第2話

「……どうして、わたくしが掃除なんてしなくてはいけないのですか!?わたくしのように高貴な生れの人間がやることではないはずです!!」


 授業が終わってからの教室で、私は声を上げました。

 私が生れた家は、かなり地位の高い貴族なので、高慢な態度を取ってみることにした。

 これで、クラス委員的なポジションであるレティシア・デルクールと対立する場面になるはずだ。真面目なレティシアが凛々しく言い返してくれれば、きっと皆から注目を集めるはずだ。


 私が悪者になることで誰かを引き立てられるなら、やってみる価値はある。私自身の立場は危うくなるが、多少の犠牲はやむを得ない。


――レティシアが『そんなことを言わずに、ちゃんと掃除しよう。』と反対意見を言ってくれれば……。それでも、私が『いやよ。』と言い返せば、皆からの反感を買えるはず。


 だが、私の目論見は脆くも崩れ去った。


「そうですわね。ミレーユ様のように高貴なお方がすることではないのかもしれません。……あとは、わたくしたちに任せて、ミレーユ様はお帰りください。」


「……えっ?」


 怒りの反論が聞けるわけでもなく、皆が笑顔で私の暴挙を許してくれる。これでは、悪役令嬢ではなくて単なる我儘令嬢でしかない。


――レティシアが私を説得するために頑張ってくれないとダメなのに!……私を説得できなかったレティシアを皆が慰める場面が作れないじゃない!!


 心の中で必死に呼びかけるが、レティシアは笑顔で『後はお任せくださいね』と言って、私を帰らせてしまう。

 なかなか思惑通りにはなってくれない。



「ちょっと、ジュリアさん?……少しくらい可愛いからって、調子に乗ってるんじゃありませんか!?」


 私がクラスで一番可愛いと思っているジュリア・フュネスに向けて、ありきたりな因縁をつけてみた。こんな時、語彙力のなさに悲しくなるが、現状では精一杯の悪態だった。


「……えっ?」


 言われた方は、ただただビックリしているだけ。

 ここで、泣き顔を見せてくれたり、怯えたりしてくれれば成立する。可愛い子の泣き顔や困り顔は、男子たちの『守ってあげたい』意欲を掻き立ててくれるはず。

 ジュリアが流す涙は武器に変わるのだ。


「ミレーユ様、どうされたんですか?」


 だが、これも笑顔で対応されてしまった。

 取り巻きの重要性を痛感させられた。私の後ろで『そうよ。そうよ。』と言って、便乗する子がいてくれれば相乗効果が生れて状況は変わるのかもしれないが、こんな理不尽な暴言に便乗する者はいない。 


 ただ、周囲にいた男子生徒たちが近付いてきた。心の中で『ヨシッ!』と喜んでしまう。ジュリアのリアクションが悪くても、男子たちがジュリアを庇えば目的は達成できる。


「ミレーユ様は十分に可愛らしいじゃありませんか。ジュリアさんも素敵ですが、ミレーユ様も素敵ですよ。」


「そうですね。ジュリアさんが調子に乗っていると誤解されてしまったのは、私たち男子がミレーユ様の魅力をお伝えできていなかったと言うことです。」


「そうであれば、申し訳ございませんでした。ミレーユ様が素晴らしい方であることを言葉にしていけるようにします。」


 すかさずフォローを入れてきたのは、乙女ゲームであれば攻略キャラになれるだろう三人が次々と恥ずかしい言葉を私に投げかけてきた。

 因縁をつけられたはずのジュリアも、『そうですわね。』とにこやかに同意を示して見ていた。

 こんなことをしても、私がフォローされてしまえば、居た堪れない気持ちにされてしまう。

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