第4話 年末年始

 

 相変わらず順調な仲良しカップルの私たち。


 クリスマスイブは大樹からのプレゼント、と言っても、贈り物ではなく企画モノ、ということで、とある街で行われるクリスマスイルミネーションの点灯シーンとそのイルミネーションに彩られた街並みを見に行くことになった。


 12月後半から連日午後5時になると、この街の建物や街路樹に巻いたイルミが一斉に点灯するこの界隈のイベントで、そのスケールの大きさや話題性もあって、県外からもわざわざ見物に来る人も少なくない。 


 イヴの日に彼氏と今話題のイルミネーションを見に行く!

 夕奈をはじめ勤め先の後輩たちからも、表向きブーイング(笑顔)で、すごく羨ましがられたし、実は冷やかされっぱなしだったけれど、もちろん悪い気はしない。


 当日、私たちはいつものデートも早々に切り上げてこちらに車を走らせた。


 午後5時の点灯に合わせて、1時間前くらいに着けば良いくらいに思っていたけれど、人気のイベントにイブと日曜日が重なったこともあって、近辺の駐車場は満車状態。

 なんとか探し出して車を停めて、急いで小高くなったところから街並みが見渡せるビューポイントに着いたのは開始10分前。

 特にイヴの日の今日が日曜日とあって、すでにカップルや家族連れで大変な賑わいになっていた。

 息を切らせた私は、はぐれないようにしっかりと大樹と繋いだ手に力をいれると、大樹も大きな手で少し痛いくらいに握り返してくれる。


「5・4・3・2・1 メリーー クリスマース! 」


 カウントダウンを経て、一斉に建物や街路樹に灯されたイルミネーションは圧巻すぎて、街並み一帯を一瞬にして幻想的な空間に変えていた。

 そんなシーンを見たのは生まれて初めて。


 周りを見渡すと、笑顔を浮かべて手を繋いだり腕を組んだりした幸せそうなカップルばかりで、カップルだから余計に感動もするし、カップルだから幸せな気持ちになれるのだろう。

 私もあらためて大樹という恋人の存在に感謝。


「次のカウントダウンは、ニューイヤーだなー 大丈夫? 泊まれそう? 」


「あー そっか、そうよねー お泊りは んーー どうだろ、うん 大丈夫 なんとかする 」


「OK! また一緒にカウントダウンやな! 」


「うん! 」 


 私は彼の腕にギュッとしがみつき、イルミネーションの煌めきに酔いしれた。

 そんな流れのまま、クルマで渋滞に巻き込まれながらも郊外のファミレスに行って遅い夕食を済ませ、そして最後は、いつも利用する場所でいつものように愛を交わした。


 私は、今までの人生の中で一番素敵なクリスマスを過ごせたのかもしれない。


 そんな幸せなクリスマスが終わり、大晦日前日までは仕事納めや家での大掃除や買い物などなど、私はそれなりにバタバタとしながら年末までを過ごした。


 そして いよいよ大晦日、そして今年もあとわずか。


「あーぁ やっぱり これになるんだよなー! 」


 大樹がリモコンを向けたその先は、壁にかかった大きなテレビ。

 そこに映し出されているのは、彼の大好きな年末の格闘技番組でもお笑い番組でもなく、大晦日の歌合戦の華やかな映像だった。


「うん、わかる~!!! 結局、これになっちゃうよねー 」


 安っぽいインテリアに、何度も洗い直されてくたびれたシーツ。

 でも、テレビは大画面で衛星放送も見られるしビデオチャンネルも種類が多い。カラオケやゲームだってできる。ここまで大きなバスルームは初めてだし、おまけにサウナルームまで備わっている。

 今、私たちがいるのはラブホテル。


 年越しをこういう場所で過ごすカップルは多い、と大樹が機転を利かせ 先に休憩で入ってそのまま泊まるようにしていて良かった。

 休憩ですら、いつも使っていたホテルは満室で、やっと3軒目に入ったこのホテルのラストの1室に入ることができた。


 こういうホテルに来なければ、セックスができないとわかっているのだけれど、男の人、目の前の大樹のように、ためらうことなく、あっけらかんと こういうホテルを使うことに、私は未だに抵抗感が拭えない。 だけどそれを口にすることはないけれど。


 さっきまでの熱い時間のことは、すっかり忘れたかのように、テレビに見入っている大樹がトランクス姿でちょこんと座っている姿が何気に可笑しい。 私は、もう少し抱き合って、お互いの肌のぬくもりを移し合ったり、キスを重ねたり優しい言葉を聞きたいと思ってしまうけれど、大抵の男の人はセックスの後は、まるで運動を済ませたかのように、平常心に切り替わる。

 それが時々、とても寂しく感じるし、男という生き物は、「女性とは全く別の生き物」なんだなーと、あらためて思ってしまう。


 私は、わずかでも さっきまでのセックスの余韻と、愛された幸福感に浸りたくて、そっと大樹の肩に寄り添う。 だけどその肩は、もう先ほどの温もりを残してはいない。


 私は、今日のために着た 胸元のレース刺繍が華やかな薄いベージュのキャミソールだけの肩を隠すように掛け布団を引き上げながら、別のことを思い出していた。 


 今 着ているキャミソールのこと……


「背中に透けた4本線とレースの模様って、めちゃ萌えるし、オレ ヤバい? 」


 いつだったか、たわいもない会話の中で、そんなことを彼が言い出したのだ。 私は最初、何のことかわからなくて、聞けば キャミソールとかスリップを着た時に、ブラジャーの肩紐と合わせて4本の線になって見えるのが好みということだった。 もっと言えば、キャミソールのようなランジェリー類が彼の好みということも。 

 以前、私の方から気がついた 彼のストッキングフェチと合わせても、別にヤバいとは思わないけれど、かなりのレアには違いない。 私からすれば、むしろそんなので大樹が好んでくれるのなら お安いもの、くらいに思っていた。


「それイイじゃん、オンナー!って感じがするし オレ、それ好きかも 」

 そして今日、ハッキリと この一言が彼から発せられた。


 (よし!ボーナスで買った甲斐があった!) 

 私はさっき心の中で渾身のガッツポーズをしたのだ。

 

 そんなくだらないことを私が思い出し ニンマリとしていることに全く気がつくこともなく、大樹は笑顔で私に尋ねてくる、


「歌合戦、どっちが勝つと思う? 」


「さぁ、どっちかなー どっちでもいいけど 」


 とりあえずの味気のない返事しかできない私の目線は、テレビの画面よりも その横の壁掛け時計に向けられていた。


(今年も終わるんだー)


 無事に過ごせた今年1年、そんな中でも10月に大樹という将来が期待できる彼氏と出会ったことを素直に喜びたいし、来年はもっともっと良い年になりますように。


 やがて歌合戦が終わり、「行く年来る年」の厳かで静かな放送に変わると、大樹も目線を時計に移した。


 年越しだ。


「5・4・3・2・1 ハッピー ニュー イヤーーー! 」


 カウントダウンの声を揃えて言うと、どちらからともなく目線を合わせ、微笑みながらキスを交わし抱き合う。


(あー 幸せ~!)


 大好きな彼と、一緒に年を越して そのまま新年を迎えることができた!


 母は、成人式の時に作ってくれた振り袖を着付けてくれようとしたけれど、私は「着物だと神社の階段が大変だから 」と断った。


 行き先は神社ではないし、脱いでしまった後が困るから、なんてことは、口が裂けても母には言えない。

 二人で、和装で神社に参拝するのも良いけれど、それよりもこうして肌を重ね合う方を選んでしまった。


 だって、今ではすっかりお互いの肌が馴染んで、最近は一緒に果てることもできるし。

 私はそんな大樹とのセックスにも夢中になっていたのだから。


 大樹と濃密な関係を持つようになって、夕奈や他の仲の良い同僚から、「最近、すごく表情が良いねー 」と言われるようになったり、「化粧品、変えたの? 」 と聞かれたときは曖昧な笑いでスルーしたけれど、内心は誇らしいような気持ちにもなっていた。


 大樹との関係は良好で、互いの気持ちが通じ合っている安心感。

 それが精神的な安定にも繋がっている。

 だから仕事をしていても、前よりも気持ちに余裕があるような気がする。

 妹や母に対しても、無意識にだけれど、おおらかに接するようになったらしく、妹から「お姉ちゃん、最近優しいし 何かあった? 」 と聞かれたくらい。


 大樹のことは大好きだし、これから先もずっと一緒にいる気がする。

 信頼できるし、心の中で描いてきた将来のパートナーの条件を十分にクリアしている相手だと思えるから。


 新しい年の節目を、一緒に過ごせて、本当に幸せ!!

 もしかしたら、左手の薬指に指輪が輝く日も近いのかも? 

 なんてことを思うくらい、気持ちは舞い上がっていたし、大樹のことを旦那さまとして想定した妄想を、何度も何度も心に描いていた。


「はぁーぁ 少し寝るか~ 」

 大きなあくびをしながら体を伸ばした大樹。


「うん、もぅ眠いし 」


 大樹は、リモコンでテレビを消すと体をシーツの間に滑り込ませて、私に腕枕をしてくれてから目を閉じた。

 今では見慣れた寝顔だけれど、見る度に幸せ物質が脳内から放出されるのがわかる。

 心地が良く幸せな気持ちで私は眠りへと引き込まれていった。



「…… んんっ…… …… ……」   「あっ…… あはっ…… んぅ……」


 え? なに? 最初は何の音なのか わからなかった。

 寝ぼけていた頭が徐々に覚醒していくにつれて、それは女性の喘ぎ声だと気づいた。


(え?)


 暗い室内がボンヤリと明るいのは照明ではなくテレビ画面の明るさ。

 その薄明りを頼りに隣を見ると寝ているはずの大樹がいない。


(え?大樹?)


 起き上がると、壁掛けテレビの大画面の明かりが眩しくて目を細めるしかない。

 目が明るさに慣れるとベッドの端に腰かけてテレビ画面を観ている大樹の白いガウンの背中が見えた。


「?? ねぇ、何 見てるの? 」 


 声をかけたのに、振り返らず画面を見ている少し丸まった背中。そして途切れのない女性の喘ぎ声。

 すぐに、アダルトビデオを観ていることに気づいた。


「大樹? 」


 再び声をかけて、やっと大樹が振り返る。


「あ、ごめん うわ 起こしちゃったなー まだ時間あるし、ゆっくり寝てれば? 」


 そう答えたバツの悪そうな表情の大樹の肩越しには裸の女性が悶えているシーンがアップで映し出されているのが目に入る。


「もぅ!エッチ!そんなん聴きながら眠れるわけないじゃん! 」 


 そう答えながら、私はキャミソールの上にガウンを羽織って彼の左横「私の指定席」に移った。


「ごめん、ごめん。こういうのって やっぱ 嫌だよなー 」


 大樹は申し訳なさそうに肩をすくめ、ますます背中を丸めてリモコンを手にしてアダルトビデオからチャンネルを変えた。

 生々しい裸の男女が絡んでいる画面が、いきなり元旦セールで賑わうテレビショッピングの甲高い声のする賑やかな画面に切り替わり、これがまた酷く無機質なものに思えてしまう。


 健全な男子なら、こういうアダルトビデオを観たがるのは「ごく普通」だという理解はしているつもり。それを中断させてしまったのが、どこか申し訳ないのと、中断してくれた大樹の思いやりになぜか心を動かされた私は、


「んー もぉ! 観たいなら、観ていいよ 」


 つい勢いで口から出てしまった。


「あっ そう? じゃぁ 一緒に観る? 観たことないだろ? 」


 さっきのバツの悪そうな声のトーンから、一転して嬉しそうな軽やかな口調に急変したことに私は正直ドン引き。


「えー!観たことがないわけじゃないし、それにそんなの観たいって訳じゃないけど 」


 私は 、本当は見たくないことを遠回しに伝えたつもりだったのだけど、大樹というか、男の人の耳と頭は自分の欲望に都合良く働くみたいで。


「まぁまぁ いいじゃん とりあえず選ぼうか、どれにする? 好きなのでいいし 」


 積極的になった大樹は手にしたリモコンでボタンを操作するとテレビ画面が早速切り替わる。


「えー? わからないし、そんなのどれでもいいよ もぉ! 」

 私は画面から顔をそむけた。


「いいじゃん、せっかくだし、で? どれ? 」 

 大樹は やけに明るいトーンになって私を誘う。


 ケバケバしいインフォメーションの画面は、ジャンルの選択を促してくる。

  「巨乳」 「人妻」 「SM」 「ナンパ」 「ロリコン」 「フェチ」 「オナニー」  表示されているのは、いかにも男心をくすぐりそうな文字の羅列。

 それを見ているだけでも、なんだか恥ずかしくなってしまう。

 でもそんな私の動揺を、全く感じ取らない大樹。いや、感じていないフリをしているだけなのかも。


「どれがいいかな どれにする? お! これとか どう? 」


 いかにも冷静さを装いながら、そして私に不安を与えないようにと必死に演じながら、タイトル画面をスクロールさせている大樹の声はとても嬉しそう。

 そしてビデオだけでなく、私の反応も楽しみたいというのが、みえみえ。


 こういうホテルで、アダルトチャンネルを一緒に観たがる人。元カレもそうだった。

 私がこういう映像を見て興奮すると、勘違いをしている。

 正直、こんな嘘っぽい映像で、興奮なんかしないんだけどー、心の中で小さなため息をつく。


 こういうビデオの女優さんは、演技がわざとらしいし、女性の立場からすると、あり得ないと思える反応をしたりする。 

 同じ反応を求められているようで、正直あまり良い気持ちがしなかった過去の経験がよみがえり、さっき仕方なく「良いよ 」と言ってしまったことを後悔していた。


 だけど今更 「やっぱり観ないで 」 とは言えないし。


「刺激が強すぎるのも嫌だろ? アヤだったら入門編くらいのレベルがいいかなー 」

 声を弾ませてよくわからないロジックを振ってくる大樹。


「え? もぉー なにそれー 」苦笑するしかない私。


「いや、あまりにもマニアックなのよりノーマルなのがいいのかなって 」


「うーんー まぁー 」


 私の返事のトーンは、あきらかに低いテンションなことに気づかないほど、大樹は楽しそうに画面に見入っている。


「よし!これとか良さそう 見た目も綺麗そうだし、これにしよう! 」


 彼が選んだのは 「レズ」 というジャンル。


(え? レズってことは、女性同士のエッチ?)


 大樹が言うには、男優さんが出ると どうしても暴力的で汚く見えるから、少しでも私に配慮したと、もっともらしい、でも私にとっては、どうでも良い理由を説明してくれた。


「えー 嫌よ 気持ち悪いよー 」

 だって同性同士の絡みなんて生々しすぎるし、やっぱり嫌だから。


「そう?男同士より良いだろ? もしかして、そっちのほうがいい? 男同士、ホモ、そんな趣味あった? 」と笑う大樹。


「ううん それはない 」 そんなふうに言われたら否定するしかない。


「だろ? ぜったいレズのほうが良いって 綺麗だし 」 


 綺麗とか、そういうことではないのだけど、もう私は覚悟を決めて大樹の提案を受け入れるしかなかった。


 レズのアダルトビデオを観るのは初めてだけど 「女性同士が愛し合う」 映像が面白そうだとか、綺麗だ とかは到底思えない。それにやっぱり嫌な感じがする。

 恋愛の対象が男性ではなく、同性(女性)だという人達がいることは知識としてはあっても、実際にそういう人たちと出会った経験もなかったし、周りでも聞いたことがない。

 LGBTとか知っては いるけれど 「私とは無縁の世界の人たち」 という感覚しか当時の私にはなかった。

 同性愛に対して拒否感もないかわりに、全く興味も関心もない完全に別の世界、無知の世界。



 そう、そのくらいの感覚だった。

 だから、これから2年後に自分から同性を求め愛し、深く愛されるようになるなんて微塵も考えられるはずもなかった。



「アダルトビデオを一緒に観たい! 」

 という大樹の気持ちに同意したものの女優さんのお世辞にも上手いとは言えない演技と安直なストーリー展開を、私はただなんとなくボンヤリと眺めているだけ。


 そして強引な流れから、あっという間に画面は女性同士の絡みのシーンへ。


「ね!やっぱり女同士は綺麗だろ? しかも一つの画面に二人の裸とか、超お得だろ、コスパ良すぎ 」


 大樹が嬉しそうに笑みを浮かべながら、薄っぺらい感動の言葉を口にするのを無言で聞き流す私。


「うわっ アヤ! みて! すごい すごすぎる やばいし! 」


 そんな大樹の反応に、彼の股間に目を移すとガウンが膨らんでいた。二人の女性の絡みと喘ぎ声に大樹はかなり興奮している。

 彼のそんな単純さが、むしろ愛おしくなった。


「えっち! 」

 そう囁いてガウンの中に手を滑らせ、トランクスの上から彼の固くなったものをゆっくりと撫で擦る。

 安っぽいアダルトビデオの映像よりも、こうして大樹に戯れるほうが何倍も楽しい。

 そう思いながら、少し微睡みかけていた私に大樹が少しおおげさに驚くような口調で言ってきた。


「あ!あれ すごくない? エロいし デカいし 絶対やばいだろー 」


 興奮した大樹に肩を揺すられ、顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、片方の女性が疑似の男性器を付けていた姿。


(何?? あれ)


 その疑問と同時に私の目は画面に釘付けにされてしまった。


 女性のシンボルである乳房と男性のシンボルが同時に存在しているという、一見異様な姿がとても衝撃的で。

 しかも、その疑似男性器は太く大きく黒く反り返っている。

 どちらかというとほっそりとした体つきの女優さんの身体との対比が、とてもアンバランスで、アンバランスゆえに、酷くエロテックなものに映っている。


 見てはいけないものを見てしまった気がして、すぐに目を背けたけれど、その姿が生々しくて脳裏に焼き付いて離れない。

 かといって、もう一度映像を見るのも なんだか怖い。


 そんな気持ちを振り払いたい一心で、私は彼のトランクスをずらし、そそり立っていたモノを引き出して右手で包む。

 そのとき、さっきの映像のものに比べて、大樹のモノが物足りない気がして、そんな気持ちになった自分を慌てて否定した。


(あれは単なる作り物なのに)


 やがて興奮した大樹にベッドの上に押し倒されながらも、私の脳裏からは なぜかあの映像が離れない。


(え?どうして? いやだ)


 動揺している自分に戸惑いながらも、いつもより早いペースで愛撫から挿入に移る大樹に身体のほうは反応していく。

 動画から聞こえてくる喘ぎ声に、私の声も重なって薄暗い部屋の中に響く。


「あん あっ んんっ…… 」


 やがてピストン運動は激しくなり、フィニッシュが近づくにつれ、大樹の呼吸が小刻みになってくる。

 私も奥からせり上がってくるエクスタシーに、あえて耐えていた。

 無我夢中になりながらも、二人の女性の声に、私の興奮もマックスになってくる。

 そのとき一瞬だけど、私を抱いているのは大樹ではなく、顔はよくわからないけれど乳房のある女性にあの大きな疑似男根で奥まで突かれているような気がして、その瞬間に私の中で高まったものが一気に弾けた。


 イクッ!!!!!

 あんな、あんなにも大きなモノが私の中で!


「あっ あっ…… あっ…… 」


「んっ…… アヤ…… うぅぅ うぅーー 」


 脱力し、ドサッと私の上に倒れこんだ相手が、一瞬だけれど、大樹なのか誰なのかわからなくなっていた。


(え?? 何?? 何???)


 エクスタシーに達した後の脱力感の中で私は短い夢を見た気がした。

 大樹には決して言えない夢を。


「ふぅー 姫始め終了だな。 良かったよ…… アヤは? 」


「うん 」


 私は、よくわからない感覚に包まれたまま、短くそう答えるしかなかった。




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