現実世界はモブに厳しい世界なので体力が尽きて更新できなかったのですが、だれかこの悲哀の状況を説明してください

 まあいい。

 とにかく今は命の危険があるほうを心配……


 ……ま、人質がナポリたん先輩なら杞憂にしても、まだ確定はしてないわけで。


 結局、そのあとちょっと気まずくなって、愛莉ちゃんと話さずに立てこもり現場と思われるところまできた。

 さすがに人だかりができているが、楽屋と化している実行委員会の事務所の中の様子はうかがい知れない。警備らしき方々が立てこもり現場から距離をとるよう促してもあまり効果はないようだ。


「お兄ちゃん!! ……ひっ」


 俺の姿を目ざとく見つけたアンジェがぱたぱたとお嬢様走りをして近づいてきたが、そばにいる愛莉ちゃんに気付いてひるんだ。小鹿だもんねちかたないね。

 俺は『心配ないからね』という意味を込めアンジェの肩をあたたたたたたた叩いたが、アンジェはますます顔を青白くさせるだけだ。このままじゃ心肺停止だね。


 仕方ないので、ちょっと愛莉ちゃんとは距離を置いて、アンジェとひそひそ話をする。


「で、どういう状況なのよ?」


「う、うん。なんか知らないけど、いきなり控室に乱入して、お着替えしていたようじょに所持していたナイフを突きつけてから人払いして立てこもったとか……」


「……なんでようじょが控室で着替えしてたんだ?」


「聞くところによると、そのようじょ、これから開始予定だったミスコンの参加者みたいで」


「……それようじょじゃねえだろうが」


 自分で自分の発した言葉の矛盾に気づけよ、アンジェ。

 いくらなんでも本物のようじょがミスコンに出るとは到底思えん。さっき会った時に言われた『忠告という名の命令』の内容からして、人質はやっぱナポリたん先輩の可能性大。

 おそらく一番弱そうな人間を盾に取ったつもりなんだろうな、犯人。だがそれは大きな間違いであることにもうすぐ気づくであろう、南無。

 着替え中を狙ったことだけが正解だわ。


「……っと、そうだ。ところで犯人はどんな奴なんだ?」


「えっと、それが……」


「奥津君だったの!!」


「わっ!? 暮林さん?」


「目出し帽かぶってたけど、あの目は奥津君に違いないよ! 飛鳥姉のライブが終わって警備の目が緩んだすきに、いきなり刃渡り9センチのナイフを取り出して、控室に乱入していったの!!」


「9センチにこだわりあるのかあいつは」


 どこまでも期待を裏切らないやつめ。まあ、奥津のことを誰よりもよく知る暮林さんがそう言うんだから、こっちも間違いないだろう。


「つか、なんで9センチの刃渡りとかわかるの?」


「あ、あの、あたしのこの指の幅がちょうど9センチだから……」


「……あっそ」


 暮林さんが右手の親指と小指で作った9センチの幅を見て察した。なるほど、行為中に計測してたなこの女。イヤすぎる。


 まあそれは置いといて、だ。

 刃物まで出しといてシャレにならん状況だ。そうまでしてたてこもった奥津の要求とは、いったい何だろう──


「KYOKOを、いや、剣崎飛鳥を連れてこいやぁぁぁぁ!! 人の純情もてあそびやがって!!」


 ──と思ってたら、人質の背後から首元へナイフを突きつけたまま、立てこもり犯が叫び声をあげ控室から出てきた。そのとき人波がさっと割れ、少し距離を置いて俺たちの真正面に再登場する形となる。

 案の定、KYOKOがターゲットか。こりゃ犯人は奥津でほぼ決まりだな。


 しかし、心からの叫びが意味不。今頃になって剣崎さんにもてあそばれてたことに気づくの、いくらなんでも遅すぎだろ。どっかの誰かに入れ知恵でもされたんか?


 ふむ。まあそれはそれとして、まずは生命が最優先。

 奥津(仮)がいくら刃物の扱いに慣れてないとはいえ、いくらナポリたん先輩でも、ああまでナイフが近いとうかつに動けないか……いや、でも先輩の表情は無だ、恐怖心すら一ミリもない。あれはこの状況を屁とも思ってないのかも。


 あと、奥津(仮)が俺たちの真正面に姿を現したことで気づいたが、ヤツの目がラリってるように思えるのは俺の錯覚だろうか。なーんか最近、あれに似たような目を見た記憶があるぞ。どこでだろ。

 あの麻薬でもキメてそうな目がやたらと印象に残ってしまって、ナポリたん先輩がなぜ幼稚園児が着るようなスモックを身にまとっているのか、なんてことは俺の中でわりとどうでもよくなっている。


 ゆきちゃんの影もないことが証明され愛莉ちゃんはようやく安心したようだが、俺としてはそうはいかない。杞憂だとわかっていても。


「あらあら、なんだって危険なことになっているわね……って、あの子」


 そんな中、状況を確認するかのようにオカンが俺の横に並んできて、そうつぶやいた。なんとなく不思議そうな雰囲気とともに。


「? オカン?」


「なんだってあの子がここに……?」


「は? オカン、ナポリたん先輩のこと知ってるの?」


「あの子、イタリアンレストラン『Cozza-Ganeコッツァガネ』の娘さんでしょ?」


 おうふ、ビンゴ。

 さっきナポリたん先輩と再会した時にはオカンはいなかったはずなんだが。


「その通りだけど……オカンは何で知ってるん?」


「そりゃ知ってるわよ。あそこのマスター夫婦は、恩人といっても過言じゃないもの。夜のお仕事していたときはよく食事しに行ってたし、いろいろとお世話になったわ」


「……世間って狭いなあ」


 この文章を書いてる作者限定で世間は狭いのかもしれないがな。


「ってことは、マスター・ユミエの娘さんだもの、犯人に隙を作ってやれば自力で脱出くらいはできそうね、あの子」


「先輩の実力まで知ってるとは」


「マスター・ユミエはあの界隈では伝説よ。主に物理的な意味で、ね」


「……」


 ナポリたん先輩の母親はなんかの格闘技師範だと噂で聞いたことがあったが、ガチなのね。このオカンからの信頼度の高さよ。


 奥津登場で人が割れてしまったせいで、距離があるとはいえ奥津の真正面にいるのは俺とオカンとアンジェになってしまっている。なお暮林さんは奥津に見つからないよう、奥へと引っ込んでしまった。


「とはいっても、隙を作らせるのはどうすればいいかしら?」


「……あいつ性欲の塊っぽいから、美女の裸とか、もしくはぱんつでも見せればあんなラリった状態でも隙くらい作れるんじゃね?」


 ただし隙をどうやって作るかなど俺にはわからん。なのでオカンに適当に返したのだが、それがまずかった。


「それ、採用。悪いわね、アンジェ」


「……ふぇ?」


 オカンは俺の提案を受け入れ、黒のワンピースを着ていたアンジェのスカート部分に手をかけ、思い切りたくし上げた。


「ちょ!? ちょちょちょっと、なになになに!?」


「はぁぁぁ!?」


 周りはもちろんのこと、身内の俺ですら思わずアンジェに目をやってしまったのだ。たとえ距離があったとしても、アンジェが穿いていた『かぼちゃぱんつ』に奥津の目もくぎ付けになったことだろう。


 これ、ドロワーズっていうのか? まあそんな細かいことはどうでもいい。


「ぐふっ!!」


 その一瞬の隙のあと、うめき声に気づいて前を見ると、ナイフから解放されたナポリたん先輩が仁王立ちしていて、代わりに奥津は股間を抑えたまま膝をついていた。


 さすが最終兵器ロリ、これで万事解決……


「……あ」


 そのままナポリたん先輩が、倒れかかった奥津を楽屋内に引きずり込んで、ドアを閉めた。


 ……なんかやべえ音と断末魔の叫び声が聞こえるんですけど。

 命だけは奪わないでおいてあげて。




 ────────────────────



 ご無沙汰しております。誰も待ってなかったらごめんなさい。

 文章を打つ手の速度がだいぶ落ちましたが、リハビリ頑張って少しでも昔に近くなるよう努力します。


 皆さん内容を忘れているでしょうが、今後は更新を頑張ります。またよろしくお願いいたします。

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