一日千秋、『いちにちちあき』ではない
小島さんはわりとあっさり夢の中へ行ってしまった。寝顔が割とだらしなかったので、ひょっとすると夢の中でイッてるかもしれない。
まあ不感症の加護が夢の中でも有効かどうかは知らん。無効ならば、絶頂体験は夢の中の身になってしまうのだろうから、まあせいぜいイキっぱなしにでもなってくれ。そのまま死んじゃう、死んじゃうとかじゃなければ許すぞ。
そういえば、キモホクロ間男をけーさつが確保したということは一応メッセージでジョーンズさんに報告はしておいたが、そのあとはなにか追加攻撃したんだろうか、あちらの方。
……ま、キモホクロマンは今さら逃げられないだろうから、あわてなくてもいい気もするけどな。自分勝手に行動した挙句、あちこちで子種をまき散らすような男は死ねばいいと思うし、たぶん物理的じゃない方向では死ぬというか詰んでる状況だろう。
だが、今後一番の問題で、しかも大事なのは、俺の小島さんに対する気持ち、かもしれない。
すぐ答えを出せないのは言うに及ばずとして。
……まじめに考えなきゃならないことが山積みだなあ。隣の成り行きはどうなったのかも気になるし。
―・―・―・―・―・―・―
小島さんはわりとあっさり寝落ちした。手を離してくれなくて困ったが、そこは起こさないよう無理やり離してやったわ。こういう時なら無理やりが許される。
そして暮林さんと剣崎さんはまだお取込み中らしい。二人がどんな話をしているのかは気になるところだが、まあ盗み聞きするのも人としてどうかとは思うので今回はスルーしとこう。
そこで気持ちを切り替え、とりあえず春祭へと向かう事に決めた。
「お兄ちゃん、はやくいこ!」
そして、アンジェの機嫌はすっかり直っていた、主にちんすこうのおかげで。安い妹で助かったわ。
しかし、問題はもう一つ。
「春祭に保護者同伴ってのがなあ……」
「なによ、悪さでもするつもりなの?」
「いや、そういうわけではないんだけど、精神的に」
「なら別にいいじゃない。なかなかこういう機会ないんだから」
「せやな。最後の家族の思い出として」
「あんたはフラグ立てるのやめときな」
そこでポカッ、とオカンに軽く殴られてうるせーな、と反射的に文句を言う俺ではあるが。
確かにここ最近家族そろってお出かけなどをする機会はなかった。たまにはいいかもしれない。
「ふむ、雄太もでっかくなったわね」
歩いて大学へ向かう途中、俺のわきに並んできたオカンが、こちらを見上げながらしみじみとそう漏らす。
「なによ突然。というかいつのころと比較してるんだよ」
「……十六年前くらい?」
「あほか」
ちなみに十六年前とは、俺とオカンが出会った頃のことだ。そしていろエロあってオヤジとオカンが再婚することになるのだが、まあそれはいま語ることでもないな。
「じゃあ、まあ、久しぶりに腕でも組もうかね」
オカンはオカンで、なんか悪ノリをするような顔になってる。
「おいやめろ当たってるから」
「当ててんだよ」
「全くうれしくない……って、アンジェまで反対側にしがみついてくんな」
オカンに腕を組まれるのもなんか恥ずかしいんだよ、この年になったら。妹も妹でアレだけど。
「いいじゃない、母さんは良くてアンジェがダメ、ってことはないでしょ?」
「……俺の両腕がふさがってて、不便なことこの上ないことは無視か?」
アンジェの対抗意識◎であった。そのせいか、アンジェが俺の腕をつかむ力がかなり強くこもってるわ。具体的に言うとパワー+60くらい。
しかし歩きづらいぞ、なんとかしてくれ。
「……上村くん、モテモテだね」
「んあ?」
あまりうれしくない両手に花状態で大学正門前まで到達する前に、誰かからドスの効いた声を掛けられた。思わず後ろを振り向いてしまうが、俺のことを名前で呼ぶ男など限られてる。
「……というか、素直にうらやましいんだけど」
あ、やっぱり真方のマコちゃんか。
いや以前にアンジェは妹だってちゃんと言ったはずなのに、このジト目な表情を見る限りじゃ信じてねえな。
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