思う心、嫌う心
「しかし、まさかここでも上村の先輩になるとはなー」
「いやマジびっくりですって、まさかナポリたん先輩がこの大学に入れるくらいアタマよかったとは」
「それはおまえの自慢かそれともボクを見下してるのか?」
「あ! そっか、一芸入試ってやつでしょう」
「ぐっ」
短い立ち話で核心をついて俺の勝利であった。
この人、運動神経の塊みたいな人だったからな。なりだけ小さいけど。
俺と先輩のやり取りを聞いて、先輩の隣にいる女性がクスリと笑って口元を軽くおさえた。あらー、こちらは正統派の美人さんだね、絵になるわぁ。しかも黒髪ロングの巨乳……おっと、目が合ってしまった。
まあ一応、常識的にいってみよう。
「……で、こちらの方は? 先輩の保護者さんですか?」
「ぶん殴るぞ。ボクの幼なじみでバスケ仲間の
「ああ、そういや先輩バスケやってましたもんね……うっ頭が」
ナポリたん先輩が高校時代所属していたバスケ部はわりと強豪で有名だったが、俺にとっては同じクラスにいたとんでもないトラブルメーカー女子も同じバスケ部だった、という理由でいい印象が皆無である。
そういやどこかの女子大にバスケ推薦で進学したと百合の噂で聞いたが、今頃はなにやってんだろうな、あの緑川とかいう名前の非常識女。
「はじめまして、吉岡佳世と言います……奈保ちゃんには、本当に、お世話になってます。よろしくお願いします」
「ああこれはどうもご丁寧に。でも後輩の俺にそんなかしこまらなくていいっすよ。さっきのナポリたん先輩みたいに、ピンチはパンチでねじ伏せる! くらいの態度でよろしくです」
吉岡さんのあいさつに白い歯を見せながらサムズアップでこたえる俺。何かがツボったのか、吉岡さんはまたもや両手を口元に寄せてくすくす笑いを始めた。
「……なんか、似てるなあ……」
「んー、まあ、そういうところはあるかもな」
その後、吉岡さんとナポリたん先輩にしかわからないような会話が交わされていた。なんのこっちゃ。
だがその時気づいた、口元に寄せられた吉岡さんの左手首にある、理不尽なくらい大きな傷に。
……うーん、さすがにそれを尋ねるのはやめたほうがいいよな。
ならば、礼には礼を、というわけで、こちらも連れ紹介しておこう。
「あ、後ろにいるのは、同じ大学の暮林美衣さんと、こっちは俺の妹、アンジェ」
俺の紹介に合わせ、暮林さんとアンジェが軽くお辞儀をする。が……何やらアンジェの表情が険しい。なんでだ。
「はぁ!? ちょっと待て上村、おまえに外人の妹なんていたのか!? 義理か? 義理だよな? そうじゃなきゃ人間としてギリギリだぞおまえ」
「勝手に人外扱いしないでくれませんかねえ? 半分だけど血のつながった妹ですよ。似てないのは否定しませんけど」
それにしても、ナポリたん先輩は期待を裏切らない反応を見せてくれる。確かに、初対面でアンジェと半分血がつながってると見抜いたやつはいないけどね。
アンジェの表情は相変わらずマウントフジくらいの険しさ。一方の暮林さんはどうリアクションしていいのかわからない様子だ。ま、二人を紹介した時点で俺のやるべきことは終わったわけで、気にしないのが吉か。
「はー……なんやかんやで、おまえのまわりにいるのも美少女だらけだなあ、おい」
「美少女
「わ、わたしならそのくらいの権利、いつでもいくらでも雄太くんに……」
「なんでお兄ちゃんにはこんなに美人さんばかり寄ってくるのぉぉ……確かにお兄ちゃんはかっこよくて頼りがいもあって優良物件だけど! だけど!!」
「うん、きみたちちょっとおとなしくしててくれないか」
ただでさえカオスな状況だっつーのに余計なことしゃべんな。
いちおう吉岡さんの目があるので言い方だけはお上品に、オホホホ。これぞできる男の気づかいってものですわ!
……いやいや、冷静に考えればもうすぐKYOKOのステージだよ。
「っと、ここで路上漫才している場合ではないですね、早くステージへ向かわないと。じゃあナポリたん先輩に吉岡さん、俺たちはこれで」
時間に押されてる俺は、とりあえず切り上げるつもりでそう挨拶したのだが、そのとき先輩が露骨に嫌な顔をする。
「む、おまえらステージへ行くのか……じゃあ一言だけ。いいか上村、おまえは午後三時以降は中庭ステージに立ち入ることは許さない。いいか、これは忠告ではない、ボクからの命令だ」
「……はい?」
「とにかく来るな。ボクのシャイニングウィザードを食らいたくなければな」
「なんたる横暴」
まあ、KYOKOのステージはその前に終わるけど、三時からの催しって……たしかミス春祭コンテストとかじゃなかったか? KYOKOこと剣崎さんがそのまま審査員やる予定だったような。
あれ、そんなに多くないけど、賞金とかも出るんだよなあ……
…………
……あっ(察し)
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