ようじょはすべてに勝る
「しかし、上村くんの好みは、金髪美女なのかい?」
冤罪も甚だしいのだが、真方くんは止まらず闇落ち手前の恨み節を唱えている。
勝手に誤解されるとクソ面倒な未来が想像できてしまうのが、同じクラスの
仕方ないので全力三歩手前くらいで弁解させてもらおう。
「いやいやだから違うわ。左は実際に血の繋がった妹で、右は戸籍上の俺の母親だっつの」
「はっ、そこまでして無理やりごまかさなくてもいいよ。そんな言い訳、誰が信じると思うの?」
「あのね」
「そんなに若くて金髪の美人さん、どう見たってとなりの自称・妹さんのお姉さん、てとこだよね?」
「……」
「そんな美人姉妹からがっちりと両腕をホールドされて見せびらかすように歩いてくるなんて、他のモテない男たちからしてみれば嫉妬の対象にしかならないからね?」
なんか知らんが、そこまでモテない陰キャをこじらせたようなヒガミだか妬みだか混じりのイヤミ全開でなじらんでもええやろ。シェー!
「あらあら、ふふ。私もまだまだ捨てたもんじゃない、ってことかしら?」
いっぽう、嬉しそうにクスクス笑いをしているアラフォーがここにひとり。
ひょっとすると真方くんは近眼なんじゃないのか、と思う。オカンをガン見したら目もとに集まるカラスの足跡くらいわかりそうなものだが。
「喜ぶのは後回しにして、保護者ならばこの言いがかりに対して息子のフォローをするべきだろーがこの若作りオカンは」
「自分の母親が若く見られることは自慢すべきことじゃないの?」
「それで見当違いの言いがかり付けられたあげく妬まれたらかなわんわ。あんなー、真方くん、ここにいるパツキン縦ロールの悪役令嬢もどきは、アンジェの姉どころかもうアラフィげふっ!!」
「一言多いわよ、雄太」
オカンの肘鉄がみぞおちクリーンヒット。その場で思わず抱え込む様にうずくまる俺。無事両腕はフリーになった。
しかしそんな俺を真方くんは同情すらしてくれない。
「だいいちさ、上村くんってなぜか知らないけど周りに可愛い子とか美人とかばっかりいるじゃない! クラスどころか学部三大美女とまで言われてる木村さんや暮林さん、小島さんともやたら仲いいしさぁ!」
「……は?」
さらに聞き捨てならないことまで言われておるよ。
え、どこが仲いいの? あいつらは俺以外の男と『ナカがいい』してたんやぞ?
「木村さんとは腕を組んで歩いてるところ見たし、暮林さんとはお昼を一緒に食べたりしてるし、小島さんとはいたるところで仲良く話してるじゃん!」
「……」
「そのうえこんなブロンドの美女二人をはべらせて歩いてるとかさあ! 何なの一体、自分がモテるところを周りにアピールして刺されたいわけ!?」
これは予想外だった。というか真方くんに全部見られてたとは思わなかったわ。
自分としては仲良くしていたつもりは全くなかったんだけど、真方くんに言われたことは心当たりしかないし、反論できねえ。
しかし
豊満なおっぱいとやや童顔な木村さん、国民的アイドルにも引けを取らないレベルで目鼻立ちがはっきりしている暮林さん、クールな切れ長の目と翳りを帯びたイメージの小島さん。好みの差はあれど、確かに三人とも素材だけで言えばSSRクラスである。
…………
そっかー、俺ってメンクイの部類に属する人間だったのか。今更だけど。
…………
いやいやいや、しかし刺されるとかぶっそうな発言する真方くんをそのままにしておくことできんでしょ。
「誤解も甚だしいぞ、真方くん」
「誤解!? どこが誤解!? 言っとくけど学部内の男もみんな、上村くんが誰とくっついてるのかいろいろ邪推してるからね!?」
「えー……」
まさかの学部内ヤローども全員敵に回している発言。そっかー、だから男の友人が全然できてねえんだな俺。かなしい。
「で、誰なの上村くんの本命は! まさかあちこちに手を出してるとか、誰も許さないよ!! いや、他の誰かが許しても僕が許さないよ!!」
「いや、本命もクソも……」
「本命はアンジェだよね、お兄ちゃん?」
「いや頼むからアンジェはちょっと黙ってろ……ん?」
立ち上がって弁解を再開しようとしたはいいが激昂がおさまらない真方くんの勢いに押され、俺が逃げるように遠くへ視線を移すと。
「おにいたーーーーん!!」
ぱたぱたとおぼつかない足取りで、こちらへ向かって駆けてくるようじょの姿が視界に入ってきた。
「ゆきちゃん!?」
ぽすっ。
そしてようじょは転びそうになりながら、俺の太ももへと抱き着いてくる。
「あ! おねえたんもいっしょだぁ! えへへぇ……」
満面の笑みをうかべるようじょは無敵である。アンジェはもちろんのこと、真方くんも毒気を抜かれたらしく、先ほどまでの勢いが表情から消え失せた。
少しして、保護者がゆきちゃんに追い付く。
「ゆきー、走ったら危ないでしょう……上村さん、こんにちは」
「ばーばさん……いらっしゃい。春祭、来てくださったんですね」
「あ、はい、まあ……ゆきが『おにいたん』に会いたがっていたので……」
なんとなく歯切れが悪く感じられる、ばーばさんこと久美さんの言葉。ゆきちゃんのために来たけど、本当は春祭に来たくはなかった、というようなニュアンスだ。
なにか問題でもあるんかな?
「おにいたん、きょうはゆきと、いーっぱい、あそんでくれるんだよね?」
「ぐはっ!!」
しかし、無敵のようじょは一切容赦なしで俺を攻めてくる。こんな天使のお願いを聞き入れない人間は、もはや人間ではない別の有機生命体に決まっているだろう。
「もちろんだ! ゆきちゃんいらっしゃい、春祭へようこそ。きょうはいっぱいあそぼうね!!」
「やったーーーー!! わーい!!」
はっは、真方くん。本命は誰かとさっき聞いてきたな。
では紹介しよう!
「彼女が俺の本命、木村優希ちゃんだ。真方くんもよろしくな」
両手を挙げて喜ぶようじょのテンションとは裏腹に、真方くんを含むまわりはなぜか静まり返っていた。
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