いろいろと同時進行しすぎて頭がフットーしそうだよぉっっ!
「とりあえず、こうなってしまっては落ち着かないですよね。ちょっと、どこかに避難しませんか?」
ゆきちゃんをどうあやしたらいいかいまだにわからない様子の久美さんへ、そう提案してみる。
「え、はい、ですが……どこへ?」
「まあ好都合なことに、俺の住んでるアパートが近いので」
「……」
少しだけ迷ったようだが、久美さんはコクンとうなずいた。
ゆきちゃんをさっきまで守っていたアンジェも『それしかないよねえ』みたいな顔をしてる。
が、はっきりと言葉にしなかったのは、久美さんが『アンジェにとばっちりを食らわせてしまった』、ということを負い目に感じてると察したせいだろうか。
なんか、木村ファミリーは全員が全員追い込まれてる感じ。
いやまあしかし、木村さんがグレてたころへと先祖返りしたのはマジびっくりしたけどさ。あそこまでひどい人間だったか?
虐待とか育児放棄とかしていたならマジでそれは許せん。しかし、俺が知ってる木村さんはそんなふうに人格破綻してなかったと思う。
少なくとも、他人のことを思いやる心くらいは持っていたはずだ。そこが腑に落ちなかった。
ま、いろいろ考えるべきことはあるにせよ、ここは落ち着ける場所へと引くしかない。再度、わが城へと戻ろう。
そろそろ暮林さんたちも話が一段落したころだろうし……
……って。
「そういや、オカンどこ行った?」
「そういえば……どうしたんだろ、母さん」
兄妹そろって母いないことに気づいた時、タイミングよく俺のスマホに新着メッセージが届いた。オカンからである。
『さっきの騒ぎ見てたけど、さすがにほっとけないから私は
読んでまず疑問に思ったのは、土地勘ないところで迷子、いや迷オカンにならんか? ということだったが、ま、スマホあるしなんとかなるだろう。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、オカンが木村さんの後を追っていったっぽい。あっちは任せて大丈夫じゃないかな」
「……そっか」
ウチのオカンは、たぶんこういう時やれる大人だ。アンジェもいやというほど知ってるからこそ、それ以上何も言わなかった。
そして、今の木村さんを理解してやれる人間は、この中ではオカンしかいないかもしれない。
──申し訳ないが任せます、お母様。
―・―・―・―・―・―・―
その後、アパートの状況は今どうなっているだろうと、試しに剣崎さんにメッセージを送ってみたら、少したって返信が届いた。
『とりあえず、元通りとはいかないけど終わったわ。時間が押してるから詳しいことはまたあとで』
終わった、というのは、ケリがついた、と解釈していいのだろうか。
まあ、暮林さんは暮林さんでそれなりに受け入れてくれる準備をしていたようだし、剣崎さんがちゃんと誠意を見せていればそうこじれることはなかっただろうけどね。
ついでにスマホの時刻を見ると、今現在十二時ちょっとすぎ。出番が一時からだと考えるとギリギリだろうが、剣崎さんのほうはなんとか間に合うだろう。
よし、ならば部屋のほうは空いてるな、と判断した俺は、久美さんとゆきちゃんを連れてアパートへと戻った。もちろんアンジェは金魚のフンである。
そうしてアパートの扉を開けると。
「……ん?」
「あ、お、おかえりなさい」
「……まだいたんだ」
なぜか、少しだけタマシイの抜けたような暮林さんが、体育座りをしながらひとり部屋の真ん中でボーッとしてた。そのせいか第一声がおかしい。
いやそこでおかえりなさいって変じゃね? 誰の部屋だと思ってる。
「あ、ご、ごめんなさい。いろいろありすぎて、なんだか、頭がフットーしそうになって……」
「そのセリフ、使いどころが間違ってるからな」
それはつながったまま抜けなくなって、仕方なしにその状態で街を歩くときに使う表現だ。結合上等なビッチならその辺わきまえろ。
「……上村さんは、同棲なさってらっしゃるんですか?」
「それは違います。ちょっとだけ場所を提供してあげただけです」
あと、久美さんが誤解してとんでもない質問をしてきたので、即座に否定した。ここにまだ剣崎さんがいたらちょっとした騒ぎになったかもしれん。不幸中の幸い。
なぜか横でアンジェがむくれているけど、今はほっとこう。とりあえず、最優先はゆきちゃんの保護だ。
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