14.二季の国タークォン

 王宮の受付所での騒ぎから少し後のこと、今度は中央広場に面した一軒の料理屋の店内に明るい声が響き渡った。

 この娘、とにかくよく通る声なのだ。


「お姉さん、これ、美味しいよ!リゾットはいくつかの港町で食べたことがあるけれど、これが一番美味しい!」


「おやおや、可愛い旅人さん。嬉しいことを言ってくれるね。そう煽てても何も出て来やしないよ」


「何か欲しくて言っているんじゃないよ!私はお世辞を言わないからね?本当に美味しいんだ。貝の味が染み出ていて最高だよ」


 店主のリリーは、とても嬉しそうに笑った。


「お嬢さんは、いい時期に来たね。この国には、夏と冬しかないことを知っているかい?二つの季節が入れ変わるときに、ここらの貝は一番美味しくなるんだ。それがちょうど今ってわけさ」


「今は夏になったばかりだよね?」


 世界を巡る旅人にとって、季節とはどういうものか。


 沢山の国が大海に浮かんでいるが、その季節は様々だ。

 万年春の国や、いつまでも氷が解けない冬の国もあったし、年がら年中常夏の国があれば、もちろん秋しか知らない国も存在している。かと思えば、春夏秋冬がはっきりと分かれている国もあって、ここタークォンのように二つの季節に限る国、あるいは冬だけがない国なんかもあった。


「そうさ、今は夏が始まったところだ」


「夏から冬に変わるときにも、この貝が美味しくなるんだ?」


「別の貝がいい味になるんだよ。良かったら冬にまたおいで」


 シーラは、リゾットを味わいながら曖昧に頷いた。


「ねぇ、リタ。夏と冬しかなかったら、季節が変わるときはどんな感じ?」


「急に暑くなって、急に寒くなるのよ。夏から冬に変わるときなんて、ある日起きたら、突然雪が降っているんだわ」


「それは大変そう。体が凍えちゃうね」


「そうなのよ。体が追い付かなくて。若い時はまだいいけれど、歳を取るととっても大変だわ」


「今はどう?体は辛くない?」


 リタは子どもを安心させるように、優しさで満ちた笑顔を見せた。


「大丈夫よ。こんなに可愛いお客様が来て、もう楽しくて、体の疲れも吹き飛んでしまったわ!」


 シーラはそれは幸せそうに笑い、リタもこれに応じて一層柔らかく微笑む。

 二人の外見に近しいものはなかったが、その様子はまさに母と娘、いや、祖母と孫娘のようだった。


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