かぼちゃぱんつの姫
結局その後、春祭は中止になった。
ガチ事件が起きたのだから当然ではある。人質のチョイスが違っていれば大惨事になったかもしれないしな。
……まあ、犯人に対するナポリたん先輩の制裁のほうが違う意味で大惨事だけど。
なんせ着ていた幼稚園児用らしきスモックがナポリタンスパゲティをこぼしたかのように真っ赤に染まっていたんだから、そりゃみんなビビるわ。
先輩曰く、
『犯人の鼻血が飛んできただけだからそんな大げさなもんじゃない』
とのことだが、素直に受け取れるわけあるか。自分のない胸に手を当てて考えろっつーの。
遅れてきたけーさつに確保された時の奥津らしき犯人の顔は目出し帽のせいではっきりとはわからなかったが、あれ絶対フルボッコされて鼻血以外にもなんかが出ていたはず。
おかげで、ナポリたん先輩は『
あと、ひそかに心配していた過剰防衛じゃないかという疑問は、『こんなようじょがそこまでひどい暴力をふるえるわけもない』という先入観で乗り切れるようにも思う。見た目すら武器、それも恐ろしいものよ。
一方、実の母に公衆の面前でスカートをめくられるという被害にあったアンジェは。
「ううう……恥ずかしくて死にたい……お兄ちゃん以外に見せるつもりなかったのに……やっぱり正夢だったよぉぉぉ……」
愛莉ちゃんを除く全員でアパートに戻ったあと、さめざめと泣いていた。おそらくみんな忘れているであろう伏線の説明もありがとうな。
ちなみにゆきちゃんと久美さんは部屋内にもういなかった。残っていたのは『連絡がつかなかったので、ご無礼をお許しください。お世話になりました、後日改めてお礼に伺います』という書き置きだけだ。
立てこもり事件とかがあって、通話に出られなかったからな。それは仕方ない。
ま、ゆきちゃん関連は後で考えるとして、現在の最重要課題はアンジェをなだめることである。
「……どーすんだよ、オカン」
「いやいやごめんねアンジェ。というかアンジェがかぼちゃぱんつ穿いてるって知ってたからこそああいう真似をしたわけで、勝負仕様のスケスケひもレースとか穿いてたらさすがにあたしもたくしあげなかったわよ」
「あああ……もうお嫁にいけないよう……」
「なんだ、アンジェはお嫁に行きたかったのか?」
日ごろからあれだけ『男なんて興味ない』、みたいな態度をとっておきながらその発言は違和感バリバリである。女はいつもミステリーだね。
「ううん、もう無理だから、お兄ちゃんに責任取ってもらって一生一緒にいてもらわないと」
「……」
ツッコミはやぶへびだった。
いやでも確かに俺にも責任あるしな、軽い気持ちであんなこと言わんかったらオカンも暴挙に出なかっただろうし。
何が悲しくてアンジェと一生一緒にいなきゃならんのかはさておき。まだ俺のライフタイムはリスペクトされるような状況じゃないぞ。
というわけで説得開始。
「ラーメンおごってやるから、機嫌直してくれないか」
「……お兄ちゃんと二人きりで食べに行くのなら、それで妥協する」
「ノープロ」
交渉成立。安い妹で助かった。即座に解決めでたしめでたし……
「ちょ、ちょっと待って! 雄太くんとデートの約束したのは、わたしのほうが先だよね!? だったら……」
……と思いきや、暮林さんがそこで乱入してきて、話をこじれさせてくださった。ありがた迷惑。
「いや、それはもちろん覚えてるけど、申し訳ないけどその期限直してくれないか?」
「……お兄ちゃん? デートの約束って、どういうこと?」
「あ」
なんでこーなるの。
―・―・―・―・―・―・―
いろいろあって仕方なく、皆で一緒にラーメンを食べに行くことになった。
だが、アンジェと暮林さんがお互いにお互いをけん制しあってるせいで、空気がやたら重い。
こんな時は、スマホを眺めてごまかすに限る。
…………
そういや、ひょっとするとさっきの事件がシイッターでポストされてるかもしれない。ちょっと調べてみるか。
…………
ん? トレンドの末尾に『かぼちゃぱんつの姫』、だと……?
―・―・―・―・―・―・―
『びっくりしたよ! 人質を盾にして暴れる犯人の気をそらすために、かぼちゃぱんつの姫が自分のスカートをたくし上げたんだぜ!』
『なかなかできることじゃないな、素晴らしい自己犠牲だ』
『俺も見た。外人みたいな金髪ですっげーかわいい子。かぼちゃぱんつの姫って言いえて妙すぎる』
『そんな姫のような美少女がかぼちゃぱんつを穿いてるなんて……』
『今の俺ならかぼちゃぱんつで欲情できる自信がある』
『KYOKOといいかぼちゃぱんつの姫といい、伝説の春祭じゃないか』
『かぼちゃぱんつの姫の人気に嫉妬』
―・―・―・―・―・―・―
「……」
そっ閉じ。
あほらし。誰だ、こんなローカル事件のスレッドを掲示板に建ててシイッターに引用した奴は。しかもプチバズってる。
画像が残されてないのだけが救いだが……怪我の功名で、アンジェがもしも芸能界デビューしたら即座に売れっ子になれるかもしれん。
まるでかぼちゃぱんつを穿いたシンデレラのようだわ。アイドル伝説アンジェ。
涙の半分は俺の責任だけどな。ほんとすまん。おわびといっちゃなんだが、めっちゃうまいと評判の万葉名物『メスブタラーメン』を思い切り堪能してくれ。
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