第17話 ひとりぼっち(クリスマス・お正月・誕生日)

 

 そんなわけでクリスマスイブは母と二人で寂しく……

 ううん、決してそんなことはなくて、テレビのお笑い番組や動画配信サイトのドラマを肴にワインを傾けながらケーキを頬張った。


 妹の静香は男友達と一緒に、去年のイブに私と大樹が行った イルミネーションに飾られた街並みを見に行ったらしい。

 時期も時期だし華やかに装って出掛ける妹が微笑ましくもあり、正直 羨ましかった。 若いって いいなー! って、そこ?? 


 私は リビングでテーブルを挟んで、母と とりとめのない話をしながら だったけれど、大樹の話題が出ると 母からは それとなく結婚への感度を探られもした。

もちろん いつものように、なんとか笑顔でごまかしながら乗り切った。

 

 私だって、わかってますよ!!


 まぁ いろいろ言われるけれど、ただ こうして母と二人でゆっくりと過ごす時間は心地が良くて、なんていうか ほっこりとした温かい気分に浸ることができた。


 それにしても、いちおうクリスマスだから? 二人とも パーティ気取り? 

 母なんてフロントタックのシフォンの白いブラウスに珍しくスカート姿、耳にはイヤリングとか! 私も花柄の長袖ワンピースで、もちろんガーネットのネックレスを装着。 ホームパーティなんだけどね。 

 残念ながら今日明日と出張をしている父が見たらなんて思うかな?(笑) 


 仕事納めの日にはチームのメンバーで夕奈主催の女子会が、大樹とは行かないような 少しリッチな洋食屋さんで盛大に開催された。

 会社行事の忘年会とは違って、女子ばかりの「から騒ぎ」的な雰囲気の中で、暴露バナやイニシャルトークもあったりして、あっという間の2時間を楽しめた。

 ううん、楽しめただけではなくて、サプライズというかショッキングな話もあった。

 

 他の部門に所属している同期の泰子が来年の5月に結婚するという噂だ。 いや噂というよりも、かなり真実に近い話らしい。 そのことは既に後輩たちの間では囁かれていたことで、実は私も夕奈もその噂を知らなかった、本当に。 マジっすか?

 同期が幸せになるのは、もちろん嬉しいけれど、その話をあえて私たちの耳に届けなかったのは、先輩思いの後輩たちによる私たちへの気遣いだったらしい。(それって、どうなんだか……)


 泰子の結婚は、聞いた瞬間はビックリしてショックもあって、言葉も出ないくらいだったけれど、こういう席だからなのか、賑やかに話をしているうちにネガティブな感情も薄まってきた。 

 夕奈も、来年は自分の結婚をここで報告するからね! と気合を入れた感じで言ってたし、私も「頑張る」とは言ったものの、それも大樹次第だなー って、つい現実的なことを思って、おとなしくした。


 そのほかは、お豆腐を使ったヘルシーだけどコクのあるお料理も良かったし、ラストに出てきたショートケーキはレモンの酸味が絶妙すぎて私たちの中でも飛びっきりの高い評価を得ていた。 

 このお店、女子のココロをグッと掴んだメニューでリピーターも多いに違いない。

 さすがは夕奈! 素敵なお店のチョイスには抜かりがない。


 あっ、そういえば、夕奈はこの集いに佐倉さんも誘ったけれど、あっさりと断られたらしい。

 彼女については、この日の女子会の中でも話題にはなった。 だけど、みんなからは決してネガティブな話は出ることもなくて、美貌やスタイル、振る舞い、所作、どれも憧れや羨望、そして抜群な仕事の才能は認めざるを得ないよねー、と なったから、ますます近寄りがたい人のイメージが私の中で作られていった。

 みんなは どんなふうに思っているのかな? どんなふうに感じているのかな?

 

 私的には、やっぱり 私なんかとは違う世界の人……

 たまに彼女とフロアですれ違ったりすると、例えば 上司やお局様や昔の厳しかった先生に抱いていた緊張とは また別の味付けの緊張が走るのだ。 同時に気持ちが高揚するというか、揺さぶられてしまうというか、よくわからないけれど、とにかく気持ちだけではなく 体全体が熱くザワついてしまう。

 この前、出発前の大樹に電話をしているところを見られた時も そうだった。 


 なぜ? それがわからないから困っている。 


 そんなこともあって、近づいてはいけない気持ちと、一方的な苦手意識があるのは確かだ。 だから最近は、私からは彼女のことを気にしない、無意識に フラットに、って思うことにしている。

 でもそれって 意識的に意識しないから、余計に意識し過ぎちゃうのかも? 

 

 大樹のいない大晦日からお正月でも私は家族とそれなりに賑やかに過ごすことができた。

 去年と同じように振り袖を着て初詣に…… チラッと考えたけれど、大樹に会うわけでもないし、周りの目が気になって とても華やいだ気分になれなかった去年のことを思い出して見送ることにした。 

 それにしても、もうあれから1年 経ったのよねー。


 1月7日の私の誕生日も家族全員で祝ってくれた。 もちろん、ここでも私はケーキを頬張ることになる。


 クリスマス、女子会、お正月、そして誕生日と イベントが続いた。 

 正直、カロリー摂取が多くて大変危険な時期だとは理解しているけれど、こればかりは毎年止まらない。 そして後悔するのも恒例になっている。 いつものことだ。


 誕生日には大樹から「Happy Birthday」とお祝いのLINEが来たけれど、それまでも ほぼ毎日LINEのやりとりとか電話もしていたから、実物に会えない寂しさもありはするけれど、絶望的ではなかった。

 そのLINEも 「食べすぎ注意!」 と余計なお世話のスタンプ付きのメッセージ。

「はい!はい! わかってまーす!」と私は返したけれど、私自身も本当にわかっているのかな?? 汗;;


 それにしても私、31歳になってしまったよ……


 三十路は坂道 って、誰かが口にしていた言葉を思い出した。 あっという間に坂道を転がり落ちるように、日々のスピードは加速する って。

 たしかに30歳から31歳までの時間は怖いくらいに早く過ぎていった気がする。 だから余計に 結婚 について、日々周りの目や雑音が気になるし、ちょっとしたことにも 「圧」を感じてしまう。

 

「私だって、同じよー  」 

 夕奈も真顔で私に言ってたけど。 でも、表情には余裕があった。 もしかして、何か良いことあるのかな? 


 そんなこんなで1月は過ぎて、大樹は出張期間が少し延長になったけれど、2月10日に無事帰国した。


(やっと会えるんだー)



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