第一回・漢詩を作る前に漢字を知れ

 はい。というわけで第一回です。


 まずは漢字についてお勉強しましょう。

 当たり前のことですが、大前提として覚悟しなければならないことは、漢詩で使う漢字は日本語じゃない、ということです。


 中国語を勉強したことのある人なら知ってるかと思いますし、テレビなどで中国人が喋ってるのを聞けば何となく分かるかと思いますが、中国人が使う漢字は日本語のそれと全く発音が違います。


 桃白白と書いてタオパイパイ

 老山龍と書いてラオシャンロン。

 嶺上開花と書いてリンシャンカイホウ。


 しかも、発音する際にはアクセントに気を使わないといけません。

 中国語には四つの発声アクセントがありまして、それが――


 平声、上声、去声、入声です。

 この平上去入を合わせて四声といいます。


 正確には平声の中にも上平、下平がありますので、実際には五つの発声があります。

 この場合の発声っていうのは要は母音のことですから、これに子音をくっつけて一つの『語』を形成するわけです。

 そして、この四声をさらに詳しく分類していくと(例えば『アン』という音にそれぞれ平上去入、『ウェイ』という音に平上巨乳…じゃなくて去入)、中国語は106の母音に分類することができます。


 1 0 6 です。


 我々日本人からすると未知の領域ですが、むしろ世界的に見れば日本人の母音5つの方が少なすぎです。まあ、これはどっちが良い悪いという話ではないですが。

 そして、漢詩を作る際にはこの106の発声=母音=韻を使って『韻を踏む』という技を繰り出していくことになります。


 そう。

 これ把握してなきゃダメなんです。


 例えばですけど、『梅』と『海』だともう発音が違います。

 日本語の音読みだと『バイ』『カイ』だからどっちも母音は『アイ』ですけど、『梅』は平声、『海』は上声です。


 ちなみに一つの漢字に複数の発音がある場合もあって、そのときは発音によって意味が変わります。

 分かりやすく言うと『楽』という字です。


 これ、日本語でも『ガク』と『ラク』で読み分けますよね。

『ガク』と読む場合はミュージック、『ラク』と読む場合はエンジョイみたいな意味で使います。中国語だともう一つ『ゴウ』っていう音があって、その場合は欲するとか愛好する、みたいな意味で使います。

 以前、「いやあ、あのミュージシャンの演奏は、まさに音を楽しむと書いて音楽だよね」とかドヤ顔で言ってる人がテレビに映ってて、私は内心嘲笑ってました。勉強せい。


 ただ、この四声発音、中国人だったら肌感覚で分かるんでしょうけど、私、日本人なんで漢字見ただけだとそれが平声か上声かなんて分かりません。皆さんも恐らくはそうだと思います。

 

 というわけで、買いましょう、漢和辞典。

 載ってるんですよ、実は。

 その昔学生だった頃は全く意識してませんでしたけど、ちゃんとした漢和辞典なら、この四声も韻も漢字一つ一つにきちんと載ってます。


 例えば、先の『梅』で言うと、読み方の欄の下の方で、『灰』という字を□で囲み、その左下の隅が三角に塗り潰されてます。『海』や『毎』の場合は『賄』を□で囲み、左上の隅が三角です。

 この場合、『灰』や『賄』が韻を表わし(つまり『灰』『賄』と同じ母音ですよ、ということ)、四隅の三角が四声を表わしてます。左下の場合は平声で、左上なら上声、右上なら去声、右下なら入声ということです。


 ちなみに無料で使えるオンライン辞典には載ってませんでした。

 さあ、買おうぜ、漢和辞典……。

 私は買ったぜ……。


 正直、漢和辞典なんて学生の頃以来開いたことはなかったのですが、改めて読んでみると新たな発見があって面白いです。

 それこそ、学生時代にだって、この韻の表記は目にしてたはずなんですけど、全く記憶に残ってませんでした。老い易く学成り難いにもほどがありますな。




 とうわけで、第一回、『中国語の母音は106まであるぞ!』でした。

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