第4話 マッチ売りの男

 雨に濡れた道路のアスファルトの粒がキャビアに見えてきた。

 エスカレータの一段一段に縁どられた黄色の帯が、だし巻き卵に見えてきた。

 工事現場に使われるオレンジ色の柵が、スモークサーモンに見えてきた。

 空腹とは案外辛いもので、色々なものが微妙に手の届かなそうな食材に変化していく。暖炉の炎に魅せられたマッチ売りの少女の気分だ。

「ただいま」

 必死な思いで、家にたどり着く。すると奥から、いいにおいがした。

 驚いたことに、テーブルに並べられていたのは、キャビアとだし巻き卵とスモークサーモン。

「どうして」妻に問いかける。

 すると、少しの笑顔を見せて

「夢に決まってるじゃん」

 その途端、目が覚める。キャビアもだし巻き卵もそこにはなかったが、それ以上に妻という人がいないことに空腹を覚えた。

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