30.とある本屋の受難
「これはまた、珍しい本がいっぱいだね」
イルハが現れて顔を引き攣らせていた本屋の店主は、どっと運び込まれた本を見るなり顔付きを変えた。
「やや、これは!北のノーナイト王国の本ではないか!」
目敏く一冊の本を手に取った店主が興奮し、声を荒げる。
「どこで仕入れて来たんだい?」
「どこでって、そのノーナイトだよ。少し前に行って来たんだ」
「行ったって、お嬢ちゃん。ここからノーナイト王国までは、どんなに急いでも年単位だろう。しかも途中の黒の大海には、海賊がうようよいて、その海賊を狩る海賊まで出るって話だ。無事に行って帰って来る人なんて、まずいないはずだがね」
シーラはけらけらと笑って、店主の言い分を否定した。
「それは少し誇張されているよ。海賊なんて滅多に会わないし、それほど時間も掛からない」
「そうなのかい?」
店主は首を傾げつつ、本の査定に気を戻した。
「とにかく、この本が貴重なことには違いない。これは高く売れるぞ。良い値を付けてあげよう」
近くなっていた店主とシーラの距離を空けるように、イルハが間に入って言った。
「待ってください。それほどに貴重な本ならば、私がすぐに買い取りましょう」
怪訝に眉を寄せた店主は、相手がイルハだったことを想い出して、急ぎ取り繕う笑顔を見せた。
「ははは、何を言っているんですか、イルハ様。イルハ様がお売りした本を、イルハ様が買い取ってどうなさると?」
「持ち込んだものはすべて彼女の本なのですよ。法の問題で私が保護者代わりをしているだけです」
「それなら、ご自分で買い取られては?」
「それでは法に触れましょう」
「しかしそうすると、うちでも利益を頂きますよ?大分損をしますぜ?」
作り笑顔を見せながらも、この店主、書店としての正義を強気で示した。
安く仕入れ高く売るような、商売人としての成功だけを追い求めた店ではなかったが、世の人に本を繋ぐ仲介者としてあり続けるためには利益も大事だ。
「それで構いません。そちらの利益を含めた売値を提示してください」
「そうですか。そこまで仰るのなら──」
二人の会話を遮ったのは、シーラである。
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