第5話
学校で教えてくれるのは治癒魔法だけだが、この世界には火・水・雷・風・土・氷で魔法は存在している。レアな属性魔法もあるが、魔法大学まで進学しないと詳しくは学べない。
そんな人材は貴重であり、多くが公共の仕事に就く。公共の仕事に携わると魔法の使用に関しては管理されることになるので、簡単には情報を引き出せなかった。
ただ、生まれつきの才能だけで治癒魔法以外を使用できてしまう人もいる。そんな稀有な人たちが仕事を求めて集まる場所がある。
「……ここだ。……ニコニコ職業紹介所。」
なんとも胡散臭い名前だ。明るい名前をつけることほど怪しいものはない。ブラック企業が、『アットホーム』を売りにしている感じと似ている。
明るい地名の土地が、実は災害のリスクが高かったりすることが多く、そのことを隠すために改名するらしい。
「今は冒険者もいなくなってるから、冒険者ギルドみたいなシステムは必要ないんだろうけど……。この名前は、ちょっと……。」
この『ニコニコ職業紹介所』は登録制であり、自分の能力に自信がある人が登録をしている。そして、その能力を必要としている人が依頼を出すのだ。
登録者はスグに対応できるように、この紹介所の中で数人が待機している。ここなら、魔法を使える人がいるはず。
ガチャッ――ドアを開けて、中に入っていく。
薄暗い室内には、数人の屈強な男たちが数人いた。鋭い眼光で、入ってきたばかりの私を見ている。
「あら?……お嬢さんが、どんなご用?」
受付けに立っていた綺麗な女の人が声をかけてきた。
「……あのぅ……、えっと、どんな仕事があるのか見てみたくって。」
「えっ?……あなたが仕事の依頼を受けるの?」
部屋の奥で座っている男たちから『クックック』と笑い声が聞こえてくる。
私は、ちょっとだけ嬉しかった。この世界にも、まだヒリヒリした空気を味わえる場所が残っていたことが分かって、期待値が上がっていたのだ。
「依頼は、そこのボードに貼ってあるわよ。右側が魔法を使用しない仕事の依頼で、左側が魔法が必要になる依頼。仕事の難易度でランクが違っているわ。」
それらしい雰囲気になってきていた。『ランク』なんて言葉が使われていることが嬉しくて仕方ない。
だが、仕事の内容を読んで、私の喜びは打ち砕かれる。
『ベルタさんの宅の屋根の修理』
『コリンヌさんのギックリ腰が治るまで犬の散歩代行』
『大通り沿いにある公園の雑草取り』
等が魔法を使わない依頼だった。一方の魔法を使う依頼に関しても、
『水属性の魔法:商店街の歩道にある花壇に水撒き』
『風属性の魔法:ミアさんの赤ちゃんが快適に眠れるように送風』
『土属性の魔法:橋の修理が終わるまで足場作り』
予想していたような依頼は一つもなく、どれも平和的な依頼しか見つからない。
いつの間にか、部屋の奥にいた屈強な男の一人が私の横に立っていた。
「お嬢ちゃんが受けられそうな依頼は、公園の雑草取りくらいかな。……コリンヌさんの飼っている犬は大型で、俺たちくらじゃないと散歩は無理だ。」
「はぁ、そうなんですね。……ありがとうございます。」
バカにするためではなく、アドバイスをするために近付いてきたらしい。何だか、この男の筋肉が無意味な物に見えてきた。大型犬を散歩するために体を鍛えているのかを聞きたくなってしまう。
魔法を使う依頼に関しては、魔法でなくても対応できそうな依頼しか見当たらない。この世界での魔法の価値が一気に下がってしまった。
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