女神様、なんか怖い

 結局。

 あの後、私は何も言えなくて。

 というより、コミュニケーションを取りたくても、とる方法を思いつかなかったから。

 そんな何も言えないでいる私を見てか、天崎さんは顔を両手でおさながら、恥ずかしそうに部室を飛び出していった。


 そして今は、帰路に就いて。

 19時前で、辺りはもう暗かった。

 街灯が寂しく照らす道を、同じく寂しく歩きながら、私は先のことについて頭を悩ませていた。


 今思えば、色々とあったのだと思う。

 コミュニケーションをとる方法が。

 手話なんて、流石に今から覚えるのは難しいと思うけど、スマホやら、ノートやらに文字を書き込めば良かったのかなと。

 ……そう思うけど、もう遅いよね。

 明日、天崎さんと会うとしても、何から話せばいいのやらって感じだし。

 お互いに、多分、気まずくなるだろうし。

 そう考えると、やっぱり後悔もするものだ。

 けど。もうこれっきりの関係なのかな。天崎さんとは。


 ──ブーッ。


 と、私の思考を邪魔するように、ポケットに突っ込んでいたスマホがバイブレーションを起こした。

 『お母さんかな』と思いながら、スマホを取り出し、流れるように届いた通知をタップした。


 案の定ラインの通知ではあったけれど。

 開いてすぐに、見慣れない可愛らしいアイコン、見慣れないユーザー名が目に飛び込む。

 私は歩みを止め、その画面に目を留めた。

 それを見て、息を呑む。


 そのユーザー名には【天崎心音】と、確かにそう書かれていた。


 そして送られてきたメッセージには、


『勝手に追加しました! ごめんなさい!』


「──えっ」


 驚いた。

 というか、もはやこれはホラーだ。

 いつ、追加したのだろうか。

 いや、今日なんだろうけど。

 え。こわいこわい。


 ──ブーッ。


『あれー? 無視ですかー?』


 こわいこわいこわい。

 何この子。

 サンリオのキャラのスタンプを添えてきた。

 可愛いけど……怖い。

 恥じらいに顔を染めて好きを伝えてきた、あの彼女の片鱗が一切感じられないんだけど。

 と、とりあえず。何か返信をしなければ。


『何で既読無視するんですか?』


 今、打ってるとこだから!

 メンヘラ彼女か!


 慌てて、フリック入力に急いだ。


『ごめん。天崎さんだよね』

『はい!』


 自動返信メールかってくらいに、すぐ返信が届く。

 もっっっと怖い。

 語彙力低下して怖いしか考えれなくなったけど、実際怖いから仕方ない。


『あのさ。いつ追加したの?』

『今日のお昼休みです!』


 確かに。

 私は休み時間はよく机に突っ伏しているから、いつの間にか取られていたも気づくのが難しい。

 だけど、


『なんで今日なの?』

『それは今日。伊奈さんに好きって言おうって決めてたからです!』


 その文字を見て、私は少し悩む。

 なぜって、あの時も思ったけど、今の私は中学の頃の私とは全くの別人だから。

 それについて……今。伝えておこう。


『そのことなんだけどさ。今の私、別に中学の頃みたいにかっこいい感じの人じゃないよ? 部活も相談部って訳わかんないのだし。友達もいないし』


 今度は少し返信に間が空いた。

 そして数秒の後、


『それでも好きです』


 そう書かれた、無機質な明朝体に。

 私は不覚にもドキリとしてしまった。

 彼女は、今の私も好きというから。

 ほんとに……なんで私なんだろう。


『なにより。中学の頃より美人になってますし!』

『女神様、それ皮肉だよ』


 それだけ送信して、ポケットにしまう。

 そろそろお母さんが心配しそうだし。

 私は、心臓の鼓動に合わせるように駆け足で、家へと戻った。


 その間。

 私のポケットは、振動を繰り返していた。

 ……こわいこわい。

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