す。そして、世界に再び平和をもたらした。』
この短い記述の中には情報が詰まっており、大切なキーワードがあった。
最も重要なポイントは『勇者たかひろ』で、漢字表記は『貴弘』になることを私は知っていた。その人物は澤村貴弘であり、澤村美憂の父になる。
私も、暇を持て余していた時に遊んだことがあり、『七つの門』を閉じて魔王を倒した記憶は微かに残っていた。
「……この世界って、30年以上前に発売されたクソゲーRPG『魔王と七つの門』だったんだ。」
ドット絵の勇者たかひろと仲間が、国王からの依頼で魔王を倒すための旅をするもので、当時大人気だったRPGを模倣した形跡があるゲームだ。
古いゲーム機とソフトは、物置の中に眠っており片付けをしている時に見つけた。父・貴弘が昔遊んでいた物らしい。
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