異世界生活は、攻略されたゲームの中で……。

ふみ

第1話

「…………退屈。」


 この言葉を口にしたのは何回目だろう。

 一日一回は必ず口にしていおり、かなりの回数になっているとは思うが、この言葉しか出てこない。


「せっかく、異世界転生できたのに、どうしてこんなに退屈な毎日の繰り返しなの?」


 貴族の令嬢として生まれ変わったはずなのに、贅沢は許されない。庶民の模範となるように躾をされるだけで、派手なパーティーもないので貴族で転生した意味がない。

 そして、この世界の住人たちは明るくなると起きて、暗くなると眠る。起きている間は仕事か勉強をして、食事は節制を心掛けており、私が模範になる必要もなかったのだ。


「まるで修行僧みたいな生活……。もっと刺激がほしい!!」


 転生前は、澤村美憂という平凡な女子高生。

 転生後は、ミレーユ・ロシュフォールという公爵家の一人娘。

 大きく違っているようで、あまり違いを感じられない。


「燃えるような恋がしてみたい!」


 と、思ったこともあった。

 見目麗しい男性陣も揃っているので、最初は乙女ゲーム的な世界への転生を果たしたのかと思っていた。

 でも、この世界では8割以上がお見合いで結婚相手を決めているという事実。学校でも恋話で盛り上がることもなく、お友達以上の関係が成立することもなかった。


 貴族になると家柄で結婚相手を決められることも多くて、恋愛感情が優先されることはなさそうだ。



「心躍る冒険が出来るかもしれない!」


 と、思ったこともあった。

 でも、この世界に存在している魔物は人間を襲うこともなく平和に生きている。だからなのか、一般人が危険な魔法を習得するのは禁止されており、学校で学ぶのは治癒魔法のみ。

 良いことなのかもしれないが、世界は平和そのものだった。


 それでも、勤勉な兵士たちは毎日厳しい訓練をしているので、魔物と戦うことになっても危機感はない。


「これって、ファンタジー世界に生まれ変わった意味はあるの?」


 ドラマチックな演出で記憶を取り戻したわけではなく、記憶を持ったまま転生していた。でも、その記憶が何かの役に立っているようなこともなく、異世界生活を送っている。


 異世界の貴族令嬢に生まれ変わるよりも、元の世界で平凡な家庭に生まれ変わるまで待っていた方が遥かに有意義だった気がする。確実に生まれ変われる保証はないので、贅沢な考えであることは分かっている。


「……それにしても、ルナティシア王国って聞き覚えがあるんだけど、何で聞いたのか全然思い出せない。」


 転生した地名に確実に聞き覚えがあった。それが、ゲームなのか小説なのかを思い出せないが、ヒントになっていることは間違いないだろう。


 国民全員が質素倹約を第一にしていて、謙虚で助け合いを忘れない。素晴らしい世界ではあるけれど、とにかく娯楽がない。

 娯楽がなければ、作ればいい。退屈な世界なら、面白くするしかない。13歳の私は決意して行動を開始した。

 誰に話しかけるわけでもなく、ブツブツと文句を言いながら打開策を思案する日々を送っていた。



「それでも、生まれ変われた奇跡に感謝して、この世界でできることは試してみないと!」


 澤村美憂としての人生は15年で幕を閉じてしまった。

 学校に向かう途中、信号待ちをしていた場所に交差点で事故を起こした車が反動で突っ込んできたのだ。たぶん即死だったと思う。

 記憶がつながった時は悲しかったが、今の家族も好きだし、この世界で生きていかなければならない。

         ・

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 最初に考えついたのは、悪役令嬢になってみること。


 ヒロイン的な存在に憧れもあったが、この世界は可愛い女の子が多くて、みんなおしとやか。ある意味では、国民総ヒロイン現象と言っても過言ではない。


 となれば、破滅することや追放されることも覚悟して悪役令嬢になり、トップヒロインをプロデュースするしかない。

 候補になりそうな三人は見つけ出してあり、この三人が活躍出来る場面を作り出していくことを考えついた。

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