微動

第8話 いつもの二人①

 

 10月の気持ち良く晴れた日曜日。

 今日は大樹と3週間ぶりのデート。 昨日の午後に大樹はアメリカのヒューストンへの海外出張から無事に帰国した。


 思えば、出かける前の準備では、彼が社会人になって初めての海外出張、いや初めての海外 ということもあって、私の方がヤキモキしてたんだから……


 渡航前に海外旅行に必要なものをいろいろとネットで下調べをしてリストにして渡したら、


「カードとパスポートで、なんとかなるっしょ 大丈夫~ 」 と彼は至ってのんびりムードだったし。


 出発直前までその調子で、どうなることかと思ったけれど、無事に帰ってきてくれて本当に良かったー。


 こんなに長い間会わなかったのは付き合ってから初めてのこと。 単に寂しいだけではなく、どこかしら不安な気持ちで過ごした3週間だった気がする。

 もちろん、時差にも負けずに可能な限り、電話やLINEで交信はしていたけれど、やっぱり彼の姿を見たい、ナマの声を聞きたい、そして彼と肌を合わせたいから。


(やっと帰ってくる! やっと会える!)


 私は、今日のために洋服も新調。 紺基調の花柄ワンピースと、ネイビーのカーデガン。

 大樹は私のことを可愛いと思ってくれるのかな?

 思ってくれても、きっと口に出してはくれない。 彼は照れ屋だし強がりだから。 「可愛い」と、さりげなく ひとこと言ってくれるだけで、にっこりと微笑んで頑張れるのになー。

 大樹に限らず、今まで付き合った男の人は、そんなことを言うのは恥ずかしいと思っているみたい。 でも結局のところ私自身も 「可愛い」と言われて喜ぶ歳でもないけどね。


 そう思ってしまう私は、そろそろ自分の名字にどこかプレッシャーめいたものを感じ始めてきている。 勤め先の総務部には女子社員は7人、40歳を過ぎた独身の お局様 が一人いて、次が私と同期の山口 夕奈、そして後輩の女子社員が4人。


 後輩の中には、そろそろ名字が変わりそうな子もいて、心の中では羨ましさや焦りを感じているのは夕奈も同じ。 婚活に必死の夕奈に比べれば、とりあえず大樹という恋人がいる私の方がゴールは近いのかもしれないけれど、でも逆転もあるかもしれないし、こればかりはわからない。

 私の内心の焦りを知ってか知らずか、大樹の方は相変わらず のんびりムードなんだから!


 それにしても、今日は朝から待ち合わせの14時が待ち遠しい。

 と、欲しかった新書を買うことを思いついて、予定よりも1時間早く家を出ることにした。


 家を出る時、大樹の海外出張を知っている母から


「空港まで行くなら、お父さんに送ってもらったら? 」 と言われたけれど、


「帰国は昨日だし 今日は駅で待ち合わせているから大丈夫ー 」


 父のことは嫌いじゃないけれど、彼にあって「する」ことがわかっていて送ってもらうのは、なんだか気まずい。 それに寡黙な父と車で二人きりというのも、正直なところ気が重い。


「ふぅーん そう  じゃぁ晩ご飯は? 食べてくる? 」


「うん 」


「じゃぁ 大樹君によろしくね。 たぶんお疲れだから、今日は早く帰ったほうがいいんじゃない? 」


「ハイハイ じゃぁー 行ってきます! 」


 母の気配りに無言の「圧」を感じて、私は返事もそこそこにして外出を急ぐ。 母にとっては、年頃の娘の結婚は とても大きな関心事であるのはわかっているから。


(私だって わかってますよ!!)


 M駅ビルの中にある この界隈で一番大きな書店なら在庫があると思って行ったら、残念ながら売り切れだった。


「お取り寄せしますよ? 」

 この書店で時々見かける女性の店員さんが発注伝票に手を伸ばしながら私に問いかける。


 30歳過ぎ、同い年くらい? だろうか、左手の薬指にプラチナの結婚指輪をしているのに、つい視線が行ってしまった。


「こちらに連絡先とお名前の記入をお願いします 」


「あ、はい 」


 私は携帯番号とともに「松本 彩花」と記入した。その名字の部分だけが やけに大きく見えてきて、まるで何かを訴えているみたい? そんな気がした。 こんなことすらも私の感じる「圧」に他ならない。


 14時ぴったりに、私たちには定番の待ち合わせ場所になっている駅前広場にある時計台の下で会った。


 3週間ぶりに会う大樹は、やや日焼けしていて、精悍でワイルドな雰囲気さえ感じられた。私を見ると、白い歯をみせながらの笑顔で、その笑顔が元気そうで、ホッとする。


「時差ボケとか大丈夫? 疲れてない? 」


 彼に最初にかけた言葉がそれ。本当は、「すごく会いたかった!」とか 「寂しかったー 」 とか言いたいけれど、気恥ずかしくて、だからありきたりのセリフしか口にできない、素直じゃない私。 それでも胸の中は会えた喜びに弾んでいた。


「おぉ、とりあえず今は ぜんぜん大丈夫! 彩に合わせて俺の時計を動かしているし! 」


 優しい笑顔と冗談交じりの嬉しい言葉で返してくれる。


 それにしても、さすがは体育会系男子、15時間の時差は全く影響がなさそう。 そして約束をした14時ジャストには、ちゃんと来てくれる、そんな理数系出身の正確さも持ち合わせている大樹はホントに頼もしい存在だ。


「そっちこそ、元気に暮らしていた? 」


 海外出張中も可能な限りLINEや時には国際電話だってしていたので、消息は十分にわかっていたはず。だけど笑顔で、あらためて そう言って私を気遣ってくれる優しさもある。

 やっぱり、大樹は将来を共にする最高のパートナーに違いないよねー。 普通のことかもしれないけれど、その「普通」さに、安らぎと幸せを感じてしまう。


 積もる話も程々に…… 

 そのまま少し早足で、駅裏にある愛を交わす専用のホテルに直行した。 もちろんお互いの渇きを潤すためだ。


 部屋に入りドアを閉めるなり、大樹は私の腕を掴むと強引に引き寄せ、その場で濃厚なキスが始まった。

 彼の両手で私の両頬が挟まれて貪りあうようなキス。お互いの舌がお互いの口の中で踊り、歯と歯が当たりながら、唾液が行き来する。

 言葉はいらない、私は ただ大樹とキスがしたくてたまらなかった。

 剥がされた口紅が唾液に交じり、合わせた唇の端から涎となって垂れていく。

 

 私は力が抜けて、膝から崩れ落ちていくから、彼に強くしがみつき、濃い接吻に夢中になっていた。


「んんっぐぅ…… んんっ…… 」


 息が苦しくなるくらいの、この感覚を待っていた私は、くぐもった喘ぎ声を出しながら、意識の片隅で なぜか 靴を脱がないといけない、と思っていると、グイっと 彼の怒張のようなシンボルが洋服越しに感じられた。


 私はしがみついた手をほどき、右手を彼の大きくなっているそれに当てた。 彼の右手は私の左乳房を掴むように揉んだり、円を描くように撫で上げたり、決して大きくないけれど 感じやすい私の胸の感触を味わっているみたいだった。


 お互いの唇は外れ、彼は私の左耳を頬張り、舌で耳の中をまさぐる。


「ああぁ あっ…… 」

 

「ハァハァ 」


「んんっ あぅ…… 」


「ハァハァ 」


 いつのまにかワンピースの前はボタンを外され、グレー色のエレガントなスリップの上からブラごと 彼の両手で両胸を強く揉みしだかれていた。


 玄関では、彼の激しい息遣いと私の喘ぎ声が交錯し 間断なく不規則なハーモニーを奏でている。


 私の胸に手を当てながら、彼が屈んで私の喉元に舌を這わせるから、私は当てていた右手で彼の筒を扱き始めた。


「あぁ… んん…」 

 力強い愛撫に身を委ねる私は、もう何も考えられなくなって、ただ意識を彼の筒に集中させた。


「うううっ……」

 彼も喉を鳴らすかのような声を上げながら、私の右手の動きに腰を振って合わせていく。

 

「んん…… あああっ…… 」  

 私の胸を弄る彼の手が力を増してくるのに合わせて、私も左手で彼を寄せて、ズボンの上から筒を扱く右手の握力を強めてスピードを上げた。


 筒の感触が私の欲求を頂点まで昂らせるから 私も腰を前に突き出し右手で筒を導いて、中心部に当てがった。


 彼のトランクス、チノパン、そして私のワンピース、スリップ、ストッキング、ショーツと何層にも隔てている壁はあるけれど、繋がりたいという素直な気持ちが、性欲となって私の腰を押し出した。


 そして、彼にも私の気持ちが通じたのか、彼自身がそう思ったのか、お互いが両手でお互いの身体を固く抱きしめなおすと、彼が ふたたび唇を押し付けてきた。

 重なり合った二人の口がモグモグ動き、お互いの舌がお互いの口の中を行き来し、お互いの唾液を混ぜ合わせながら、腰を密着させ、玄関の壁を背にした私は右足を彼の太腿裏側に絡めた。 私たちは着衣のもどかしさをむしろ楽しみながら無我夢中になって腰を動かしながら、ひとつになりたくても絶対になれないセックスに酔いしれていた。


「待って、やばいし 」 急に腰を引いた彼が私の耳元に囁く。


「…… 」 実は私もかなりやばい。


「ここで出したら、もったいないよな」 そう囁いてふっと彼が軽く微笑んでくれたから、


「もぉ!」 私もやれやれという笑顔が出しやすかった。


 熱も冷めないままに、おぼつかない足でベッドに移り、洋服を脱いでトランクス姿の彼に、ノーブラでスリップ姿の私は抱かれた。


 約1ヶ月ぶりの愛の行為は、むしろそのブランクが刺激になって、二人とも今までの穴埋めとばかりに溜まったウップンをブチまけるくらいの勢いがあった。


 もう待てないとばかりに、二人はひとつになって、肌を合わせているうちに、私は幸せなリズムを感じ始め、そのリズムに合わせて さぁこれから!と思ったときに、彼は果ててしまった。


「もう出ちゃった…… あーぁ 」 

 残念そうな彼の言葉のトーンと表情が、なんだか妙に可愛く思えたので、ベッドで並んで横たわる彼の頭を撫でてあげる。


 付き合い始めの頃は、全然感じたこともなかったのだけど、セックスの時は ほぼほぼ彼が先に果ててしまいそうになるから、私はそのタイミングで 声も表情も動作も合わせて 一体感を味わっている。 

 実は、今までお付き合いをした男の人とはすべてが そんな感じ。 ただ大樹はピークが少し早い気もする。 いや、気のせいかな?


 私は もともと、セックス自体には それほど期待も執着もなくて、一緒じゃないからとか、早いからとか、そんなことではなくても、寄り添い抱き合って肌身で恋人を感じることができれば、気持ちの上では十分に満足をしている。 


 だから私は今日のことも いつもと同じで 気にしていない、だけど 正直に言うと 身体は燻ったままだ。


 ふと気がつくと寝息を立て始めた彼が私とは反対側に寝返りを打ったので、グッドタイミングとばかり、私は 乳房を揉み、乳首に刺激を与えながら、花芯への愛撫を繰り返したりして、もう一度 火照った身体を自分で、自分の指で慰めた。


「んんっ…… んはぁっ…… 」 

 当然、声は殺したつもりだけれど、最後は漏れ出てしまった。 でも大丈夫、彼は寝入っている。 無理もない、だって昨日 帰国したばかりなのだから。


 しばらく彼の寝顔を見ていると、彼がそばにいる安心感にジワリと浸ってしまう。久しぶりのセックスがこんな形で終わったのだから 大樹としては残念かもしれないけれど。


(出張 お疲れさま 今日は ありがとう)


 そう心の中で呟いて彼を起こさないように、スリップ姿のまま 上下セットのブラとショーツを持って静かにベッドから抜け出した。


 シャワーから降り注ぐ熱めのお湯は、私の心をしっとりと落ち着かせてくれた。


 とりあえずはお互いの身体の渇きを潤したら、今度は食欲を満たしたくなる、今日の私たちは いつになく本能的すぎるのかな?


 疲れを感じることもなく、駅の近くにある いつものファミレスへと移動。


 日曜日ということもあって、ファミレスも混雑状態。その喧噪に、徐々に心も落ち着いて、彼とちゃんと向かい合って話せるような気分になってきた。

 待ち席にいるときも、そして食事をしながらも、大樹は海外での仕事の難しさや休日をどう過ごしたとか、いろいろなエピソードを、身振り手振りで おもしろおかしく話してくれた。


 とりとめがないようで、ちゃんと筋の通った話し方をするのは、さすが理数系男子だ。私みたいに、感覚的な表現や、曖昧な話し方をすることはない。

 同学年でも頼りがいを感じるのは、そういう頭の良さなのかもしれない。


 付き合い始めて1年。 

 彼とのデートは定番化していて、そのデートも今日は半日ということで、そろそろ終盤に差し掛かってきた。


「あっ このあと どうする? 」


 食後のコーヒーをいつものようにブラックのまま飲みながら大樹が問いかけてきた。


 いつもだったら食事の後は、ショッピングとか夜のドライブだったりする。


「どうしよっかー? でも大丈夫? 疲れは? 」


 甘いカフェオレを飲む私は彼を気遣いながらも、もう少し一緒にいたい気持ちで尋ねた。


「全然、大丈夫 そうそう、あっちで現地の人とKARAOKEに行って楽しかったし 」


「へぇー カラオケ? あっちで? 」


「うん だから、久しぶりにジャパンのカラオケでも歌おうかなー  どう? 」


「ジャパン? 」 私も思わず吹き出してしまう。 いきなりここで笑いを取りにくるとか。


「Yes! ジャパンのカラオケ 行こうか 」  大樹、しつこい (笑)


「うん いいかもー 私も久しぶりに歌いたいし! 」


「OK! レッツゴー! 」  まだ言う??(苦笑)


 大樹のリクエストで、今日の夕食後のイベントはカラオケに決定した。


 年齢が同じということもあって、ここの食事代の支払いは、割り勘で。大樹がレジの入力の前に、スマホのクーポン券を差し出した。

 さすが抜かりがない。 ドリンクの無料券だけれど、侮れない金額。

 別に言葉で確かめ合ったことはないけれど、心の中では、二人の幸せ貯金が積もっていくような、ささやかな嬉しさがある。


 M駅前の繁華街一角、雑居ビルにある、いつものカラオケのお店に行くと、丁度、団体客が出て行くところで、混み合う時間帯だけど空き部屋に滑り込むことができた。

 ラッキー!


 2Fの207号室に入るとすぐに大樹は選曲のリモコンを手にして、まずは少し懐かしめの日本でも人気のある洋楽をセレクト。

 画面下には英語の歌詞とその上に発音しやすいように小さくカタカナが振ってある。

 でも大樹は英語もカナも関係なく、ただフィーリングとノリで熱唱♪

 元々そんなに上手くない歌唱力、あいかわらず音は外れているものの、私にとっては将来を共にするであろう?パートナーの熱唱だから、外れるのもご愛嬌と捉えるしかなくて、だから全てが好ましく感じられてくる。


 歌い終わると、少しおおげさにパチパチと拍手を送りながら、


「大樹! すごーい! 英語、イケてるし それに前よりも、ウマくなってる気がするー 」 

 もちろんお世辞。  そんなことより、私も早く歌いたくなってきてるし……


「そりゃそうよ! 今日は、スペシャルデーだし! 」 

 そう言って、ご機嫌な大樹はマイクを置くと、私とハイタッチした。


 私は私で、大樹のリクエストがあった女性アイドルグループのアップテンポな歌を、今日は立ちあがってウインク付きの大サービスで盛り上げた。

 大樹を見つめると、楽しそうに拳を振って、ノリノリで聴いてくれているのが伝わってきて、声と心が弾む。

 だから、もっと調子に乗ってみた。アルコールが入っているわけでもないのに……


 ちゅ、ちゅっ…… ♪

 ソファーに座って盛り上げてくれる大樹に、リズムに合わせて音立てて投げキスを繰り返す。


「うわぉ~! それいい~! マジ、射貫かれたぁ~~ 」

 大樹が胸に手を当てて大げさにソファーに寝転ぶ。

 それを見て、私も弾けて笑い、音を外しながらも、最後まで立ち上がって歌いきった。


 はぁ はぁ と息が乱れながらも、ジワリと来ているこの満たされる感じは、何? 本当に心から楽しいひとときだ。


 私が歌い終わってソファーに腰を下ろしても、大樹は寝転んだまま、じっと私の脚先を眺めている。 そして急にまじめな表情を浮かべた。 ?? 一瞬の静寂の空気が流れる。


「ん? どうした?」


「あー うん もうちょっとだけスカート短いほうが良くない? 膝上、ググッと!! 」


「はぁ? 」 


 静寂な雰囲気の中、出てきた言葉がそれなのか と呆気にとられた。


 大樹のもっとも大樹らしいところ、それは脚フェチ、ストッキングフェチなところ。 でもネチネチと陰湿に黙って脚を見られるよりも、むしろ、こうしてあっけらかんと口にしてくれる方が嫌味もいやらしさも軽く感じる。 これもまた、大樹の持ち味。 ? 持ち味?


「今度 エロい網タイツと、ミニで革のタイトスカートとか、どうでしょうか? 」 


「ばーか! ぜったい無理! 持ってない! 買わない! キャラじゃない! 」


「そうかな? 似合うと思うけど 魔性のオンナって感じ ついでにハイヒールも! 」 


 寝転んだまま、あっけらかんと大樹が言うから、

 私はたまらずマイクを持って、


「エロ親父~~~ぃ 」  と 叫んでしまった!


 でも、まぁ、男子というのは基本こんなものなのか、とも思う。 振り返れば、大樹の前のカレも二の腕フェチだったことだし、大樹もご多分に漏れず、ある意味健康的な?一般男子なんだ。


「やっぱりダメか~! 」


「ダメ ダメ! ハイ もう 次の曲 私、入れちゃうね! 」


 この話は終わりにしたくて、すぐにリモコンを手にして大樹の定番曲をインプット。

 すぐにイントロが流れ始めてきた。


「でも、まあ、実際にそれされたら、引いちゃうだろうなー、ビビるわ、 歳も歳だし 」


「でしょ? って え? 歳? こらー もぉ! そこ?? 」


「あはは!! じゃぁ、 あれ? これ オレの曲だし 」


 さすが大樹、ここでの切り替えは、頭の回転が良い証拠。そう思って熱唱する彼にあらためて送る私の視線は柔らかかった。


 そんな感じで、二人とも久しぶりのハイテンションで交互に歌いまくっての90分。


 それにしても、あらためて初めての海外出張で感化された大樹が、英語で間違いだらけの洋楽を歌うのは、可笑しすぎて最後は涙まで出てしまった。


 二人で楽しく発散をした時間はあっという間に過ぎた。支払いは、海外出張お疲れ様ー との意味を込めて、私が。


「いつもありがとうございます。 こちらは 次回 是非お使い下さい 」


 大樹が受付で出したポイントカードは、そう言って戻された。 あ!ついに!ペアでご招待のところまで貯まったんだね。


「やったね、ラッキー! 」  笑顔で私が言うと大樹も笑顔を返してくれる。


 次回、大樹と90分間を無料で楽しめる、そんな些細なことも、幸せのひとつにカウントされる。


 店を出ても、大樹は少しハイテンションで、変な英語の歌を口ずさんだりしていた。


「アイ ラビュー モォオオ~ オオオ~ ♪ 」


「こら! 恥ずかしいからやめてよ~ 」


「いいじゃん 楽しいんだから 彩も、でしょ? 」


「まぁ 楽しいけど  でも その変な英語だけはやめて~ 恥ずかしすぎるしー 」


 笑顔で大樹に向いて話しかけていた私が前を向いた瞬間、目に映った光景に一気に視線が凍りついてしまった。




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