DOKI☆DOKI豹変サーカスゲーム(忍者はいない)
「そ、そっか、でもKYOKOのステージってまだ一時間ほど先だよね」
ちょっとだけ混乱したので、意味不明な質問をしてしまう俺であった。こういう時に臨機応変な対応ができる経験値はいまだに少ない。
「そうだけど、おとといちょっと嫌なことがあってね。ま、だからバイト休みにしちゃったんだけど、家にいるのも苦痛だから早めに来ちゃった」
「あ、そ、そうなんだ。そこまでKYOKO好きなんだね木村さんは」
「え、うん。KYOKOの所属する事務所がモデル募集してたら、つい応募しちゃうくらいには好きだよ!」
「……」
応募したんかい。
いやまあ最近の世相を見るに、子持ちでも芸能界でアイドルデビューしてもおかしくはないんだろうけどさあ。いろいろバレたらだめじゃんか。
木村さんが確かに素材として優秀ではあることは認めるよ。でっかい胸に童顔というアンバランスさ。そしてほのかに香る色気というかビッチ臭。
ま、これはチューボー時代にインラン帝国でマ○コ・カパックしたから醸し出されるものとしても。
なんかこの会話でいろいろ察せられないほど、俺は鈍感系主人公じゃない。推測はほぼ間違いなさそう。これでもしも木村ーズが赤の他人だったら、この物語の根幹が破綻しちゃうから。
「さて、どこから見るのが一番いいかなー?」
おおっと、脳内で一人ツッコミしてる場合じゃない。木村さんがきょろきょろし始めてしまった。ゆきちゃんがいる方向へ視線を向けさせないようにしなければ。
…………
ゆきちゃんたちはどこに行った。見失ったぞ、ヤバイ。
ええい、とにかく鉢合わせする可能性が低い方へ誘導だ。
「あ、あの左端あたりがいいんじゃない?」
「えー? あんな端っこ、まともに見えないと思うけど?」
「い、いや、風水的にあそこがベストポジションだよ、間違いない」
「風水的にってなにそれー! まあまだ慌てなくてもいいかな。わたし、今のうちにちょっとお手洗いに行ってくるねー」
「あ、ああ、うん」
なんか落ち着かない会話ではあったが、木村さんをいったん中庭から追い出すのには成功した。
さて、いまのうちにゆきちゃんと久美さんに話をしておこう。俺はそう決めて、コーラを片手に急いで久美さんのところへと戻った。見るとオカンも久美さんと一緒のベンチに座っている。
「……あれ、ゆきちゃんとアンジェは?」
コーラを久美さんに手渡しつつ、オカンにそう尋ねてみると、おどろきの鑑定結果が。
「ああ、ゆきちゃんがおしっこしたくなったみたいでね。アンジェと一緒にトイレへと向かったわよ」
「う゛っ!?」
思わず射精してしまうくらい動揺しちゃったわ。うめき声だけで済んでよかった。
中庭には一番近いトイレへの案内立て看板ひとつしか出てないし、まさかまさかの可能性しかねえんだぜおい!!
「ヤバイ!! 貝合わせするかも!!」
「……鉢合わせ、ですか? 誰と?」
俺の言い間違いを訂正してくれてありがとう、久美さん。ではここでさらなる答え合わせと行こう。もうごまかすような時間じゃない。
「久美さん、ストレートに訊きますが、ゆきちゃんのお母さん、『あいり』って名前じゃないですか? そして以前、F県F市に住んでましたよね?」
「……え? な、なんでそれを……まさか」
「やっぱりビンゴか……」
たとえるなら、今の久美さんの顔は『ちゃんと避妊してたのに、なんで妊娠しちゃったの』みたいな表情をしている。わかりづらいたとえですまんな。だが、そうとしか言いようないのだ。
「すみません、まさかと思ってたので言ってませんでした。俺、実は木村愛莉さんと小学校中学校一緒だったんです」
「え!?」
「むろん、愛莉さんが中学進学と同時にグレちゃって、不登校になったことも知ってます。俺との関係はそこで途切れました」
突然のカミングアウトに、固まる久美さんである。
ま、そりゃそうだ、まさか引っ越してきた先でこんなふうに娘の同級生と知り合うとは思えないだろう。これがポジティブな出会いなら運命とも思えるだろうが、そんな要素はミジンコもミドリムシもないわけで。
「……って、雄太。まさか……ゆきちゃんの母親って、雄太が小学生の時仲良かった『アイちゃん』なの!?」
「いえすまむ」
そして久美さんの脇で聞いていたマイオカンもびっくりとりす。そういやオカンはいちおうアイちゃんの存在くらいは認識してたな。さすがに久美さんの孫在までは知らんにしても。
というわけで答え合わせが済んで、久美さんは茫然自失である。
「ま、まさか……上村さんが……」
「すいません言うのが遅れて。名字からしてまさかとは思ってたんですが、改めて尋ねるのもためらわれて」
「更生して我に返った愛莉が、『こんなことなら、ゆうたくんを誘惑した後に中に出させて責任取ってもらえばよかった!』ってぼやいてた、あの『ゆうたくん』だとはすぐに思わなかったです……」
「なにそれこわい」
「愛莉はそこは繰り返し後悔していました。好きだった男の子がいたのに、自暴自棄になってその恋心を捨て去るような行動をとってしまったことを」
「……」
いや、ふざけんな。『きれいな気持ち』みたいな感じでそう言われても困る。
だいいち俺が告るよりもマッハでグレたのは木村さんだし、しかも完全に企んでいることが托卵じゃねーか。暮林さんと小島さん、既出の
…………
というか、木村さんも俺のことを好きだったことは間違いないんだな。複雑。
あそこで中学進学を待たずに俺が木村さんに告白してたら、未来はバタフライエフェクトの影響を受けたかもしれない。
だが現実のバタフライは、木村さんが先輩と買ってたゴム製品だけというね。ほらあるだろ蝶の絵が描いてあるやつ。あれだあれ。
…………
いや待て、自慰にふけるのも物思いにふけるのも今はだめだ。それよりもまずは伝えることがあろう。
「さっき愛莉さんに会って、彼女も今トイレへと向かっちゃったんですよ。だから今頃親子でバッタリ……」
「……え? ええ!?」
久美さんはそこで反射的に立ち上がり。
「いけない!!」
短く叫んで、トイレのある方向へ駆け出した。
俺とオカンも一緒についていく。鉢合わせするだけだというのに、久美さんの慌て方が尋常じゃないぞ。
「いけないんです、愛莉は……愛莉は、優希を見ると、豹変してしまうんです」
駆け足とともにそう呟く久美さんの様子を見て、察した。たぶんオカンも、深刻な何かを感じ取ったに違いない。
そうして、三人息を切らしながらトイレ前に着いたら。
トイレ脇で、アンジェがゆきちゃんを背中にかばいつつ、木村さんと対峙しているシーンに遭遇した。おお、珍しくアンジェが子鹿のバンビのように震えてる。
「な、なんですかあなた……突然」
「いいからどけよテメー。明日の朝刊載りたくねーだろ?」
いや豹変しすぎだろ木村さん、こっちはまるで子鹿のゾンビみたいな怒りの表情じゃねーか。みんなドン引きして見て見ぬふりしてんの気づいてないのか。
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