結局、バレる(ただし一部だけ)
さて、この気まずい空気をどうやって一新しよう。
などと悩んでいたら、思わぬことに暮林さんが特大の話題転換という爆弾をぶちまけてくれた。
「あ、そういえば! 雄太くん、同じクラスの木村愛莉さん、じつはわたしたちと同じ中学校出身だったって、知ってた?」
「べりべりべりべりべりべりべりがおーがおーがおー!?」
おっと、思わずとんでもない声が出てしまった。ゆきちゃんを起こすわけにはいかない。
しかし、思わずこの時点で久美さんのほうを見てしまったよ、さっきまで俺に注がれてた生暖かい視線があっという間に険しく変わったわ。
いやまあ、たしかにバレるのは時間の問題だったかもしれないけど、よりによってそれを今言うか。言っちゃうか。暮林さんはきっと空気を読まずに自分勝手にイッちゃうタイプの人間だな、陰、核芯した。もとい、うん、確信した。
「……なんでそれを知ったの?」
「あ、あのね。実は飛鳥姉から聞いたの……」
「……なんやて」
しかしその情報の出どころが予想外。
確かに剣崎さんも学年は一つ違うとはいえオナチューだったわけだし、愛莉ちゃんのこと知っててもおかしくはないといえば……
「実は、飛鳥姉の所属している事務所で年に一回行われるオーディションがあるらしくて。木村さん、そこに応募してきたみたいでね」
「……はぁぁぁぁ?」
「飛鳥姉も審査員として席を連ねてるから確認したみたい。そうしたら、同じF県出身で、しかもわたしと在籍中の大学が同じだったということで『木村愛莉って子、知ってる?』って飛鳥姉に訊かれたときはびっくりしたよ」
「……」
……とか思ってたら、予想よりだいぶ一つ上というか斜め上というか。守秘義務どーなってるとは思わないでもないけど、なんやそれ。本当に応募してたんかい。
もしそこで事務所に採用されたりしたら子連れグラドル爆誕じゃねーか。
目線で久美さんのほうへ確認をとると、『私は知りません』みたいなリアクションが返ってきた。つーことは家族とかには内緒で応募したんだな。ムチャだろ。
木村さんは確かにグラドル向きのスタイルではあると思う。巨乳と言って差し支えないし、そのくせ顔はやや幼めだし。
むろん、出産してからグラドルデビューしちゃダメ、っていうわけじゃない。むしろそれを大っぴらにしてデビューしたりすれば、今の世間からは思いがけず応援の嵐が巻き起こるかもしれない。
だが、グラドルデビューするにあたって、ゆきちゃんとかをないがしろにしたままだとするなら、さすがに到底応援する気にはなれんわ。
おまけにデビューしてから暴露系スクープに悩まされること間違いなしじゃね。けっこうな地雷案件のできあがりだ。
…………
そういや、確かに愛莉ちゃん、小学校の卒業文集に『アイドルになりたい』って書いてたわ。いらんことまで思い出した。
完全なる黒歴史としか思えないが、まだあきらめてなかったのか。
…………
いや、ひょっとすると、そういう昔からの夢にすがらなければ、生きていく希望が見いだせなかったのかもしれないけどね。
「……ま、まあ、そういう話ができるくらいには、剣崎さんと和解できたんだな」
ちょっとだけ思考回路がバグってしまったせいで、暮林さんに対してそんな無難な返ししかできなかった俺。思考が追い付かない状況に追い込まれたのはひさしぶりだわ。
「あ、うん。本当にありがとう、雄太くん。おかげで、心にずっと残ってたわだかまりみたいなものがひとつ取れたような気がするの。本当に感謝してる」
「別に……」
「ううん、そんなことないよ」
「……そう」
俺は自分のため、いやまあ合コンのために行動していただけだから、別に暮林さんに礼を言われる筋合いとかねーんだけど。
そう、合コンはこれでもう成立したも同然……
……なんか合コンに関して、ちょっとだけいやな予感がしたんだけど、気のせいだな。深く考えるのはやめよう。
「奥津君のこともね……合わせて飛鳥姉が忠告してくれたんだ。なんか、ひょっとするととんでもないことをしでかす可能性があるから、気をつけろ、って」
「……は? 奥津?」
と思ったらまたまた追加情報佳世!
大部分の人間が奥津という自称・奥までズッポシ9センチバルカン砲の存在を忘れてるぞ。うんごめん俺も忘れてた。
そういや光秀情報で奥津の行方が知れないとかあった気もするけど。
「そうなの……なんかね、飛鳥姉のところに怪文書とか犯行予告みたいなものが頻繁に来てたみたいなんだけど……どうやらそれを送ってたの、奥津君、みたいで」
「マジか!!」
「うん。まあ、そのせいか、今日のステージではセキュリティを厳重にしたって飛鳥姉が言ってた……」
「……おーまいがっです」
なんすかこの怒涛の伏線回収。
そしてアンジェのセリフ、まるでなし。
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