合コンは! 合コンだけはお願いします!!
しかーし。
ここにいる女性全員からジト目を投げられれば、単なる道程でしかない俺はそりゃひるむ。なんてったってアンジェ以外は全員床情事経験者の床上手なわけで、レベルもラベルもララベルも違うからな。誰か不思議な呪文を教えてくれ。
「では、あとは若い者たちに任せて、私はこれで失礼します」
「どこのお見合いだ」
俺の突っ込みなど耳にも入れず、そのまま美沙さんはアパートから去っていった。
バタン、というドアが閉まる音がして、沈黙があたり一面を覆う。だがこの沈黙は炎上するより厄介なやつだ。
「……せつめい」
「え」
「せ・つ・め・い!! お兄ちゃんちゃんと説明して!!」
「あ、え、えーと……すまん、俺もよくわからな……いいっ!?」
一分経過後、沈黙を破ったアンジェに追及されてどう言い訳しようかまとまらないうち、シャツの襟首をグイっと剣崎さんにつかまれて外へと引っ張られる。やだ剣崎さんったら無駄に力強くて男らしいわ。
「どういう、ことなの?」
そして外のドア越しに壁ドンされる。うっわ、さすがゲイノージンだけあって顔面偏差値は高いけど、まったくドキドキしねえ。
「い、いや、俺のほうがどうなのか聞きたいくらいで……」
「アンタが何かいわなきゃ、美衣が同棲準備したりしないでしょ!! しかもあの母親公認で!!」
「い、いや、真面目に心当たりないんすよ。剣崎さんとの仲を取り持とうと気づかいした記憶しかないんですってば!」
「……は? 何言ってんのアンタ、じゃあなんであんなに美衣がうれしそうな顔してんの?」
「……」
「うれしそうな……顔を……」
おおっとお、なんか剣崎さんが自分の発した言葉にショックを受けて、ジョジョ立ち状態から徐々にトーンダウンしていってる。
「美衣は……うれしい、のか……そっか……」
「?」
「そうか……あたしじゃ、無理だった、美衣に、あんな、顔を……」
なんだろう。
直感で、このままほっとくと、剣崎さんが自己完結、いや事故完結しちゃいそうな気がする。
「あ、あのー、剣崎さん?」
「美衣は、アンタのこと、あんな笑顔できるくらいに、好き、なんだね……」
「い、いや、そこは、そうとも限らないんじゃ……」
あああ、さっきとは違う種類の冷や汗が背中を流れだしたよ。
まさかとは思うが、剣崎さん、暮林さんを俺に任せて、あきらめようとか思ってない?
これは、ゆゆしき事態である!!
「で、アンタの気持ちは、どうなのさ?」
「合コンだけは!! 合コンだけはお願いしますぅぅ!!」
「……はぁ?」
「いやだってここまでこじれまくった皆さんの関係をここまで持ってくるのに、俺は一言で語れないほどの苦労をしたんですよ!? それが、今回の件で『合コンの件はすべてなかったことにする』とか言われちゃったら、それは死刑宣告よりもっと残酷じゃないですか!! 苦労とストレスで抜け落ちた俺の髪と、死に絶えた俺の毛母細胞を保証してくれるんですか!?」
「……あんた、美衣にあれだけ好かれておきながら……」
「というかですね、正直に申しますが、つきあって突き合ってらびゅらびゅモードになる前にそんな道程すっとばしていきなりドーセイとか、ドーテイの俺にできるわけないでしょう! ノンケの人間がいきなり百合の道に進むのと同じくらい難易度高いっすよそれ!!」
「……そうね、でも」
それでも、剣崎さんは疑わしい目を向けてくるのをやめない。
「なにが美衣にとって幸せなのか、あの笑顔を見ればアンタも察することができるでしょう。それなのに、あんなかわいい美衣に同棲迫られて、あんたはドピュッといっちゃったりしないわけ?」
「その幸せな勘違いに振り回されて、いままで暮林さんは泣いてきたんじゃないですか! 今回だって幸せな勘違いに決まってますよ!!」
「……そう、わかったわ」
「ならいいですけど」
「アンタが、美衣の本当の幸せを願っている、ということはね」
「……ゑっ?」
「そして、美衣を大事に扱ってくれる、ちゃんとした男ということも……そんなアンタなら、あたしよりも、美衣を笑顔にできるのかもしれない……」
「だから事故完結するのやめません!?」
正直に申すが、ネトラレアっていうだけで、俺にとっちゃ価値は下がるんやぞ。このまま母親公認でドーセイとかなし崩しにしちゃったら、ネトラレアがメトラレアに進化しちゃうじゃねえか!
……
しかし、どこから同棲する、なんて勘違いを生んだんだろうか。暮林さんに聞かなきゃ本気でわかんねえぞこれ。聞くのも地獄な気もしないでもないけど。
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