私のクラスの女神な彼女

『私は、あなたのことが好きです』


 それだけ見せて。

 そんな、愛の詰まった告白を見せて。

 彼女はその場で俯いた。

 存在感のある補聴器よりも、彼女の耳元の赤さが目立って見えた。


 天崎さんと私が、同じ中学というのも驚いたし。

 私のことを好きだということにも驚いた。


 けれど一番驚いたのは。

 会話もしたことのない私のことを。

 こんなにも長い期間、想っていたということ。

 というか、いきなりのこと過ぎて現実味が湧かない。


 私のクラスの女神な彼女。

 今までは、ただそれだけの認識だった。

 天崎さんは、私のことを凄く良く知っているようだけど。

 私は、天崎さんのことは全くと言っていいほど知らない。

 そんな彼女が、私のことを好き──。


 突然の自分語りをするけれど。私は今日。

 ただ、いつもの様に部室で時間を潰して、帰宅するのだろうと。

 ただただ、毎日の様に、普通に今日を過ごすのだろうと。

 そう思っていた。

 いや、そう思わないほどに、それは確実な未来だと。

 油断をしていた。


 好意を真っ直ぐに伝えられて、嬉しくないというわけではない。

 むしろ嬉しい。めっちゃ嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。

 学校で一番の美人にそう言われたのだから。

 しかし。天崎さんが憧れていた中学の頃の私は、きっとこの場所にはいない。

 彼女が今、想いを伝えた人は今の私じゃない。


 これからどうなってしまうのだろうか。

 何も分からない。当たり前だけど。

 けれど分かることといえば──普通が変貌した。それだけだ。

 私は今、それを体感したから。


『どうでしょうか?』


 ボードを一旦、伏せた彼女は。

 再び書いたその文字を、恐る恐る、私に見せてきた。


 ……どうでしょうかと、言われても。

 どうしましょうか、って感じだ。

 ……。とりあえず。


「うん、ありがとう」


 私も、普通に嬉しかったし。

 だから、ありがとうは伝えよう。

 聞こえはしないんだけどね。


 ──と、思っていたが


『ありがとう!』


 まるで、私の言ったことが通じたかのようで。

 彼女は、その文字を見せてくる。

 されど真顔である。


 読唇術を極めているのだろうか。

 いや、視線的に私の唇を見てはいない。

 雰囲気で察しただけなのだろう。


「私も好きだよー。……なんて」


 なんとなーく呟いてみたけど、恥ずかしくなって、少し後悔。


 好きって難しいと思った。

 天崎さんを、私はしらない。

 だから、好きを伝えられてもピンとこない。

 私が天崎さんのことを、よく知っていれば、好きと伝えられた時、こんなにも心は穏やかじゃなかったのかもしれない。

 私の心は酷く落ち着いていた。

 酷すぎて、少し怖かった。

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