第3話

「一体どうすればいいの!!??」


 イライラしている私は、次なるターゲットのアリス・ルグランが作ってきたお菓子を独り占めをして皆からの怒りを買おうとした。

 読書好き、料理好きの大人しめのメガネっ娘。ヒロイン選択には不可欠な要素になっている。


「あら?美味しそうなお菓子じゃないですか、わたくしが味見して差し上げますわ。」


 と言って、勢いよく全てを平らげた。せっかく作ってきたお菓子が、他の子に食べてもらうことも出来ずに、なくなってしまえば悲しくなってくれるはず。

 出来れば、涙を流しながら『皆にも食べてもらいたかったのに……』となってくれれば、同情を集めることができるだろう。


「えっ?……ミレーユ様、そんなに沢山召し上がってくださるなんて嬉しいですわ。」


 作ってきた本人が感激してしまっていた。


「そうですわね。美味しく召し上がってくださる方がいることは、お菓子にとっても素敵なことです。」


 他の子からも訳の分からない誉め言葉で、『どうぞ、どうぞ』と勧められてしまう始末だ。


 我儘を言い続けている私と、その我儘を全て受け入れられてしまう状況だ。

 そして、お菓子を欲していると思われてしまった私は栄養を与えられ続けてしまい、ポッチャリ体形に変えられてしまっている。



――私は、悪役令嬢にすらなれないの?


 赤髪で小柄で可愛らしい、ジュリア・フュネス。

 銀髪で長身で知的な、レティシア・デルクール。

 金髪でメガネっ娘でほんわかな、アリス・ルグラン。


 乙女ゲーム的な見立てで主要選択キャラは揃っているはず、その子たちを攻撃することで学校生活が盛り上がるのなら自分を犠牲にしてもいいとすら思っていたのに……。


 私は、栗色の髪で貴族令嬢。

 この世界では、かなり珍しいポッチャリ属性を獲得しているが、悪役としてのポジションを確立することは叶わなかった。



 それでも、反抗的な態度を示していれば、何かしらの変化が生れるかもしれない。


「先生、宿題なんて出さないでくださいませんか。わたくしのように高貴な人間は、学校が終わった後も忙しいのですから。」


 本当は、時間が有り余っていて宿題を出してくれた方が暇つぶしに丁度いいくらいだ。

 でも、個別に生徒を攻撃してみても意味がなかったので、学校のシステムに反抗するしかなかった。


「そうですね。皆さんも色々とお忙しいと思いますから、宿題はやめておきましょう。」


「……えっ?……先生が、そんな簡単に生徒の言葉に従ってしまっていいんですか?」


「もちろんです。先生と生徒の関係ではあっても、お互いの意見を尊重し合うことは必要なことです。」


 教室を見渡してみると全員がニコニコしながら、私を見ています。誰からの反論も上がることはなく、生徒個人の意見が簡単に受け入れられることになった。


「学校は皆さんが成長するために必要なことを学ぶ場所です。今ある方法が絶対ではありませんので、意見を取り入れて改善していくことも先生の務め。」


 力強く語る先生の言葉は素晴らしいものかもしれないが、今の私が聞きたい言葉ではない。

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 乙女ゲームのようにヒロインを必要としていない世界の可能性も考慮し始めていた。取っ掛かりとして何かないか、屋敷で働いている使用人に聞いてみた。


「郊外にロシュフォール家で管理しております菜園はございますが……。ミレーユ様も行かれるのですか?」


「行ってみたい!連れってってちょうだい!」


「もう何年も使っていないので、少し荒れてしまっておりますが大丈夫でしょうか?」


「荒れた場所から始めるのが醍醐味でしょ。ちょうどいいわ。」

 

 異世界転生した先でのスローライフ。のんびりした世界ではあるので、十分に考えられるかもしれない。

 手始めに土と戯れる時間の過ごし方も悪くないと思っていた。

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