思わぬところでつながった(NOT下半身)

 俺の疑問に答えるかの如く、剣崎さんが続ける。


「あたしも話を耳にしたことあるわ。とある界隈で、だけど、F市で薬が出回ってたことがあった。何人か、十代の人間もつかまってた記憶がある」


「ガチで薬物っすか」


「まあ、いわゆるキメセク用の薬物よね」


 キメセク……まあ、あれだ。性行為に数倍の快楽を得られる、ってやつだな。

 しかしそこまで本格的なものとしてはいろんな種類があって特定できん。


「しかし、どこからそんなものが出回ったんでしょうね、あんな片田舎で」


 それが謎だ。怪しい組織から出回るとすれば、あのような田舎ではかなり限られてくるはず。


「まあ、噂だけど……おそらくは、F市をシマにしている子鳩会こばとかい、っていうところから、じゃないかな。あんな狭い街だと、そのくらいしか心当たりが浮かばないし」


「本職か……」


 剣崎さんは淡々と話す。

 しかし、『子鳩会』という言葉を耳にして、なぜか小島さんが狼狽し始めた。


「あ、あ……」


「? どうしたの、小島さん」


「子鳩会……うちの、父が……いるところ」


「なんだって!?」


 ああ、そういえば小島さんの父親、反社会的な組織の人間だって前に聞いてたな。忘れかけてたわ。

 その怪しいクスリが小島さんの父親の組織から出てた、とするならば……小島さんの義理の兄であるまりもっこりキモホクロもそれを使って云々、ていう可能性が出てきたわけか。


 そこで俺の中で何かがつながったように思えて、反射的に小島さんに尋ねてしまう。


「小島さんさ……まさかと思うけど、にクスリみたいなもの盛られたことはなかったの?」


 その場にいる人間全員が、その質問を聞いて察し、固まった。

 しまった、小島さんのことをもう少し思いやるべきだった。この場で聞くことではなかったかもしれない。


 だが、当の小島さんは震えながらも、はっきりとこう言ってくれた。


「心当たりしか、ないよ……」


「……ごめん、ぶしつけに変なこと聞いちゃって」


「ううん、大丈夫……」


 うっわー、なんというかここで再度怒りが大噴火しそうになっちゃった。つまり、家族ってことは、おそらくあのキモホクロマン竜一義兄だよな。


 おそらくは父親のつてで怪しいクスリを入手して、それを小島さんに使っていた。そして不謹慎な性行為を行っていたんだろう。キメセクの快楽ってあらがえないものがあるというからな。俺は経験ないから実地では知らんけど。


 だからこそ小島さんは、俺と付き合い始めても、その快楽から抜け出せなかったのかもしれない。


 ん……? ということは? ひょっとするとあずささんも同じような目に遭った、のだろうか。間男が同じ人間だし可能性はカズノコ天井、いや青天井。

 まずは聞いてみるか。


「ねえねえ泡泡あずさ姫。身の破滅を招く原因となった姫の浮気相手に、そんなものを使わされたような記憶は残ってますの?」


「なめてんのか!! ……悪いがアタシも心当たりしかないよ。『快楽を増幅するクスリ』とか言ってな、なんだかわけわからない錠剤を飲まされたことがある」


「やっぱりか」


「確かにその時のセックスは今までと比べ物にならないくらい気持ちよくて、まあ言い訳にしか過ぎないが、アタシが浮気セックスにハマった原因ではあったな。麻薬の類だろうとは思ってはいたけど……」


「……」


 アンジェの耳をふさぎたくなるくらい、きわどい非合法な会話だが。

 もうここまできてしまったらアンジェにも汚い裏側ってものを教えといたほうがいいだろ、と開き直ってしまおう。箱入りで汚い部分を知らずに騙されることがないように、な。


 しかし、そうだとするなら。

 俺と別れた後、罪悪感から不感症にまでなってしまった小島さんは、心の底から俺に申し訳ないと思っていたんじゃないか、なんて思ってしまった。

 そして俺を裏切った理由が薬物によるものでもあるとするなら、正直小島さんをきつく責めるつもりは俺の中から消え失せてしまう。


 むしろ、今現在、肩を震わせて涙を流している小島さんがめっちゃ不憫、まであるわ。参った。


 ま、あずささんに関しては、そもそも浮気をしようと思わなければそこまでセクロスにハマることはなかったはずなので、さほど同情はしないけどな。


 …………


 いやちょっと待て。

 もしも父親のつてであのクズ義兄がクスリを入手してたとするならば、竜一キモホクロマンがタイーホされちゃったら、芋づる式に小島さんの父親もタイーホされちゃうんじゃね?


 …………


 やべえ、本当に小島さんの家庭崩壊しちゃうよ。どーすんの。

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